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しおりを挟む必要な死
そんな言葉が10ヶ月ともにお腹の中にいた双子の妹から発せられるなんて思ってもみなかった。
あの場が危険なのはわかっているけど、それでも構わないと思った。
---バチン
ニアの頬を叩くと僕に叩かれたのが嫌だったんだろう。キッと睨みつけてきた。
「何すんのよ!疫病神!!!あんたなんて論外じゃない!!生まれてくることを望まれすらしてなかったんだから!!」
「僕のことはもうどうでもいいよ!!でも、人が理不尽な理由で亡くなってるんだ!!必要なんて言うな!!」
マリクの母は秘密を周りにバラすつもりなんてなかった。家族で仲良く暮らすだけでよかったんだ。
それを僕らの血の繋がった父が壊したんだぞ?
なのになんでそんな風に言えるんだ?
「ルイ、ありがとうございます。ルイは本当に優しい心を持ってる。そんなあなたの目の前でなんて、、、
でも、そうしないと私は18年前から進めないんです。」
「マリクさん、、、。」
「お、おい、落ち着けっ、、私たちは血が繋がっているんだぞっ!家族だろう?お前たちの弟や妹もここにはいるんだぞ?な?」
自分の身の危険を感じ、そんなことを口走るのか。あなたが家族という言葉を僕に、マリクさんに使うんですか?
側から見れば、ここにいるのは全員家族だ。
父に、母に、同じ髪色と瞳を持った兄弟6人。でも実際は違う。
マリクさんとその家族、僕を土台にして残りの人はふんぞり返っている。そんな状態を何年も繰り返してきたんだ。
今更、思ってないとしても、保身のためであっても「家族」だなんて言わないで欲しい。
僕にとってその言葉は特別だ。ずっと憧れていて、やっと、家族ができたんだから。
きっとマリクさんにとっても家族は特別。
だから、僕らのことを家族だなんて言わないで欲しい。
あぁ、僕にも恨みという感情があったんだな。マリクさんに聞かれた時に恨んでいないって言ったけど、恨んでないんじゃない。そう思う以前に僕は恨めしい、憎いという感情を分かっていなかった。
僕はちゃんと、ちゃんとこの人たちのことが憎い。憎くて仕方ない。
「・・・マリクさん、、、。僕、、」
「どうしましたか?ルイ。」
「僕、この人たちが憎いです。」
「・・・そうですか。私と同じですね。」
うん、同じ。
同じだったんだ。
「でもあなたは将来王妃になるんでしょ?私は騎士団に所属しています。血生臭いのは私に任せてください。それに、兄とは弟を守るものなんです。」
「マリクさん、、、」
「さっき言ったでしょう?ここが始まりの場所だと。私たちのこれまでは忘れることは出来ないです。だから無理やりスタート地点を作りましょう。ここをスタート地点にする。私もルイも今日この場所から新しく生きる。そう誓いませんか?」
スタート地点、、、。
新しく生きる。好きに、自由に生きる。
「マリクさんっ!僕誓う!僕、やりたいことができたからっ!!」
僕はルーチェの人間だ。サベルクに住んで、サベルクに家族ができたけど、ルーチェで生まれたルーチェの王族の血を引く人間だ。
ルーチェによって自由を奪われ、サベルクによって自由と愛を貰った。
そんな僕だからこそ出来るんじゃないかと思ってることがある。
この戦争はルーチェの完全敗北だ。そして、王族も無事では済まない。ならこの土地にいる人たちはどうなるんだろうと考えた。
ルーチェの王族は私欲で何人の人を傷つけてきたんだろう。僕やマリクさんのような人を何人、、、。そう思った。
セドがまだまだ僕は自由になりたてで好奇心の塊だと。だからこそ好きに感じて好きに生きることができる。みんなが気づかないようなことを気付けるんだよって言ってた。
あの小さな部屋で外に思いを馳せる僕はもういない。やりたいことを、やる。
「そうか。これが終わったら私にたくさんルイの話を聞かせてくださいね?」
「うん!マリクさんの話も教えてね!」
マリクさんにたくさん話をしよう。ルカのことも紹介するんだ。
ルカはさっきから僕もこの人と話がしたいって言ってる。ルカがやりたいこと言うなんて珍しいのに。
もう僕らは前を向いている。
今を見ることしかできなかった。未来という言葉の意味を記憶できても、それは靄がかかったように曖昧だった。
だけど今日からは違う。
自分でも気づかないうちに過去という、ルーチェという椅子に座ったままだったんだ。椅子に座ったまま前になんて進めないのに必死に進もうとしていた。
マリクさんが、僕を椅子から立たせてくれる。
マリクさんは僕の頭を撫でるとムーマとアイコンタクトをとった。ムーマは僕をその場から少し離す。これから何が起こるのか、それで分かった。本当は少し怖いから目を瞑りたいけど、目を逸らしてはいけない。
さっきからセドも国王様もレオ殿も、みんな黙って僕やマリクさんの動向を見守ってくれている。この国で起きた悲劇はこの国で終わらせる。
「そうだ!!ここには王妃や王女王子もいるではないか!!こいつら5人の首を差し出すから私を助けろ!!!」
目の前にいるのにそんなこと言うのか。自分の妻や子供を殺して自分を助けろと言うのか。
王妃もニアたちも信じられないと言う目で見ている。
マリクさん、僕たちの父親は信じられないほどの悪人だね。
最後の最後まで保身のために叫び続ける煩い口は閉ざされた。
胸に突き刺さったナイフによって。
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