夏の夜の夢、その顛末。

栗木 妙

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 ――美味いんだけど……どうにも一本じゃ物足りないんだよなあ……。
 所詮は小さな棒アイスのこと、瞬く間に食べきってしまい、残った棒を咥えたまま何気なくハルマの方に目を遣ると。
 あろうことか、ヤツのアイスは、ほとんど減ってはいなかった。
 何故だ!? と驚き、そのまま見ていると。
 ハルマの視線は手元のスマホに落とされていて、アイスの方なんて見向きもしてない。だが時折、思い出したように手が動き、アイスを口許に持って行く。そして、ぺろりと舐める。もしくは、噛み付かずにアイスの上部あたりをかぷっと唇で咥えるように舐める。それを何度も繰り返している。…そら減らないワケだ。よもや棒アイスをソフトクリームか何かと間違えていやしないかコイツ?
 考えてみたら、棒アイスを食べるハルマを目にしたのは、これが初めてかもしれない。アイスを食べている姿なら何度も見てきたはずだが、いつもカップからスプーンで掬って、お上品に、それでいて美味そうに満面笑顔で、食べていたっけか。そういう、好物を幸せそうに食べている姿がコイツ意外に可愛いんだよなあ、なんて、そのたび微笑ましく眺めていたものだった。
 しかし、この熱帯夜にエアコンも無い、まさに蒸し風呂状態な部屋の中、剥き身の棒アイスなんざ、すぐに表面から融けてくる。現に俺の目にも、今しも滴り落ちそうな融けかけのアイスの姿が見えている。
 なのにハルマは気付かない。スマホの画面しか見ていないから。
 滴ったアイスが手にまで伝って、ようやく気付くとか……どんだけだ。
「あっ、クッソ、だからこういうアイス嫌いなんだよチクショー……!」
 さっさと食っちまわない己こそが悪いというのに、それをアイスの所為にするとは如何なものか。
 そもそも、表面ちまちま舐めてるから融けてくるのも早くなるんだということが、どうしてわからないのだろうコイツは。
 何か不思議な生き物でも見るような視線で、俺は食い入るように慌てふためくハルマを見つめてしまっていた。
 どうしてか、目が離せない。
「ったく、あちこちべとべとになるしー……」
 そしてハルマは、アイスの滴っている部分を、ぺろりと大きく舐め上げた。
 ついでに、その滴りで汚された手も、ぺろりと。


 ――どくりと、全身の血がざわついたような気がした。


 それを目にした瞬間、妙に高揚感に襲われた。
 無意識に身体が動いていた。
 咥えたままのアイスの棒を取り落とし、卓袱台に手を突き大きく身を乗り出して……気が付いたら俺は、ハルマのアイスを持った手を掴み、その身体ごと自分の方へと引き寄せていた。


「な…なんだよ、いきなり?」
 やはり卓袱台の上に身を乗り出したハルマの、その驚きに見開かれた目の前に。
 掴み寄せた彼の手を持ち上げ、融けかけたアイスを掲げる。
「…ほら、舐めろよ」
「え……?」
「早くしないと、またすぐに融けてくるぞ。ほら」
 掴んだままの手ごとアイスを口許に近付けてやると、どこか腑に落ちない顔をしながらも、ハルマは黙ってアイスを舐め始めた。
 そこに自分の顔を近付ける。
 そして俺もまた、それをべろりと大きく舐め上げた。


 何故いきなりそんなことをしたのか、自分でもよくわからない。
 衝動、だとしか、言いようがない。


「――――!!?」


 驚きの所為か、咄嗟にハルマが頭を引いた。
 でも、それ以上離れることは、掴み寄せた手が赦さなかった。
 そのまま俺は、彼の手に滴ったバニラの雫を舐め上げる。
 ビクリと震えて逃げようとする手を、掴んだまま逃がさず、執拗に舐め上げた。
「おまえも早く食えよ。また融けて垂れてくるだろ。それとも、このままアイス無駄にする気か?」
 どことなく上目遣いで、命じる。
 彼が逆らわないと……何故だろう、俺にはそれが解っていたのかもしれない。
 恐る恐るといった風に、再びアイスに舌を這わせる彼に合わせ、俺もそこを舐め上げてゆく。一本の棒を挟むように二つの舌が這い、徐々にアイスを削り取っていって……やがて、互いのひんやりとしたそれが触れ合う。
 ざらりと冷たい触感が劣情を煽り、もっともっととそれを求めてしまう。求め始めたら止まらなくなって、いつしか対象が、アイスから相手の舌へと変わっていた。
 それが次第にキスへと変わってゆくのにも、そう時間は要らなかった。息継ぎの間すら惜しいとばかりに、唇の繋がりを解かないまま、より深く奥まで舌を挿し入れては、中を探りながら、互いのそれを淫らに縺れさせながら、次第に快感を高めていく。
 赦されるなら、このまま永遠に時が止まってしまえと願った。
 しかし、息の上がったハルマが、それを赦してはくれなかった。
「――どう…して……」
 ひととき唇を離した隙に、差し挟まれた言葉。
「こんなこと、なんで、いきなり……」
「さあ? どうしてだろう」
「誤魔化すな……!」
「別に、誤魔化してるワケじゃない」
「じゃあ、何の嫌がらせだよ! 幾らオレがオマエのこと好きだからって、突然ワケもなくこんなことされて、喜ぶとか本気で思ってんのかよ!」
「―――は?」
「それとも、からかってんのか? こうやって狼狽えるオレを見て嘲笑いたかった? じゃなきゃ、所詮ホモはこういうことされたいんだろ、って下に見てんのか? ――ざっけんな……!!」
「て、おいハルマ、ちょっと待てよ、つか落ち着け……!」
 次第に激昂していくハルマの、そうしながら逃げようとする身体を、半ば押さえ付けるかのように掴み寄せ、卓袱台の上に押し付ける。
「勝手に一人合点してねえで、俺にもまず確認させろっ……!」
 そうして固定した彼の視線を捕らえ、俺は尋ねた。


「てか、初耳なんだが……オマエ、俺のこと好きなのか?」



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