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第2章 私はモブだったはずなのに

Ep.24  白銀の地へ・前編

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「えっ、まだ滞在出来るの!?俺はてっきりもう帰っちゃうのかと……」

 両手いっぱいの餞別を抱えてやって来たレイジさんを、ガイアと二人で苦笑しつつ客間に受け入れた。

「あははは、早とちりしちゃったね~。どうしようか、これ……」

 部屋の片隅に積み重ねた大量のお土産達を、レイジさんが遠い眼差しで見やる。

「え、えぇと、生物は今頂いてしまうとして、他の品は後日国に送るようにしますね。簡単なものなら作れますし。丁度いい時間ですしお昼にしましょ」

「セレスティアちゃん料理するんだ。なんか本当にごめんね、かえって余計な手間取らせちゃって」

「いえそんな、お気遣いいただいて嬉しいですよ」

 部屋に備え付けられた小さめの厨房で私が料理にいそしむ間、ガイアとレイジさんはテーブルをセッティングしつつ今後の予定について話すことにしたようだった。
 料理の音で全く聞き取れないけど。









「まぁ俺もせっかちだったけどさぁ、滞在伸びたんなら言ってくれよなー。この餞別だって、半分はギルドの奴等が二人には恩があるからって大急ぎでかき集めたんだからさ」

「メイソン殿や他の皆には昨日あいさつしたよ。お前には丁度、今日にでも話しに行こうと思ってたんだが……それは悪いことをしたな」

「とは言え、やっぱ帰っちゃうの寂しいなと思ってたし嬉しいよ。で、なんで延ばしたの?」

 レイジのその問い掛けに、ガイアは拍子抜けしたように項垂れた。趣に首元に下げた白金プラチナの桜を取り出し、揺らす。

「お前……、俺が一度した約束を簡単に反故にして友人を見捨てるような奴だと思ってるのか」

「ーっ!」

 ギルドに加盟してすぐ、ガイアはレイジと約束をした。まだオルテンシアの地に不慣れなガイアの高位依頼解決に協力する代わりに、解決の回数条件を満たし次第、彼が受けたがっていた『白銀の紫陽花』の収穫を代理で受け、同行させると。

 誘拐事件だなんだでしばらく放置していたが、忘れていたわけじゃない。あと一件、二人でゴールドランク依頼をクリアすれば、晴れて目的地への切符が手に入るのだ。

 その旨を淡々と告げたガイアに、レイジが感極まった様子で飛びつく。

「友よ!!!」  

「止めろ暑苦しい」

 が、あっさり躱されそのまま大理石に突っ込むレイジであった。













「依頼の打ち合わせは済んだ?」

「いいや、それは今からだ」

 完成したお料理を手に戻ると、何故かレイジさんは床に突っ伏してシクシクと泣いていた。また塩な対応をしたのかしらと苦笑する私から『運ぶよ』とトレーを受け取りつつ,
片手間に風魔法でレイジさんを椅子に掛けさせる夫の器用さに舌を巻く。

「ガイアスの気持ちは嬉しいんだけどさ……件の事件の影響か、解決のあの日以降ギルドへの依頼自体が激減したでしょ?ましてや王都のギルドに来てた高位依頼はもう軒並み解決しちゃってたし。今更追加で受けれる依頼なんてある?」

 レイジさんも誘拐事件の事後処理に追われてしばらくギルドに顔を出せていなかったみたいだし、その疑問は最もだろうけど。幸い、昨日私達が今月の末には母国へ帰ることをご挨拶に伺った際にメイソンさんが一件、最適な依頼だとガイアに依頼書をくれたのだ。
 元々はギルドでなく、王立騎士団に依頼をされていたかなり手強い内容で、あまりに手が足りない事態からギルドにまで応援要請が来た一件なのだとか。

「それはまた珍しい……。人面鳥ハーピーの討伐がこんな大事になるなんて初めてじゃない?」

「そうなんですか?」

「うん。オルテンシアの人面鳥はちょっと変わってて、自分達の歌で人を惑わすんじゃなく、気に入った人間の声を奪ってしまうんだ」

 奪われた“声”は美しい結晶となり、人面鳥が持ち去ってしまう。取り戻すにはその結晶を持ち主が飲むか、規定の距離まで近づいて破壊すること。失敗すればその”声“は消失し、2度と返っては来ないという。
 しかし、現在では奪われた人の喉を調べて極めて元の声音に近しい人口声帯を作ってくれる医療機関があるそうで、あまり大掛かりな討伐はこれまで行われて来なかったのだそうだ。
 
「たまーに人間を直接襲う個体も居るけど、基本は声以外には手を出してこない魔物だったはずなんだけどなー……」

「その長らく討伐されずにいた期間を得て、何らかの形で生態系が乱れたのかもな。何にせよ、この依頼地はレイジの言う”白銀の紫陽花“があるエリアの目と鼻の先だ。悪くない条件だろう、どうだ?」

「あぁ、もちろん一緒に受けさせてもらうよ!っと、でも流石に今回は一日二日で戻って来れないよね。その間きみはどうするの?」

「一応、誘拐事件解決の件でランクを上げて頂いたので同行は可能なんですけど……」

 私のその言葉に、ガイアが心配そうに眉根を寄せる。

「かなり寒い地域だと聞くし、強力な魔物も多いようだ。あまり同行は勧めたくないが……」

「そうよね。足を引っ張っても悪いし、もし同行しない場合は二人が不在の間はヴァイス殿下がまた刺繍の話でもと仰って下さったし、私は王都で……」

 ガシャン、と。隣からした乱雑にカップを置く音に驚いて横を向けば、ガイアが見たことがない位複雑な表情をしていた。

「ーー……いや、一緒に行こう。するべきことが済み次第、俺達はアストライヤへ帰るんだ」

「え?でも……」

 『一緒に来るよな?』と、切望するようなガイアの眼差しに当てられ、私も二人と一緒に北の依頼地に向かうこととなったのだった。


    ~Ep.24  白銀の地へ・前編~


 

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