身代わり花嫁は妖精です!

あべ鈴峰

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 ビビアンは やっと妖精王に巡り会えたのに、怒りを買ってしまったらしいと困惑する。全く訳が分からないからだ。さっさと帰れと背を向けている妖精王を見ながら思案にくれる。
聞くべきか? 聞かざるべきか?
( ……… )

 結果、1日でも早く人間に戻りたいという気持ちが勝った。
「ところで、私は人間に戻れるの?」
そう背中に向かって質問すると、数拍 間があって "まだ、そこに居たのか"と 
意外そうな顔をする。
多分みんな 怒鳴られただけなのに、恐れをなして逃げっていったのね。
私は多少のことでは 引き下がらない。ふっ、他の人と一緒にしないでほしいと顎上げる。すると、妖精王を面白いと表情を和らげた。
(うっ、 ハンサムの微笑みは心臓に悪い)
やはり、この世のモノでないだけあって美形だ。
思わずドキリとしたが平静を装ってもう一度訪ねた。
「どうなの? もし知ってるなら教えて欲しいの」
「う~ん」
妖精様が左手で肘を支えた右手を口元に持っていく。考えてる妖精王の顔を見ながら、ビビアンは目まぐるしく頭を働かせて、妖精になってから今までの事を思い出していた。
大丈夫だ。ヘマはしてない。フィアナの二の舞は避けたい。
(神様、どうか お願いします)

ドキドキする気持ちで 答えを待つ。
「戻れるが、運命は変わっているぞ」
「変わっている? それってどういう事?」
返事はすぐに返ってきたが、予想した答えとは違っていた。
『運命が変わる』と言うその不吉な言葉に真っ青になる。
(私、何か失敗したの?)
体から力が抜けていく。ふらふらしながら近くの草に腰かけると、どうしようと頭を抱えた。両親の事を考えると泣きそうになる。
(人間に戻れても運命が…… 変わ……。んっ? 人間に戻れても……。戻れる?!)

悲観していたがハッとして顔を上げる。
「私、人間に戻れるの戻れる?」
「ああ、戻らる。だが」
そうだと妖精王が頷いたけど……。
『だが』?! という言葉に、その続きを予想する。しかし、残酷なことしか浮かんでこない。 ジッとその口元を見ているうちに、あの言葉を思い出していた。

“見えない何かが入れ替わった”

「お前たちが入れ替わったのは」
分かってると、先回りして言った。
「じゅ、寿命の事でしょ。寿命が入れ替わったのね! じゃあ、わっ、私は 7ヶ月 後に……しっ、しっ、死ぬって事!」
「 ……… 」
ビビアンは妖精王に飛びかかると、取り消してと 胸をポカポカと叩いた。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。
私は フィアナたちみたいに残りの時間を知ったまま生活できない。
「死にたくないわ! どうして私の寿命をフィアナと交換しなくちゃいけないの。今すぐ元に戻しなさい!」
「 ……… 」
叩きながらそう命令する。 

人間に戻って 帰ったとしても、そのことを両親に知られたら、今以上に残酷な 仕打ちになる。
(やっと帰って来た娘が7ヶ月後に死ぬとしたら)
 親より先に死ぬことが、最大の親不孝だと聞く。 ここに来て初めて、逃げ出したことを後悔した。
妖精王は止める事も反撃する事も無く、私のしたいようにさせていた。
倖せなフィアナが、もっと倖せになって、不幸な私が、もっと不幸になるのは不公平だ。
「どうにかしてよ……」
「 ……… 」
妖精王の胸倉を掴んで揺する。
50年とは言わない。せめて30年……10年でもかまわない。そこまで延命してほしい。

「何とか言いなさいよ!」
必死に頼んでるのに 黙ったままの妖精王に怒って胸を突き飛ばした。すると妖精王がバランスを崩して ナポレオンの背中から滑り落ちそうになる。
(強く押したわけじゃないのに……)慌てて引き戻そうと妖精王の服を掴んだ。しかし、体の半分が傾いていて自分も引きずられるような形で一緒にナポレオンから落ちてしまった。
痛みを覚悟して、ぎゅっと目を瞑る。

「痛たた?」
と言って起き上がったが、痛くない。なぜだと下を見ると妖精王が下敷きになっていた。
「ごっ、ごめんなさい」
慌てて降りると妖精王をに手を差し出す。不満そうな顔で私を見ていたが手を掴んだ。
「まったく、とんだじゃじゃ馬だな」
「ははっ」
そう言って 私は見ると、これ見よがしに服の埃を払う。
取り乱してしまった。
(ああ、これは嫌われてしまったわね。はぁ~どうしよう)
謝罪の意味も込めて、反省してますと妖精王のマントのほこりを一緒に払う。 すると唐突に妖精王が語り出した。
「お前は、死ぬ運命ではない」
「ほっ、本当に?」
「そうだ」
「やったー!」
人間に戻れて、長生きも出来る。
合わせた手を口元に持って首をすくめる。これで堂々と両親に会える。
(フィアナも喜んで…………)

 パッと妖精王の袖を掴んで、こっちを向かせる。
「ちょっと、待って! ……じゃあ、フィアナが死ぬって事?」
「そうだ。妖精のフィアナは人間のアルフォンと出会って死ぬ。 それが運命だ」
「そんな……」
いっぺんに色んな情報を 教えられても
全く頭が回らない。一生懸命、考えようとするけど、フィアナが 死ぬことだけが頭の中を駆け巡る。
脳裏に鮮やかにフィアナの微笑みが浮かぶ。 お母さんと楽しく会話をしているフィアナ。アルフォンとのデートの話をするフィアナ。 りんごの皮を剥いてくれるフィアナ。立派なレディになりたいと向上心をみせていたフィアナ。
(ああ、フィアナが……)
全身から力が抜けて行くように、その場にへたり込んだ。

「何だ。嬉しくないのか?」
「 ……… 」
自分が死ななくて良い。嬉しいことなのに、フィアナのことを思うと喜べない。友をひとり失うんだもの……。
「つまらぬことをするから 情が移るんだ」
ため息混じりに妖精王が、微かに首を振りながら呟く。
つまらぬこと? 入れ替わりのこと?
さっき『フィアナとアルフォンが出会って死ぬ』と言っていた。
待って! フィアナがアルフォンと出会って死ぬ?首をひねる。

「アルフォンの結婚相手である私が、とばっちりを受けて妖精になったの?」
「お前はとばっちりを受けてない。勝手に巻き込まれただけだ」
「はっ?」
まるで私が間抜けみたいな言い方だ。
ムッと自分の胸を叩いてこっちを見させる。私が逃げたからアルフォンとフィアナが出会った。私がきっかけを作ったんだ。フィアナが 人間なったのは掟を破ったせいだ。
「何言っているのよ。 私はアルフォンの 結婚相手なんだから」
「……さっき言っただろう。アルフォンは・妖精の・フィアナと・出会って・死ぬ」
妖精王が残念な子供を見るような顔で 私を見ていたが、一語一語区切りなが 同じことを繰り返した。
「………………同じでしょ」 
そう言うと妖精王が こめかみを押さえて首を振る。
「はぁ~。妖精のだ。妖精のフィアナだ。人間になる必要は全くなかった。お前が運命を変えてフィアナを人間にしたんだ」
「えっ? 私が?」
余りにも酷い言い分に 自分を指さすと妖精王がコクコクと頷く。

もし、妖精王の言う通りなら運命の相手はフィアナだ。
(だったらどうして、私との結婚話が浮上するのよ)
妖精王に向かって、その言い分は間違っていると指をふる。
「何言っているの! 妖精は人間に見えないはずでしょ。どうして結婚相手になるのよ」
「フィアナは 結婚相手じゃない。それと、見えるかどうかだが、先祖にひとりでも妖精と交わっていればその力がある」
「……なるほど……」、
アルフォンが、その血筋だったらありえる話だ。そう言われると辻褄が合っているような……。



レイはさっきから喧嘩腰で質問してくるビビアンに辟易していた。
「じゃあ、結婚相手じゃないのに 二人はどうしてで会うのよ」
「それは知らない」
「何よ。もう、いい加減なこと言わないで」
腕組みしてそっぽを向く。 怒っているのか さっきから羽が激しく動いている。 本当は知っているが、それはプライバシーにかかわる事項だ。
いくら王でも、ペラペラ喋るわけにはいかない。燃えるように赤い髪の毛は、その 気性を表してるかのようだ。部下だったらこれほど頼もしい者はいないが、敵となると これほど厄介な者
はいない。
300年前に会っていたら、何としても仲間にしたのに……。

 さっきの質問からして貴族の令嬢だろう。 ご多分に漏れず自己主張が激しい。

「人でも妖精でも持って生まれた運命がある。私がこの地に三百年囚われているのも運命だ」
そう言って自虐的に肩をすくめる。だけど口元が強張っている。同情されるのも、馬鹿にされるのも嫌だと言ってるみたいだ。私だって嫌だ。それだけ
ここに囚われていたのは不本意な事なのだろう。それを運命と言って無理矢理、自分を納得させているのだ。 気持ちは分かるが、諦めているその姿は惨めだ。
どうしても一言言いたい。

「随分、運命は都合がいいのね」
「なんとでも言え、いずれお前もそう思う日が来る」
自分に出来ないんだから、お前に出来
るはずがないと、上から言ってくる。
(はっ! 私はそう簡単に諦めないわ)
「だったらその運命を変えてみせる。人間を馬鹿にしないで」
ビビアンは覆してみせると、両手を腰に当てて妖精王を睨みつける。


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