乙女ゲームのモブに転生していると断罪イベント当日に自覚した者ですが、ようやく再会できた初恋の男の子が悪役令嬢に攻略され済みなんてあんまりだ

弥生 真由

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第2章 私はモブだったはずなのに

Ep.25 白銀の地へ・後編

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 今回の依頼地である北の果ては氷雪地帯。荒れた地形に加え強力な魔物の多い土地柄から馬車での移動は困難と言うことで、その土地の依頼を受けた場合はギルドにある転移魔法陣から北のギルドまで飛ばしてもらう形になるのだそうだ。

 と、言うわけで最低限の荷物と身分証代わりのプレートを持って集まったギルドの正面玄関に、リアーナ王女が立っていた。

「リア!?何でここに……っ」

「貴女にそれをお教えする筋合いはありませんわ。分を弁えなさい」

 驚いてそう駆け寄ったレイジさんを押しのけ、彼女は何故か私の真正面に立ち塞がる。ただならぬ雰囲気にガイアが少し庇うように身体をずらせば、『邪魔よ』と鋭い声音が飛んできた。

「いくら王族であり団員とは言え、約束もしていない場に現れて随分とご挨拶なのでは?」

「貴方こそ、黒の騎士だ何だと囃し立てられて調子に乗っているのではなくて?わたくしに意見がしたいのならば、それに伴う実力を見せて頂戴」 

「ーー……手合わせでもする気か?」

 ザワッと、周囲の木々が不穏に揺れる。
 剣の柄に添えられたガイアの手にさり気なく右手を重ねつつ、二人の間に入って膝を折った。

「……ご機嫌麗しく存じます、リアーナ王女殿下。わたくしに何か御用事でしたでしょうか?」

 ナターリエ様の時に再三学んだこと。相手が威圧的に来ている時ほど、令嬢は笑みを絶やしてはならない。
 にこやかに笑みを向けた私を見下ろすリアーナ様は、随分と虫の居所が悪いようだ。

「……見れば見るほど、華のない容姿ですこと。せめて衣類くらい名のある工房に作らせては如何が?」

 今私が着ているのは、オルテンシアに漂着した時に着ていた水色の地に桜の刺繍を施したワンピースだ。何が言いたいのか察した私達に、リアーナ王女が続ける。

「そのような手ずから仕上げた品を人前で纏うだなんて、貴族としてあ……『御言葉ですが、ご心配には及びませんわ』ーっ!」

「不躾にお話を遮ってしまい申し訳御座いません。ですが、私は自分の作品に矜持を持ち、想いを籠めて針を入れております。そうして仕上げた一着は、2枚と同じ物が無い特別なものとなるのです」

 『思いの籠もった作品には見目以上の価値があること、貴女様は良くご存知の筈です』と告げれば、リアーナ王女はバツの悪そうな表情で黙り込んだ。良かった、止められて。
 私を否定したくて刺繍に目をつけたのだろうけれど、そこを批難することはすなわち、彼女の慕う兄……ヴァイス殿下を否定することになってしまうから。それだけはいけないと、つい彼女の声を遮ってしまった。

「とっ、とにかく!要件を聞かせてくれない?転移陣は時間を示し合わせて発動しなきゃならないからもう出発がずらせないんだ。ねっ、二人も困ってるしさ!誘拐事件の方でまだ何かあった?」

 場を持ち直そうと無理に明るく声を張って、レイジさんがまだ怒りを滲ませているリアーナ王女とガイア(と、再びガイアの背に隠された私)を引き離す。
 暴言にもめげない幼なじみに毒気を抜かれたのか、リアーナ王女は少しばかり緊迫した空気を緩めてため息をついた。

「そちらに関しましては、孤児以外の市民を誘拐していた手立てがまだ解明出来ておらず捜査が難航している状況です。……ですが、そちらは我が国の騎士団に任せておけば宜しいわ。彼等は優秀ですもの」

 そっか、まだ完全に解決してなかったんだ……。と、そこで再びリアーナ王女が私を睨みつけた。

「事件解決の為、ヴァイスお兄様は同じくヴァルハラに狙われた国であるアストライヤの国王と情報のすり合わせを行っておりますの。近々、会談も行われる予定ですわ。愚かな事に王太子がヴァルハラに内通していた事も明らかになりましたので、我が国の後継者を選定し直さなければなりませんの」

「はい、聞き及んでおります」

「……白々しい女」

「えっ?申し訳御座いません、何か失言がありましたでしょうか」

「貴女はとんだ猫被りだと言ったのです!良いですこと?ただでさえ心労の多いお兄様をこれ以上惑わさないで、とっとと故郷へお帰りなさいな!その間の見張りの為、今回の依頼にはわたくしも同行致します!」

 首を傾いだ私をあろうことかビシッと指差しそう宣言して、リアーナ様は転移魔法陣のある部屋へと入っていってしまった。

「あの女、他国の王族だからと下手に出ていれば……!レイジ!どうして依頼の情報を流した!」

「ごめん!ヴァイス絡みで色々気を揉んでたみたいだし、市井のトラブルはギルドに任せて安心して欲しくて手紙を書いたんだけどまさかリアがあんなに暴走してただなんて……。依頼の間、これ以上リアがセレスティアちゃんに突っかからないように俺も気をつけて見とくから!」

 見張りが通したってことは多分陛下からも許可が降りているのだろうと、結局その場に彼女を止められる者は居らず。私達はリアーナ王女同伴で、白銀の地へ向かうこととなったのだった。














ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 転移魔法陣で辿り着いたのは、人面鳥ハーピーが住処とする雪山の麓……な、訳はなく。件の“白銀の紫陽花”が咲くという伝承の山より数キロ手前の小さな町の一角だった。この町から北に進み、名もなき村を2つ越えた先が目的地だそうだ。

「いやぁ、1つ目の村に行くのに魔物との戦闘やら吹雪やらでまず半日はかかると思ってたのに、この無効化マントのお陰で楽に2つ目の村まで来れちゃったね!セレスティアちゃん様々だよ~」  

「いいえ、私は戦いではあまりお役に立てないのでせめてと思って縫っただけですから」

 高位魔物は、高い魔力を持つ人間を好んで襲う。ならば逆に、魔力を完全に遮断してしまえば良いのでは無いかとガイアと相談して作ったマント。想像以上にお役立ちなので、アストライヤに帰ったら販売する予定だったりする。

 何にせよ、想定外に早く2つ目の村にたどり着けたので今夜はここで宿を取り、明日の早朝に現場に向かう流れになった。

「現地には既に討伐隊が居るはずだけど、彼等は大半が声を奪われてしまい魔法を使えない。だから依頼内容としては、ギルドの魔導士にまず声泥棒である特に強い人面鳥……要はボスクラスを討伐するか、無理そうなら声の結晶を取り返してほしいみたい」

「ボスクラスには何か特徴があるのか?」

「あぁ、それはね……」

 レイジさんとガイアが地図と図鑑を広げ会議をしているのをしっかり聞き終えた夕方。念の為携帯食と、怪我をした際の魔法薬を二手に別れて買い足すことになった。
 レイジさんとリアーナ様が携帯食、私達は魔法薬の担当になり、村長さんが紹介してくれた魔法薬の扱いがある酒場へ。

「おや……兄ちゃん達、異国の人かい?」

 片側の蝶番が外れかけた扉を抜けるなり、店主の男性がガイアの服装を見てそう尋ねてきた。
 確かにガイアが今着ているのは、アストライヤで騎士をしていた時の隊服だけど……。

「あぁ、訳あってアストライヤよりこの国に来ている。しかし店主、何故わかった?俺たちの故郷はこの国とはあまり交流がない筈だが……」

「なに、ちょっと前に来た旅人があんたのそれと良く似た服装をしていてな。その若造も異国から流れてきたと言っとったのを覚えていただけさ」

「あぁ、あの人面鳥に声を取られちまったって言ってた若い子かい?そういやあの子が来た日以降、急に村が魔物に襲われなくなったねぇ。白金ランクの魔導士様が降りた地にはなんかしらご加護があるのかも知んないね」
 
 注文した商品をまとめて現れた店主の奥さまの話を聞き、二人で顔を見合わせる。
 村に入る際、『こんな辺境の村なのに偉い高度な結界があるね』と呟いたのは、レイジさんだった。

「……っ!店主!その若者の特徴は!?」

「おっ!?何だ急に、知り合いか?生憎だが名は聞かなかったし、ご覧の通り店も暗くて顔立ちは見なかったからなぁ。あぁ、でもそうだ。奴さん、秋の木の葉のような紅い瞳をしていたよ」


    ~Ep.25 白銀の地へ・後編~

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