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第四章 王都観光

第二十四話 作業厨、謁見する

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 ソファの横で、ニナは左膝をつき、左手を胸にあてて、頭を下げる。

「どうかしら?」

「ん~……いいと思うぞ。素人目だが、少なくともそれで文句を言われることはないな。宰相も、多少間違っていても咎めないって言ってたし」

 ニナの作法に、俺は評価を下す。まあ、評価って言うほどのものでもないけどね。
 すると、客室のドアが開き、老執事が入って来た。

「レイン様。ニナ様。謁見のお時間です」

 ついに、謁見の時間がやってきた。
 微かにある緊張感を抑えてから、俺は立ち上がる。

「それでは、私ついて来てください」

 老執事は頭を下げると、くるりと背を向け、歩き出した。
 俺とニナは、老執事のあとに続くようにして、客室を出た。
 相変わらずきらびやかな城内を歩き、1つの大きな扉の前で立ち止まる。

(でっけぇな。この扉)

 流石は謁見室の扉。とにかく豪華ででかい。
 王城に来てからずっと思ってたんだけど、王城にあるものってやたらとでかいよな。
 ロマンがあるな~と思う一方で、利便性に欠けるな~と思ってしまうのは俺だけだろうか。
 すると、扉がギギギ……と開いた。中は、相変わらず豪華の一言に尽きる。
 謁見室の両側には合わせて30人ほどの貴族らしき人と、護衛の騎士が10人ほどいる。みな、露骨ではないが、俺とニナを興味深そうにと言うか、品定めをするような目で見てくる。
 そして、部屋の奥にはひときわ豪華な椅子に座る1人の男性がおり、その後ろにはさっき会った宰相のトールがいた。そして、その2人を守るようにして、両側に白銀の鎧を着た騎士が2人いる。2人とも、俺が見た人の中では断トツに強いな。

「それでは、前へお進みください」

 老執事の言葉で、俺とニナは前へと歩き出した。
 レッドカーペットの上を歩き、絨毯の切れ目で止まる。流石のニナも緊張していたので、そっと魂を落ち着かせる闇属性魔法、鎮魂ちんこんを使って落ち着かせる。
 その後はトールに言われた通り、左膝をつき、左手を胸にあてて、頭を下げた。
 そして、国王の許しを待つ。

「レイン。ニナ。頭を上げよ」

 前方から低めの男性の声が聞こえてきた。威圧感を――いや、威厳を感じる。
 その声に応じて、俺は顔を上げた。
 そこにいたのは、豪華な服を着て、頭に王冠を乗せた金髪碧眼の初老の男性だ。

「余はムスタン王国国王、グレリオス・フォン・レオランド。ムスタン」

 やはり、この男性が国王だった。
 グレリオスは続けて言う。

「皆も知る通り、半月ほど前にメグジスが邪龍の加護を受けた魔物の群れに襲撃された。帝国を襲った魔物より数は少ないが、それでも街1つは容易く滅ぼせるほどの戦力だ。だが、そこにいるレインとニナのお陰で、被害をほとんど出すことなく討伐できた。故に、私から感謝の言葉を述べよう。メグジスを――我が国を守ってくれたこと、感謝する」

 国王の感謝の言葉と同時に、周囲から拍手の音が聞こえてくる。
 ん~……意外と称賛されるものなんだね。
 さて、この調子で終わってくれるといいんだけどなぁ……

「そなたらには褒美をとらそうかと思っている。褒美はなるべくそなたらが望むものを与えるつもり故、後ほどそなたらと相談して決めようと思う」

 お、こっちで褒美を決められるのか。
 こういうのって国にとって都合がいい褒美をこの場で言って、半ば強制的に押し付けてくるものだと思ってたけど、違うんだな。
 まあ、そうなったら上手いこと回避するつもりだったけどね。「私はその褒美を受け取れるほどの実力はありません」とでも言えば断われるだろ。

「話は以上だ。彼らを客室へと案内してくれ」

 国王の言葉で、先ほどの老執事が俺のところに来た。

「それでは、私について来てください」

 老執事の言葉で俺とニナは立ち上がると、そのまま老執事に連れられて、謁見室を出た。

「……ふぅ」

 謁見室を出て、城内を歩く俺は軽く息を吐いた。
 いや~思ってたよりもずっと短かったな。
 謁見って、堅苦しいものがずーっと続くものだと思ってたけど、蓋を開けてみればこの通り。ものの数分で終わってしまった。
 まあ、平民相手に長ったらしくしゃべる国王って想像つかんしな。
 そんなことを思いながら場内を歩き、客室にたどり着いた俺はソファに座った。ニナも、俺の横に座る。
 その後、老執事が去って、少ししたところでニナが声を上げた。

「あ~緊張した~」

 ニナはテーブルに手をつき、少し前かがみになると、そう言った。

「俺は緊張というよりは、どんな対応をされるか心配していた」

 俺の手にかかれば大抵のことは対応できる。
 だが、国王が俺に対処できないような対応をしてきたらどうすればいいのか。それが気が気でなかったのだ。

「あ~そっちの心配ね。まあ、分からなくもないわ。国王の言葉で割とどうとでもなっちゃうからね。私たちは」

 ニナはそう言うと、ため息をつく。
 その後も暫く話をしていると、客室のドアが開いた。
 そして、国王ことグレリオスと宰相のトールが、2人の白銀鎧の騎士と共に入って来た。
 立ち上がろうとしたが、それをグレリオスが手で制す。

「座ったままでよい。余は堅苦しいっことが苦手なのだ」

 グレリオスはそう言うと、俺と対面するようにソファに座った。そして、ソファの後ろにトールが立ち、ソファの両側に騎士が立った。

「では、早速だが聞こう。何か欲しいものはあるか? 遠慮なく言ってくれ。余が国王だからと本心を押し殺されるのは不愉快なのでな」

 グレリオスはやや軽めの口調でそう言った。聞いた感じ、こっちが素っぽいな。

「あ、はい。私はお金が欲しいです。いくらあっても困りませんからね」

 ニナはやや遠慮がちにそう言った。
 なるほど。お金か。
 まあ、無難だな。

「あい分かった。金は後程冒険者ギルドの方に振り込んでおくから、そこで確認するといい」

「ありがとうございます」

 ニナはそう言って、頭を下げる。
 よし。次は俺の番だな。

「俺は城内の書庫に入る許可が欲しいです」

 俺はグレリオスに望みを言った。
 国立図書館で知ったのだが、ここ、王城にはより貴重な本が収められている書庫があるらしい。だが、そこに入れるのは国王に直接許可をもらった人のみ。
 断られる可能性の方が高いと思うが、言うだけ言ってみよう。そう思ったのだ。

「うむ。勤勉なのはよいことだ。許可する」

「!? ……ありがとうございます」

 思いのほかあっさりと許可を貰うことが出来た。
 ちょっと意外だな。
 そう思っていると、グレリオスが口を開いた。

「そんなに意外だったか? 別にあそこにあるのは何も公にできないものという訳ではない。王城にある手前、ほいほいと見せられないだけだ」

 あーなるほど。なるほど。そういう感じのやつね。
 確かに王城の書庫にある本を誰彼構わず見せるのは国としてマズいよね。

「では、次に余からそなたらに頼みたいことがある。どうか、我が国に仕えてくぬだろうか?」

 いきなり、グレリオスから仕官の申し出が来た。
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