夏の夜の夢、その顛末。

栗木 妙

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「『夏の夜の夢』の、この四人の関係性を再現させる、ってどうかな。カノジョに少々の嫉妬をさせるような状況を作れば、怒りを鎮めてショータとヨリを戻そう、って思い直すキッカケになってくれないだろうか」
 そこまで聞いて、何となく俺にも合点がいった。
「成程。つまり、ショータがライジンガーで、カノジョがバーバラ……」
「ライサンダーとハーミアな。――てか、名前この際どうでもいいわ。男Aと女Bが恋人同士、女Bの婚約者が男C、男Cに惚れているのが女D。以後これで」
「…つまり、ショータが男A、カノジョが女Bとして、そこに男Cと女Dを投入、男A、男C、女Dによる三角関係を作り、女Bに見せつけるような状況を作ればいい、と」
「さすがコーチ、飲み込みが早い」
「だが下手したらそれ、カノジョの怒りの火に油を注ぐことにもなりかねないんじゃないか?」
「そこは君が上手いこと立ち回ってくれれば問題ないだろ。なあ男Cくん」
「――はア!?」
 あまりにサラリと付け加えられて、思わず聞き流してしまいそうになったが……それは聞き捨てならんと、俺も卓袱台へと身を乗り出し食ってかかる。
「ちょっと待てよ、なんで俺が男Cとか……!」
「その無駄に良い顔、たまには有効活用したらどうだよ」
「どこに顔が関係する要素あったよ!?」
「まあ、ショータのためだし頑張れー」
「どこまでも他人事だと思ってからにテメエは……!!」
 ニヤニヤと口許ゆるみっぱなしでそれを言う、明らかにからかう気マンマンなハルマに少々イラッとはしたものの。
 しかし咄嗟に浮かんだ反撃の妙案に、一転ほくそ笑んで正面を見返す。
「いいだろう、ショータのためになるならば、俺が男Cを演じることにも吝かではない」
「お、さすがコーチ、腹の括り方も潔いねェ」
「であれば、オマエも当然、女Dだからな!」
「―――はい……?」
「考えてもみろ、女D役にどこぞの女でも宛がったら、それこそカノジョの怒りが大炎上することが目に見えてるだろうが。たとえ上手く収まってくれたとして、後々の禍根ともなりかねない。だがしかし、女D役がオマエだったらどうだ? 自分のカレシの惚れた相手が男、となれば、それこそ喜劇だ。怒るより先に唖然とするだろう。そこが狙い目だ。あのショータでも、そこを突けば何とか出来そうなものではないか? となれば、やはり女D役はオマエが適任だハルマ」
「な、なっ……はああああああッ!?」
「頑張ってショータとオマエを取り合ってみせるぜ。楽しみにしてろ、マイハニー」
「…………!!」
“してやったり!”と、我ながらニマニマ口許が緩みっぱなしなのが、手に取るように分かる。
 こんな俺の様子を目の当たりにしては、さぞかし勢いこんで反駁してくるだろう――と思いきや。
 しかしハルマは、何も言わずに黙りこくったまま。しかも、その顔は真っ赤だ。
 さすがにその反応は想定外で、拍子抜けというよりも面食らう。
 思わず、どこか具合でも悪いのかと心配になってしまった。
「どうした、ハルマ?」
 更に身を乗り出して覗き込んだ、そんな俺の姿にハッとしたように、その身体が勢いよく後ろへと引かれる。
「なっ、なんでもないしっ……!」
「そうはいっても、オマエ顔赤いぞ。熱でもあるんじゃ……」
「大丈夫だし! 暑いだけだし!」
 そこで思い出したように、ハルマが襟元をくつろげる。仕事上がりで飲みの席へと来ていた彼は、緩めてはいたものの、まだタイもきっちり締めていた。
「ホントこの部屋、暑すぎなんだよな……!」
 どこか怒ったような口調になって、しゅるりと音を立ててタイを外す。それから、くつろげたシャツを摘まみ、ばふばふと胸元へ風を送り込んでみせた。
 暑い所為だと言われれば……エアコンもない部屋の主として、多少は申し訳なくも感じてしまうではないか。
「…冷凍室にアイスあるけど」
「なんだよ、それ早く言えよ!」
 まだ、食べていいとも何とも言っていないというのに……勝手知ったるハルマは、一目散に冷蔵庫へと向かっていく。なんだかまるで、この場から逃げるかのように。
 そして間もなく、お目当てのものを手にして戻ってきた。
 だが何故かその表情は曇っている。
「よりにもよって、なんで本塁打バー……」
「好きなんだよ悪いかよ。てか、本塁打バー馬鹿にすんなよ。美味くて安くて当たり付き、っつー、これぞ庶民の味方なんだからな」
「庶民の味方すぎて、こちとら子供の頃に食い飽きてんだっつーの。せめてバーゲンダッシュ置いておけよ気がきかねーな」
「そんな贅沢する余裕があるならエアコン買うわ馬鹿者めが」
「あーあ、バーゲンダッシュ食いたかったなー抹茶とかなー」
「文句言うなら食うな」
「何も食わないとは言ってない」
 あれこれうだうだ言いながらもぺりぺりと包みを剥がしているハルマを横目に眺めやり、そろそろぬるまってきたビールを喉へと流し込む。
 そしてカラにした缶を脇に置くと、俺の分だと手渡されたアイスの包みを剥がし、かぶりついた。
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