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第五章 波乱巻き起こるムスタン王国
第十五話 その頃の王都
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無心で魔物を狩り続けていた俺はふと空を見上げた。
「……あ、もう夕方か」
空が夕焼けで赤く染まっている。そろそろ帰らないと。
あ、でもその前に今日の成果を見ておこう。
そう思い、俺は無限収納の中を確認する。
「えっと……お、大体30年分か。この時間でこの量なら結構いいな」
このペースで今後もどんどん増やしていけば、割とすぐにかつての貯蓄量に戻るだろう。そうなれば、また暫くは安心してレベル上げに没頭できる。まあ、フェリスにああ言われたから、ちょっとは自重するつもりだけど。
「ふぅ……戻るか。長距離転移」
俺は長距離転移を使って、俺の家に転移した。
「よっと……あ、トールか」
家のリビングにはトールだけがいた。エルメスとアレンはいない。恐らく、部屋にいるのだろう。さっき余り部屋にベッドを2つ置いて、2人で1部屋として使ってくれって言ったからな。今は、寝てるんじゃないかな?
今日は色々ありすぎて疲れているだろうから、そっとしておこう。
すると、トールが俺の方に視線を向けた。
「レインさん。帰ってきたのですね。そろそろ夕食を買いに行きたいので、またラダトニカへお願いします」
そう言って、トールは頭を下げる。
「分かった。ただ、夕食なのだが俺の分は買わなくていい。夕食は王都で仲間と一緒に食べるつもりだからさ」
「そうですか。分かりました」
「ああ。では、行くか。長距離転移」
俺はトールの肩に手を置くと、ラダトニカへと転移した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
一方その頃、王都では大規模な捜索が行われていた。
王都の出入りに利用されている4つの城門は完全に封鎖されており、王都にいる人は誰1人として外に出ることが出来ない状態だ。その逆もまた然りで、王都に来た人は中に入れず、立ち往生している。
王都中の人々には、王城内で起こった大きな事件の犯人を逃がさないためと、少しぼかして伝わっている。
封鎖は必要なことだとみな分かってはいるが、それでも全員がはいそうですかと素直に頷いているわけではない。重要な予定がこれのせいで狂った人がその筆頭だ。
現にそれら4つの城門下では、言い争いが勃発していた。
「急用があるんだよ! チェックならいくらでもやってくれて構わないから、ここを通してくれ!」
「無理だ。何があってもここを通すなって上から言われてんだよ! 通そうものならお前もろとも処罰されるぞ!」
「ならその上の人と話がしたい」
「今は例の凶悪犯罪者の捜索に出てて留守なんだよ!」
「あーもうどうすりゃいいんだよ!」
とまあ、こんな会話内容だ。
そして、それら全ての発端であるゼロスは、王城の自室でイラついていた。
「ちっ……まだ見つからないのか……」
現状動かせる人ほぼ全てを捜索に出しているのにも関わらず、手掛かり1つ出てこない。流石のゼロスも、この状況にはかなり焦っていた。
王都出入りの封鎖を長く続け過ぎれば、民から反感を買ってしまう。これから国王になる予定のゼロスにとって、それは避けたいこと。だが、今封鎖を解除したら、王都から逃げられてしまう可能性がぐっと上がってしまうのは容易に想像できる。
「これもアレンのせいか……」
ゼロスは苛立ちを露わにしながら歯噛みする。
トールとエルメスが脱走したことを聞いてから直ぐに、アレンが消えた。
ゼロスは、アレンが消えたタイミングから、トールとエルメスの脱走にはアレンが関わっていると思っている。
アレンは頭は良いものの、策略などには絶望的に向いていない。とてもじゃないが、あの状況で速やかにトールとエルメスと救い出せるわけがないとゼロスは思っていた。だからこそ、ゼロスはアレンを全くと言っていいほど警戒していなかったのだ。
ゼロスは、そんな判断を下した自身にも苛立つ。
「くそっ……こうなったら一刻も早く国王になるか。第二王子の肩書では、第一皇子のエルメスと真っ向から対立する事態になった時に、民に迷いが生じる。それではマズい」
そうして、ゼロスは国王になる準備を急ピッチで進めることを決めた。
それでも1週間はかかるが、流石に1週間でどうこう出来るわけがない。エルメスはそうほくそ笑んだ。
トントン
突然、部屋のドアがノックされた。
「入ってきてくれ」
ゼロスは入室を許可する。
するとドアが開き、資料を手にしたシルビアが入って来た。
シルビアは入室後に礼をすると、口を開いた。
「陛下暗殺に関する情報です。私が部隊を率いて調べてみたところ、王都内の複数個所で怪しい場所を発見いたしました。痕跡からして、恐らくそこで実行犯が待機していたのでしょう。明日には更に正確な情報と、実行犯が所持していたと思われる物をいくつかお見せできると思いますので、明日の11時に魔法師団の訓練場にお越しください」
シルビアの言葉に、ゼロスは内心ため息をつく。
(そんなの今はどうだっていい。それよりもやらなくてはならないことが山ほどある。だが、ここでシルビアの言葉を拒否するのは不自然だしな。仕方ない。信頼を少しでも得るためにも、ここは行っておくか)
「ありがとう。この短期間でよくそこまで見つけてくれたな。明日、そこへ向かうとしよう」
ゼロスは形だけの笑みを浮かべると、そう言った。
「もったいなきお言葉です。それでは、私はこれから更に調査をいたしますので、これにて失礼します」
シルビアはそう言って頭を下げると、部屋から出て行った。
「やれやれ。国王になるのも楽じゃないな」
ゼロスは体を伸ばしながらそう言う。そして、ベッドに倒れ込んだ。
「だが、国王になれば今まで出来なかったことが出来るようになる。今まで以上に贅沢することだって出来る。城を増築したり、新たに別荘を立てたり。だがそれよりも、俺はこの力を存分に使って、領土を広げたい」
そう言って、ゼロスはニヤリと笑う。
ここ、ムスタン王国では何百年も領土拡大を目的とした侵略戦争をしていない。
大きな国力を持つのに、それをほとんど使わず、腐らせていることをゼロスはもったいないと思っていた。折角力があるのなら、それを上手く使うべきだと。
上手く使い、領土を広げ、ムスタン王国を更なる強国にすることこそが、ゼロスの夢なのだ。
「……あ、もう夕方か」
空が夕焼けで赤く染まっている。そろそろ帰らないと。
あ、でもその前に今日の成果を見ておこう。
そう思い、俺は無限収納の中を確認する。
「えっと……お、大体30年分か。この時間でこの量なら結構いいな」
このペースで今後もどんどん増やしていけば、割とすぐにかつての貯蓄量に戻るだろう。そうなれば、また暫くは安心してレベル上げに没頭できる。まあ、フェリスにああ言われたから、ちょっとは自重するつもりだけど。
「ふぅ……戻るか。長距離転移」
俺は長距離転移を使って、俺の家に転移した。
「よっと……あ、トールか」
家のリビングにはトールだけがいた。エルメスとアレンはいない。恐らく、部屋にいるのだろう。さっき余り部屋にベッドを2つ置いて、2人で1部屋として使ってくれって言ったからな。今は、寝てるんじゃないかな?
今日は色々ありすぎて疲れているだろうから、そっとしておこう。
すると、トールが俺の方に視線を向けた。
「レインさん。帰ってきたのですね。そろそろ夕食を買いに行きたいので、またラダトニカへお願いします」
そう言って、トールは頭を下げる。
「分かった。ただ、夕食なのだが俺の分は買わなくていい。夕食は王都で仲間と一緒に食べるつもりだからさ」
「そうですか。分かりました」
「ああ。では、行くか。長距離転移」
俺はトールの肩に手を置くと、ラダトニカへと転移した。
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一方その頃、王都では大規模な捜索が行われていた。
王都の出入りに利用されている4つの城門は完全に封鎖されており、王都にいる人は誰1人として外に出ることが出来ない状態だ。その逆もまた然りで、王都に来た人は中に入れず、立ち往生している。
王都中の人々には、王城内で起こった大きな事件の犯人を逃がさないためと、少しぼかして伝わっている。
封鎖は必要なことだとみな分かってはいるが、それでも全員がはいそうですかと素直に頷いているわけではない。重要な予定がこれのせいで狂った人がその筆頭だ。
現にそれら4つの城門下では、言い争いが勃発していた。
「急用があるんだよ! チェックならいくらでもやってくれて構わないから、ここを通してくれ!」
「無理だ。何があってもここを通すなって上から言われてんだよ! 通そうものならお前もろとも処罰されるぞ!」
「ならその上の人と話がしたい」
「今は例の凶悪犯罪者の捜索に出てて留守なんだよ!」
「あーもうどうすりゃいいんだよ!」
とまあ、こんな会話内容だ。
そして、それら全ての発端であるゼロスは、王城の自室でイラついていた。
「ちっ……まだ見つからないのか……」
現状動かせる人ほぼ全てを捜索に出しているのにも関わらず、手掛かり1つ出てこない。流石のゼロスも、この状況にはかなり焦っていた。
王都出入りの封鎖を長く続け過ぎれば、民から反感を買ってしまう。これから国王になる予定のゼロスにとって、それは避けたいこと。だが、今封鎖を解除したら、王都から逃げられてしまう可能性がぐっと上がってしまうのは容易に想像できる。
「これもアレンのせいか……」
ゼロスは苛立ちを露わにしながら歯噛みする。
トールとエルメスが脱走したことを聞いてから直ぐに、アレンが消えた。
ゼロスは、アレンが消えたタイミングから、トールとエルメスの脱走にはアレンが関わっていると思っている。
アレンは頭は良いものの、策略などには絶望的に向いていない。とてもじゃないが、あの状況で速やかにトールとエルメスと救い出せるわけがないとゼロスは思っていた。だからこそ、ゼロスはアレンを全くと言っていいほど警戒していなかったのだ。
ゼロスは、そんな判断を下した自身にも苛立つ。
「くそっ……こうなったら一刻も早く国王になるか。第二王子の肩書では、第一皇子のエルメスと真っ向から対立する事態になった時に、民に迷いが生じる。それではマズい」
そうして、ゼロスは国王になる準備を急ピッチで進めることを決めた。
それでも1週間はかかるが、流石に1週間でどうこう出来るわけがない。エルメスはそうほくそ笑んだ。
トントン
突然、部屋のドアがノックされた。
「入ってきてくれ」
ゼロスは入室を許可する。
するとドアが開き、資料を手にしたシルビアが入って来た。
シルビアは入室後に礼をすると、口を開いた。
「陛下暗殺に関する情報です。私が部隊を率いて調べてみたところ、王都内の複数個所で怪しい場所を発見いたしました。痕跡からして、恐らくそこで実行犯が待機していたのでしょう。明日には更に正確な情報と、実行犯が所持していたと思われる物をいくつかお見せできると思いますので、明日の11時に魔法師団の訓練場にお越しください」
シルビアの言葉に、ゼロスは内心ため息をつく。
(そんなの今はどうだっていい。それよりもやらなくてはならないことが山ほどある。だが、ここでシルビアの言葉を拒否するのは不自然だしな。仕方ない。信頼を少しでも得るためにも、ここは行っておくか)
「ありがとう。この短期間でよくそこまで見つけてくれたな。明日、そこへ向かうとしよう」
ゼロスは形だけの笑みを浮かべると、そう言った。
「もったいなきお言葉です。それでは、私はこれから更に調査をいたしますので、これにて失礼します」
シルビアはそう言って頭を下げると、部屋から出て行った。
「やれやれ。国王になるのも楽じゃないな」
ゼロスは体を伸ばしながらそう言う。そして、ベッドに倒れ込んだ。
「だが、国王になれば今まで出来なかったことが出来るようになる。今まで以上に贅沢することだって出来る。城を増築したり、新たに別荘を立てたり。だがそれよりも、俺はこの力を存分に使って、領土を広げたい」
そう言って、ゼロスはニヤリと笑う。
ここ、ムスタン王国では何百年も領土拡大を目的とした侵略戦争をしていない。
大きな国力を持つのに、それをほとんど使わず、腐らせていることをゼロスはもったいないと思っていた。折角力があるのなら、それを上手く使うべきだと。
上手く使い、領土を広げ、ムスタン王国を更なる強国にすることこそが、ゼロスの夢なのだ。
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