巡り巡って風車 前世の罪は誰のもの

あべ鈴峰

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第三十三集

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 沈天祐は同僚たちと親睦を深めようと 大学内にある店で食事をしていた。しかし、眉間に皺を作って料理を睨みつけていた。



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 どれもこれも美味しくない。
 食べられない事にイライラと皿を突きまわした。こんな不味い物を平気で食べるくらいなら腹が減ったままで良いと箸を置いた。
だが、同僚をはじめ他の者たちは気にする様子もなく食べている。よく食べれるものだ。私は早く帰って蓉蓉の飯を食べよう。
「天祐さん。天祐さん」
「んっ?」
名前を呼ばれて面を上げると同僚たちが注目している。私の返事待ちみたいだが……。ええと……何か聞かれていたな……。何だっけ? ああ、そうだった。
「それを一目見だけでスラスラ書くなんてとても人間業とは思えないですよ」
「どうやって習得したんですか?」
救いを求めるように皆が私を見る。確かに長い年月に忘れられた国の言葉も多い。
しかし、努力無しに実は結ばない。私も間者になる為に色んな国の言葉と文化を覚えた。
「ただひたすら勉強した」
「ええっー!」
「本当にそれだけ」
「結局、それしかないのか……」
「何をやっても上達しないんです~」
相当 手こずっているようだな。
私も外国語とは言わないが 方言のようなもので苦労した。……少し手助けするか。
「簡単だ。同じ話が書いてある竹簡を手に入れて比べれば。多少の違いはあっても大本は変わらない。言い回しが独特でも意味は同じ」
実は私もそうやって勉強した。
「成程……」
「まぁ、一番はその国の者に読み書きを教えて貰う事だ」
「そりゃそうですけど……」
「初皇帝が文字を統一してからでは誰も使ってませんよ」
そうだった。中華は一つになったんだ。感慨深い。そんな事が出来る人間が居るなど想像もした事など無かった。俊豪たちが知ったら自分たちが如何にちっぽけな事に囚われていたのかと思うだろう。出来ることなら初皇帝に一目会ってみたいものだ。


「それなら数をこなすしかない」
「えー」
「全く違う訳じゃないんだから、やれば出来る」
「………」
「そうなるわよねぇ~」
李水波が溜め息をつくように言った。するとそれが伝染するかのように周りの者も元気が無くなる。それを見てクスリと笑ってしまった。ちょっと前の私を見ているようだ。私だって王元が居なかったら張勇たちと同じように困り果てていただろう。だったら、私が皆の師になるしかない。これからずっと同じ仕事をするのだから借貸しを作っておいて損は無い。
「困った事があれば言ってくれ、協力は惜しまない」
そう言うと札を返すようにパッ、パッ、パッと皆が私を見た。
(もしかして待ち構えていたのか?)
小歌が小さく手を上げる。
「あの……」
「何だ」
「**の国の言葉も分かりますか?」
「ああ、分かる」
頷くと今度は張勇、韓正道。そして李水波と私に顔を向けて来た。
「じゃあ、**の国はどうです?」
「**の国? それは何時の時代かによる」
「**時代です」
「それなら大丈夫だ」
手伝ってもらえるかどうか次々と自分の担当の国を聞いてくる。幸いなことに今回は力になれそうだ。張勇が立ち上がった。えっ?と思っているうちに全員が立ち上がった。
「なっ、何だ!?」
「ああ、あなたは救世主です」
「待っていたんですよ。あなたのような人を」
「独学には限界を感じていたんです」
「これで残業無し帰れます」
皆が私を取り囲んで賞賛する。
私が何をしたか分からないが調子を合わせるように笑った。どうして私が救世主なのか知らないが出勤初日で受け入れて貰えたようだ。
「よしそうとなれば午後も頑張りましょう」
張勇が音頭を取ると皆が従った。
「おう」
「はい」
「了解」
そう言うと同僚たちがガツガツ食べ始めた。ノリについて行けず、それを天祐はポカンと見ていた。


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 容容は朝の仕事も終わり蓉蓉は自分の部屋でスマホ画面とにらめっこ。
今この家には私しか居ない。
そう自分にうなずくと画面に人差し指を押し付けた。ずっとソシャゲをしたいと思っていた。私にスマホなど一生無縁の物。そう思っていたのに……。めぐりめぐって私の元に来た。スマホの名義は天祐さんでも使用者は私。このスマホは自由に使って良いはず。
と言う事は、これはしろって言う天からの指示かも。検索画面にキーワードを入力すると画面にかわいいキャラクターが現れた。
今すぐタッチと私を誘っている。
チラリとドアを見る。大事なスマホで勝手にゲームしていいんだろうか? やはり迷う。でも、このゲームは無料だから、天祐さんに迷惑はかからない。大丈夫。天祐さんが居ない時間にすればバレル事も無い。だから、怒られない。
「………」
昔の人の天祐さんにゲームの楽しさを分かってくれるとは思えない。もしダメだと言われたら永遠に出来ない。
(ごめんなさい天祐さん)
心の中で謝ると震える指でタッチした。
(あー。押しちゃった)
後ろめたさを感じながらも喜びの方が強い。
ゲーム画面が出て来てアバターの名前を入力しながらアルバイト先で小耳にはさんだ
話を思い出した。
(本名じゃなくて良いらしい)
外国の名前が良いか、変な名前の方が良いかで、よく言い争っていた。実はその時、私も一緒に色々考えていた。
私は……マーガレット。

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 徐有蓉は夕闇に紛れて待ち合わせの場所に向っていた。足取りは軽く、気が急く。
向こうの時代でも何人もの男が私に傅いて貢いでくれていた。けれど彼以上の男は居なかった。金の使い方も私への接し方も彼は別格だ。寝ているだけで金が入ってくる。そう生まれながらの貴人。久々に会えると思うと恋しい気持ちが甦る。あの胸に抱かれたい。熱い夜を交わした日々が懐かしい。思い出して疼く体を抱き締めた。
私の一生をかけて尽くしたいと思った男……。計画の最後の最後で邪魔が入ってしまった。
ずっと連絡が取れなかったから心配したと怒るだろうか? それとも安堵して泣くだろうか? 想像すると口元が綻ぶ。

3の56

 容容は仕事で疲れたであろう天祐さんの為に腕によりをかけて料理を作っていた。
ドアの開く音にいそいそと玄関へ向かう。大学の職に就いて三日。ネクタイをゆるめながら入って来た。
「お帰りなさいませ」
「んっ」
鞄を受け取ると今日持たせた弁当を取り出す。重い……。好きなおかずを入れたんだけど口に合わなかったのかな?
(学食が不味いと言うので作ってきたのだけど……)
フタを開けるとほとんど手が付けられてない。何が駄目なんだろう。皆のように怒鳴ったり殴ったりしないけど不満があるのはその顔を見れば分かる。冷蔵庫から水を取り出している天祐さんに聞いてみることにした。
「美味しくなかったですか?」
「ん……。味は良いんだが……冷たい。硬い」
そう言って天祐さんが口をゆがめる。 
冷めても美味しい弁当。そう検索して作ってみたんだけど……。

 しかし、学食も弁当も駄目。毎日昼食抜きでは体に悪い。
(どうしたものか……)
何か良い方法はないかと考えている私の前で天祐さんが堂々とまだ皿に盛ってないおかずをつまみ食いしている。
よほどお腹を空かせているね。
でも…パチンと手を叩くと濡れた犬のような目を私に向けてきた。駄目だと首を振ると、更にしょんぼりした顔になった。
「………」
「………」
天祐さんには敵わない。箸を渡した。途端に元気になる。尻尾を振っているみたいだ。


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 仕事をしていた天祐は十二時のチャイムに手を止めた。それと同時にラインの通知が届く。
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