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第十三章

ねぎまを作ろう!

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 食材とかを入れた籠を持って、台所に到着する。

 中では、シルク婦人さんが鍋にキノコやらを入れている所だった。
「ちょっと、肉とかを切りたいんだけど」とお願いすると、婦人さんはこくこくと頷き、場所を空けてくれる。

 持ってきたお肉は、きじ肉だ。

 先ほど、エルフのテュテュお姉さんと夕食で作るメインの料理について話をしていたんだけど……。
 とりあえず、地下の食料庫で肉を確認しようって話になった時に、イメルダちゃんが前世Web界隈だとお約束というか、手垢まみれというか、そんな事を訊ねてきた。
「テュテュさんは、エルフなのにお肉を食べるのですか?」
 それに対して、テュテュお姉さんの返答はあっさりした物だった。
「え?
 でも肉を食べないと力が出ないでしょう?」
 まあ、確かにその通りなんだけど……。
 それを聞いたイメルダちゃんも、何とも言えない顔で「そう……ですね」とか言ってた。
 分かる!
 だって、創作物一般的にエルフさんって、ベジタリアンなイメージあるよね!
 わたしも、初めて聞いた時はそんな気分と顔をしていた!
 だけど、この世界のエルフさん、外見に似合わぬ肉食系らしいんだよね!
 その時も、エルフのテュテュお姉さん、よだれを垂らさんばかりの顔でこんな事を言ってたの。
「そういえば、ろくな思い出がないシンホンだけど、アヒルの丸焼きは美味しかったなぁ。
 皮がぱりぱりしてて」
 そんな、テュテュお姉さんを見るイメルダちゃんの顔は、ガッカリした物を見る目だった。

 まあ、そんな話の流れも有り、「鳥肉が食べたい!」と言い出したエルフのテュテュお姉さんの為に選んだのが、きじさんと言う訳だ。

 他に持ってきたのは、育てたばかりの長ネギ、そして木製の串だ。
 色々考えたんだけど、前世で串に鳥肉とネギを交互に刺すという料理があったように思えるので、それに挑戦してみようかと思ったわけだ。

 串については、まきから作ろうと安直に思ったんだけど、エルフのテュテュお姉さんから、「毒を持っているものも有るから、木の種類を選ばないといけないわ!」とストップがかかり、妖精メイドのサクラちゃんが連れてきた物作り妖精のおじいちゃんが、”任せろ!”というかのようにジェスチャーをくれたのでお任せすることに。

 あっという間に、予備も含めて作ってくれた。
 物作り妖精のおじいちゃんには、本当にお世話になりっぱなしだ!

 その後、物作り妖精のおじいちゃんに何か頼みたいことがあるというエルフのテュテュお姉さんを残し、台所にやってきた。

 白いモクモク包丁を作り出すと、きじさんのモモ肉を食べやすいサイズに切る。
 ここら辺は、何度かやっているので問題ない。
 さくさく進めていく。

 ん?
 シルク婦人さん、どうしたの?

 なにやら、婦人さんが籠の中身を気にしている。
 あ、長ネギかな?
「これ、テュテュお姉さんが持ってきてくれた種で育てたの」
 渡すと、シルク婦人さんは興味深げに眺める。
「切る」
 切ってみて良いかって事ね。
「どうぞ」と答えると、シルク婦人さんは洗い始める。
 その動作からは、躊躇が見えなかった。
「長ネギ、料理に使ったことあるの?」
と訊ねると、「一度」との返答が返ってくる。
 エルフのテュテュお姉さんの口ぶりだと、長ネギはここらでは珍しいっぽいんだけど……。
 ヴェロニカお母さんの家、お金持ちっぽいから、何かの伝手で手に入れたのかな?
 そんなことを考えていると、シルク婦人さんは全ての根元を切り落とした後、五センチほど幅を開けてぶつ切りにする。
 それを終えると、緑の部分を摘むと、それを口の中に入れる。
 シルク婦人さんのお眼鏡にかなったのか、こくこく頷いている。

 ……長ネギって、生で食べられる物なのかな?

 わたしも、手近にあった白い部分を摘むと、口に投げ込んだ。
から
 辛い、辛ぁ~い!」
 慌てて、白いモクモクをコップ型にして、水を出し、飲む。
 何これ、とてもじゃないけど、食べられたものじゃないわよ!
「ぷっ!」
「え?」
 視線を向けると、シルク婦人さんが鍋の様子を見ていた。

 ごく自然だけど、自然じゃない!
 だって、さっきまで長ネギを見ていたじゃない!

「シルク婦人さん……。
 今、わたしの事、笑った?」
 シルク婦人さんは視線を鍋から離さず、首を横に振る。
 わたしは顔を横に傾げ、シルク婦人さんの表情をのぞき込む。
「シルク婦人さん、笑ったよね……。
 絶対、”ぷっ!”って笑ったよね!」
「そのような事実はございません。
 ええ、全くございません」

 いやいや、シルク婦人さん!
 すました顔をしてるけど、わたしと目を合わせないよね!
 しかも普段、そんな長文を話さないよね!
 絶対笑ったでしょう!

 などとやっていると、後ろから「何をやってるの?」と声がかかった。
 エルフのテュテュお姉さんだった。
 テュテュお姉さん、ぶつ切りになった長ネギを見ると、こんなことをいってくる。
「あ、長ネギは、特にその白い部分だけど、生で食べると辛いから気を付けてね。
 確か、少しの間、水に浸けておくと辛いのが取れるって聞いたけど……」
「え?
 白い部分は辛いの」
「ええ」
 わたしは、キッ! とシルク婦人さんを見る。
「知ってたでしょう!
 シルク婦人さん、知ってたでしょう!」
 それに対して、シルク婦人さんは開き直ったのか何なのか、堂々とした態度で言う。
「止める前」
「止める前に食べたって事!?
 そうかもしれないけど!
 そうかもしれないけど!」
 などと、ぷりぷり怒っているわたしに、テュテュお姉さんは呆れたように言う。
「何となく、事情は分かったけど、仕方がないでしょう?」
 そうだけど、頭にきちゃうの!


 シルク婦人さんに何を言っても、蛙の顔に水をかけるレベルで意味のないことなので、致し方が無くムカムカを飲み込む。
 まあ、何も考えず口に入れたわたしも悪いからね。
 わたしは持ってきた長ネギを全て洗い、シルク婦人さんの様にぶつ切りにする。
 それが終わった後、先ほど白いモクモクで丁寧に洗い、乾燥させた串でお肉を刺す。
 ん?
 木串だと思ったより、難しいな。
 何とか刺した後、長ネギを刺す。
 エルフのテュテュお姉さんから「また、変わったことをやっているわね」と言われたので「何となく、美味しいかなと」と答えておく。
 前世の記憶から、鳥肉と長ネギを交互に刺そうと思ったけど……。

 そもそも、これ、作るどころか、食べたことないんだよね。

 テレビだったか、なんかで、見たことあるだけで、美味しい物なのかよく分からない。
 名前も、なんかあったと思うんだけど、うっすらとしか出てこない。
 ねぎ鳥だっけ?
 ねぎまだっけ?
 そんな感じだったはず。
 その記憶があったから、前回、鉄の串だったのを、木串にして真似まねようとしたのだ。

 でも、冷静に考えてみて……。

 そもそもこれ、お肉だけの方が良いのでは?
 長ネギとか、本当にいるの?
 あ、ひょっとして、お店の人がかさをごまかしているのかな?
 だとしたら、意味がないのかも?

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