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一章
30、再会
しおりを挟む「悪かった……。とりあえず、ここから逃げよう」
くそ、紛らわしいな。猫耳の女の子なんて説明するなよ。普通に黒猫って言え。
「そうだにゃ。こんなことをしている暇はないのにゃ」
レミはしれっとレオの背に乗った。
え、何してんの。
「早く行くにゃ」
するとぱしぱしと猫パンチを繰り出して、レオの頭を叩き始めたではないか。
「おいおい! 何やってんだよ! レオが傷ついたら俺がセドリックに怒られるだろ! やめろ、叩くな!」
しかしながら、レオは猫パンチされて迷惑がっていると思いきや、なんだか楽しそうなのだ。撫でられていると勘違いしているのか。
「だったら早くここから出るにゃ!」
ぱしぱしと高速猫パンチをレオの頭に炸裂させる。
「わかった、わかった!! わかったから、レオの頭を叩くな!!」
するとレミはツーンとそっぽを向いた。
こいつ……腹立つ。もっと愛想よくできないのかよ。俺は断然レオ派だな。
そんな事を考えながらジンは早々に走り出した。
地下牢から出て出口を探す。しかしながら煌びやかな概観の通路は長く広い。
「やばい。どっちから来たかわからない」
レオを頼りにここまでやってきたジンは、侵入口から牢屋までの道を覚えていない。困った、どうすればいいのか。そう思っていれば、レオがこっちだと、合図する。そうか、セドリックの匂いのする方へ行けばいいのか。レオ、賢い。
先へ進もうとした直後、目の前から強烈な斬撃が迫ってきた。
「レオ!」
ドゴオオオオン!
爆音を響かせて城壁が破壊された。ジンはレオとレミを庇うように抱きしめたが、爆風に攫われるように瓦礫ごと吹っ飛ばされた。地面の上をゴロゴロ、と転がってゆく。
「侵入者は……お前か」
この声は、聞いたことがある。それにこの迫力のある一撃。……団長だ。ゆっくりと顔を上げれば、まさしくガンツがこちらへ歩いてきていた。
「レオ! 先にセドリックの所へレミを連れて帰れ! 俺は後で行く!」
「させるか!」
レオが走り去ろうとする所を阻止するかのように、ガンツは斬撃を打ち込んだ。地面を抉りながらレオに迫る斬撃。ジンは俊敏に動いてその衝撃を剣で防ぐ。
「うおおおお!!」
重くて強烈。剣身が震えるも、ジンは力の限り斬撃の行く手を阻害する。思いっきり振りきれば、軌道が少しズレてそのまま塀にぶつかった。爆音と砂塵が舞い上がる。ジンは衝撃で大きな穴が開いたのを目視した。
うわ、あんなの食らったらひとたまりもないな。
「ほら、今だ、行け!」
レオのお尻を押して急かせば、レオはその穴から無事に逃げた。その様子を見ていたガンツは無表情で呟く。
「……まあいい。お前をここで倒して、あの犬を追う」
「そうはさせないぜ」
お互い剣を構え、間合いを取った。緊張感が高まり殺気が膨らむ。しばしの睨み合いの末、両者が動いた。
ガンツが地面を抉りながら大剣を振りぬけば、斬撃は風をまといながらジンへと迫る。
まともにこの攻撃を食らっていては恐らく剣が持たない。ジンは足に爆発的な力を込めて飛翔する。斬撃を回避しつつ、スピードは落とさずにガンツに迫った。
目にも留まらぬ速さで一気に間合いを詰めて、急所を狙う。吸い込まれるようにジンの剣身はガンツの首へと伸びた。
しかしガンツは大剣をくるっと回転させてジンの剣を弾き、そのまま横へ振りぬく。ぶん、と一閃しただけで塀側にあった木々がなぎ倒された。
ジンは飛び上がって大剣を避け、剣を振りかざす。弾き返されても別の角度から繰り出すその攻撃の速さといい、移動の速さといい、ジンの身体能力は尋常ではない。
ガンツでさえも気を抜けば刃の餌食になるだろう。ジンの猛攻は早く鋭い。しかしながら、ガンツはその攻撃ですら華麗な剣捌きでいなしていく。
決定的な一打を打ち込めない分、ジンは体力の消耗が激しい。それでもジンは息が上がっていない。なんていう体力の持ち主なのだ、とガンツは口角を上げた。
「上等」
しばらくどちらも引けを取らない攻防が繰り広げられていた。剣と剣がぶつかるごとに衝撃波が飛散し、砂塵が舞い上がる。そんな視界不良の中。
「ガンツ団長!! 援護します!!」
増援の魔法騎士が現れて、呪文を唱えてゆく。
「黄燐の矢!!」
「水珠の枷!!」
黄色い炎を纏った矢が一直線にジンを狙った。ジンは矢の存在を知覚し、ガンツから距離を取るようにバク転しながら矢を避ける。無数の矢はドドド、と無惨に地面に突き刺さった。
そして四方八方からジンを捕らえようと狙う水の玉が接近してきた。圧迫するように迫ってくるそれは、逃げ道をなくすように膨らむ上に、邪魔だ。
「黒い輝き」
ジンは一閃する。その剣尖の軌跡は美しい円を描いた。水の玉が黒く煌めいたかと思えば、バーンと勢いよく破裂。
水しぶきが飛び散り、それで前が一時的に見え無くなったガンツに、ジンは不意を突く形で一気に肉薄する。
「黒い輝き!!」
黒い火花が飛び散って、刃はガンツを捕らえた。しかし。
「ぐっ……」
なんと、ジンのわき腹にガンツの大剣が突き刺さっていたのだ。ぎりぎりで避けたガンツはジンを貫いていたようだ。
「こいつの援護はいい。お前たちは犬を追え。犬はあの猫を連れて塀の穴から逃げ出した」
「は!!」
ぱたぱたと塀の外へ出て行く魔法騎士たちを尻目に、ジンは呻く。
「行かせていいのかよ」
剣を引き抜かれて、ジンはよろけるも体勢を整えるようにバックステップで距離を取る。
「いい。お前の相手は俺で十分だ。だが……もう勝負は決まる」
突然ガンツがジンに迫り、切り伏せる。それをジンは剣で防ぐが、重たすぎる攻撃に手が痺れる。叩き潰されるように何度も振り下ろされる猛攻に、ジンはただただ防戦一方だ。
「終わりだ」
いつの間にかジンは壁際まで追いやられていた。逃げ場を失ったジンに、ガンツが裁きの鉄槌を打ちこんだ。
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