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一章

29、囚われの彼女

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 セドリックは飛んでくる水の玉のような魔法攻撃を避けていた。

 水の玉が木々にぶつかれば、その木々が水に包まれる。なるほど、この追尾してくる水の玉は、当たれば捕らえられてしまうのだろう。

 ガリレオは優雅に、そして雄々しく旋回してかわしてゆく。ミリ単位で水の玉を避ければ、ガリレオを狙った水の玉はそれ同士でぶつかってさらに大きくなる。

 しかし、あまりにも大きくなりすぎると水の玉は破裂する。それがわかってしまえば簡単だ。

 この程度の攻撃ならば、避け続ければいい時間稼ぎになるだろう。

 すると一階の窓ガラスが突然割れて、皆そちらを振り返った。どうやらジンが暴れているらしい。

「……静かに行動しろって言ったのに」

 気が逸れた魔法騎士たちにガリレオが火の玉を噴出す。灼熱の塊は、近づくだけでも肌を焼き、身を溶かす。逃げ惑う騎士たちに、一人の騎士が現れた。

 屈強の凄腕魔法騎士――ガンツだ。

「待たせた。援護は頼む」

 そう呟くや否や、爆発的な力で地を蹴り、ガリレオに接近してきた。

「こいつ、やばい……!! ガリレオ、とにかく避けろ!! 攻撃を食らうなよ!!」

 ガンツが下から剣を振り仰ぐ。その斬撃がガリレオの命を狩り取らんと迫るが、ガリレオはその攻撃を俊敏に避けた。しかし風圧で羽が飛び散る。

「うわ、やっべえ……!!」

 幾度となく放たれる攻撃を、ガリレオはセドリックに言われた通りに避け続ける。旋回し、体を回転させながら、攻撃を掻い潜っていく。

「いいぞ、ガリレオ!」

 ガンツの攻撃は一振りが大きく、破壊力が物凄い。一撃でも当たれば致命傷を負うだろう。

 いい、このまま避け続けてくれ。

 塀の上へと舞い降りたガンツは再び一閃、二閃と剣を振り仰ぐ。きらっと光ったその直後、斬撃がガリレオを狙った。と同時に背後からガリレオを狙う水の玉が現れたではないか。

 はさまれた!!

「ガリレオ! 後ろだ!!」

 水の玉は慌てて避けられたガリレオだったが、ガンツの斬撃を振り切ることができなかった。翼がえぐられる。

「しま……!!」

 深い傷を負ったガリレオはセドリックを落とさないように、出来る限りゆっくりと城の敷地外へ降りてゆく。

 途中で力尽きて、どさりと地面に落下したが、高い塀に遮られているため、魔法騎士たちに着地する場所は見られていない。

「塀の外だ!! 追え!! 逃がすな!!」

 門が開きこちらへ魔法騎士が迫ってくる。セドリックはガリレオを撫でた。

「ごめんな……後でちゃんと手当てしてやっから……。ありがとうな」

 攻撃を食らって申し訳なさそうな表情をしているガリレオを戻し、セドリックは木の陰に隠れてやり過ごす。

「いたか!?」
「いません!!」
「あの怪我じゃ遠くへは逃げてないはずだ! 探せ!!」

「団長、城に侵入者ありとの報告が!」
「……なら、俺が行く。手負いのグリフォンは皆に任せる」
「は!!」

 セドリックは魔法騎士たちが通り過ぎていくのを息を殺して待っていた。

 あいつがジンのところに行くのか……。その前に早くレミを連れて来いよ、ジン……!!

 セドリックはただただ祈ることしかできなかった。


 ♦♦♦


 ジンはレオについて走る。前を立ちふさがる魔法騎士はあまりいなかった。みなグリフォンの方へ行っているのだろう。陽動作戦は成功のようだ。

 ジンは煌びやかな通路を通り、階段を降りる。どうやら地下室に牢屋があるようだ。そこにレミが囚われているのだろう。もう目的地は目の前だ。

 薄暗い階段を降りていけば、魔法騎士たちが暇そうに門番をしていた。

「なんか上が騒がしくねえか?」
「気のせいだろ」

「はあ……眠い」
「だな」

 ジンは足音無く近づき、不意をついて殴って気絶させる。鍵を騎士のポケットから探り出して、鉄格子の扉を開けた。レオはずんずん進んでいく。するとある一つの扉の前で立ち止まった。

「クゥーン」

 ここだ、とレオが尻尾を振る。

「ありがと」

 頭を撫でれば嬉しそうにハッハッハッ、と息を吐いた。

 ここに捕まった女の子がいるのか。一体どんな子なのだろうか。殺人犯とか? それとも強盗犯?

 ジンはぼやーっとイメージを膨らませたが、恐ろしい凶悪犯しか思い浮かばなかった。

 ……助けるって言ったけど、俺が襲われたりしないよな?

 ここに来て迷うジンに、レオが足を思いっきり踏んづけた。

「いっ……!!」

 思った以上に固い肉球がジンの足を痛めつける。容赦ない。そして何をしているんだ、とでもいいたげな目でこちらを見上げている。

「ごめんって、もう開けるよ」

 鍵を開けてそっと扉を開ける。するとその部屋に、捕まっているレミという女の子が……いない。

「あれ? いない?」

 部屋はもぬけの殻だ。いるのはベッドにちょこんと座っている黒猫だけ。その猫はジンの登場に驚くことも無く、マイペースに自分の毛づくろいをしていた。

「あれ? どこ行ったんだ?……もしかして、もうすでに逃げた?」

 レオは不思議そうにしているが、ジンはとりあえず「間違えました、すいません」と扉を閉めようとすると。

「ちょっと待つにゃ!!」

 ジンに黒猫が飛び掛ってきた。

「うわ!?」
「うわって失礼な男だにゃ。私を助けに来てくれたんだろう?」
「え? 猫がしゃべってる。って、いや……助けるのは猫じゃなくて、レミっていう女の子って聞いたんだけど……」

 すると黒猫にバリッと爪を立てられた。

「痛い!!」
「失礼な奴だにゃ!! 私は女の子だにゃ!! それにレミが私だにゃ!」

 ぷんすか怒っている黒猫はレミだと名乗る。

 え……!? レミって、猫だったのか!?
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