5 / 5
[5]
しおりを挟むその問いを投げた途端。
まさに火が点いたかの如く、ハルマの頬がぶわっと赤く染まる。おまけに、“何でそれ知ってるの?”とでも言いたげな表情になって、口をぱくぱくと開け閉めしながら唇をわななかせている。
やはり、さきほどの告白は、彼の意図していないところから無意識に発されていた言葉だったらしい。それほどに動揺していたんだろう。
だが、だからこそ真実であることを、それは雄弁に語っている。
「驚いたな……」
「ごめん……男からそんなふうに思われても、気持ち悪いだけだよな……」
「いや、別段そういった感情は無い」
「え……?」
いったん項垂れかけていた頭が、弾かれたように持ち上がる。
改まったように、今一度まっすぐに彼の視線を捕まえて、俺はそれを答えた。
「気持ち悪いどころか、むしろ今、満更でも無い気分だ。ハルマから想われていることが、素直に嬉しいと思うぞ」
「…………」
「俺の方にしたって、衝動的にああいう行動に及んでしまうくらいには、オマエのことは好ましく思えていたワケだし……てことは、どういうことだ? 俺もホモなのか? だからオマエを好きだ、ということになるのか?」
「それオレに訊かれても……」
「じゃあ……もう一回、確かめてみればいいか」
呟くように言いながら、おもむろに押し付けていたハルマの身体を、抱え込むように引っ張り寄せた。
「え、なに……?」
彼に問う隙すら与えず、すかさず卓袱台から引き剥がし、畳の上に転がす。
と同時に、問答無用でキスをした。
仰向けでビクリと震えるハルマの肩のあたりを、押さえ付けるようにして逃がさない。そうして心ゆくまで、その唇と舌の柔らかさと、そして口内のバニラ味を、存分に味わう。くちゅくちゅとした、はしたない水音に煽られるかのように、より深く溺れたいと乞う想いが暴走する。
それは、まぎれもない情欲に他ならなかった。
「――もう……何が何やら、展開が早すぎて頭が付いてけない……」
まさに、息も絶え絶え、といった体でそんな呟きを洩らしたハルマに向かい、俺は何事でもない風に応えてやる。
「おおかた、悪戯好きな妖精に惚れ薬でも盛られたんだろ」
*
真夏の熱帯夜に見る夢は、どうやら一夜限りでは醒めないようだ。
暑さに浮かされて始まったような関係でも、意外に冷めはしないものだな。ぬるま湯に浸かっている日々も、存外、悪くはない。
そうそう、件のショータとそのカノジョについてだが。
俺たちが『夏の夜の夢』作戦を敢行するまでもなく、早々に『春の夜の夢のごとし』と散ってしまった、――とだけは、一応報告しておこうか。
〈終〉
0
お気に入りに追加
6
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説


愛人は嫌だったので別れることにしました。
伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。
しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?
切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜
水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。
そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー
-------------------------------
松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳
カフェ・ルーシェのオーナー
横家大輝(よこやだいき) 27歳
サッカー選手
吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳
ファッションデザイナー
-------------------------------
2024.12.21~
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる