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第十二章

悪役男爵(?)さん再び登場!2

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 なんか、魔道具それ、魔力を全然感じないんだけど。
 まあ、わたしが未熟なだけってのもあるかもしれないが……。

 それにしても、白大ネズミ君を音で追い払うのってどうなんだろう?

 二年ぐらい前、白大ネズミ君に嫌気がさした大きいお兄ちゃんクー兄ちゃんが”威嚇の一吠え”で追っ払おうとしたんだけど……。
 崩れ落ちた千匹を乗り越え、残りの数千匹が突っ込んできたことがあって、びっくりした思い出がある。
 大きいお兄ちゃんクー兄ちゃんの一吠えって、ワイバーン偽竜君が落ちてくるほどの力があるのに、数千匹が白目だったり、目から血を流しながらだったりしながらも飛びかかってきて、流石のお兄ちゃんも『ひゃ!?』とか声を上げていたなぁ。
 最終的には兄弟姉妹で何とか壊滅させたけど、ひょっとすると、わたし達にもっとも多くのトラウマを植え込んでいる魔獣かもしれない。

 いや、それはともかくだ。

 そんな、白大ネズミ君魔獣が、あんな笛ごときで逃げるとは少々思えないんだけど……。
 そんな事を考えている間、なにやら、ぺちゃくちゃ話していたハリソン衛兵長さんは言う。
「そう、わたしは選ばれし者なのだよ!
 このようなことを言ってしまうと申し訳ないが、現領主様は冬を、地獄ネズミを、恐れるように帝都に行かれた。
 わたしは、恐れない。
 全く、恐れないのだ!
 貴族として、正々堂々と帝都へ出発するのだ!」

 え?
 つまり、その笛頼りに、白大ネズミ君が闊歩する外に出かけるって事?

 大丈夫かな?
 門の方を見ると、ちょうど、馬車が出て来て門番さんがその確認をしているようだった。
 目を凝らすとそのそばに、何人かの女の人が立っているのが見えた。

 その女の人達は泣くのを堪えるようにしていて――ハリソン衛兵長さんが同行を無理強いしていることが分かる。

 う~ん、あの笛が偽物だった場合、あの女の人たちも食べられちゃうんだろうなぁ。

 正直、ハリソン衛兵長さんやその取り巻きの人たちは食い散らされても自業自得だけど、関係ないあの女の人たちも巻き込まれるのは……。

 一応、注意しようかな?

「あの~」と声をかけるも、自分に酔っているっぽいハリソン衛兵長さんは「帝都で人脈を作り、この町の領主に~」とか喋っていて、聞いてもらえない。
 仕方がないので、大きめの声で「あのう!」と声をかけた。
「ん?」とようやくこちらを向いてくれたハリソン衛兵長さん、何故か驚いた顔でわたしを見る。

 ん?
 どうしたんだろう。

 ただ、それも一瞬のことで、苦笑しながら首を横に振った。
 そして、嫌らしい顔でニヤリと笑う。
「容姿はまあまあだが、残念ながら胸がその程度ではな。
 連れて行ってやれん」

 は、はぁぁぁあ!?

 え?
 なに!?
 いくら何でも失礼すぎるでしょう!?

 余りの言葉に呆然としてると、騎士さんがハリソン衛兵長さんに「そろそろ、ネズミどもが」と囁いた。
 それを聞いた、ハリソン衛兵長さんは愉快そうに笑いながら、「まあ、せいぜい生き残れ」と言いつつ、門の方に歩いていった。
 トーマスさんもおぼつかない足取りながら、真っ赤に染まった口を押さえ、その後を追っていく。

 後ろで赤鷲の団の皆が「くそ! 下らない話を聞いていて時間を潰した!」とか「それでも、動かなくて正解だ! 下手に気を悪くさせたら、ますます状況が悪化しただろう」とか話しているが、頭に入ってこない。

 いや、別にね、胸とかね、わたしにはそんなに必要ないのよ。

 だって、狩りとかする場合、邪魔になるしね。
 ヴェロニカお母さんとかも、しょっちゅう肩が凝るとかぼやいてたし、重しをそんな所に入れる意味なんて……ね!

 赤鷲の団団長のライアンさんが抜剣して「大麦は、悔しいが諦めよう! とにかく、俺とサリーが殿しんがりを務めるから、お前ら二人は先に行け!」とかいいつつ前に出るので、静かに、冷静に、声をかける。
「ライアンさん……。
 邪魔」
 ちょっと、目からにじみ出る何かが見えたのか、ライアンさんは「ひぃ!」とか言いながら後ずさりする。
 そして、わたしの言う通り、後ろに下がってくれる。
 よし。

 赤鷲の皆が後ろでぼそぼそ言う。

「……気にしてたのか」
「気にしてたんだな」
「サリーちゃん、あと二、三年経てばきっと大きくなるわよ!」
「違う!」

 もう!
 もう!
 もう!

 なんでわたしが、こんな色々考えて、悩んで、挙げ句の果てに酷い言われ様をされなくてはならないの!

 もういい!
 もう、こうなったら……。

 この怒りを――白大ネズミ君にぶつけるしかない!

 わたしは赤鷲の皆を守りたいし、大麦だって守りたい。
 ハリソン衛兵長さんに連れてかれる女の人や、罪のない下働きの人たちも救いたい。
 ……こんな事を言うと、嫌われるかもだけど、ハリソン衛兵長さん達だって、死なせたいわけではない。
 ……いや、勿論、思う所はある、あるけどね。

 とにかく、あのネズミ君さえ居なければ、笛が偽物でも問題ないのだ!

 現状は余り変わらないけど、少なくとも、ネズミ君たちにあの人達が殺されるんじゃないかって、思い悩む必要は無い!
 あと、食料問題だって、いくらか改善するかもしれない!
 ……組合長のアーロンさんには怒られるかもしれないけど、現状、これ以上の手は多分無いのだ!

 ……そもそも、白大ネズミ君、わたし、あなた達に対しても怒っているんだよ。

 フェンリルの娘たるわたしに対して、恐れるどころか、さんざん突っかかってきて――ずいぶん、舐めてるじゃない。
 ママがちょっと顔を出しただけで回り右をする癖に、本当にふざけているよね。

 わたしは赤鷲の皆に「危ないから大麦の所に居て」と指示する。
 ここら辺は白大ネズミ君が踏み荒らしているからか、積雪もそこまで無いので、取りあえず、足からスキー板を外す。
 ふむ。
 十歩ぐらい先まで、軽くジャンプして移動する。
 これぐらいで良いかな?
 周りを見渡す。
 大丈夫だよね。

 わたしは両拳を胸の前で合わせる。

 ……わたしの戦い方は前世で見た魔法少女物のアニメを参考にしたものだ。
 ”これ”も、その一つ――魔法少女達の最後の戦いをヒントにしたものだ。

――

 強風吹きすさぶ荒野にて、五人の魔法少女と――彼女たちの幼なじみの女の子が、今まさにこの地に衝突せんばかりに落ちてくる巨大な隕石を呆然と見つめていた。
 つい先ほど、魔法少女達が自分がよく知る女の子達だと知った、幼なじみの女の子が泣き叫ぶ。
「もう無理よ!
 あんな物をどうにか出きる魔法なんてどこにも有りはしないわ!
 ……そもそも、あなた達、いつも殴る蹴るしかやってないじゃない!」
「有るよ!」
 中心に経つ女の子が叫ぶ。
 その強い視線は隕石に向けられている。
「皆の心が負けない限り、皆の心が信じてくれる限り、わたし達が負けることは無い!
 皆の思いが、わたし達の魔力に変わるのだから!
 何ものにも負けない、魔法になるのだから!」
 中心の女の子が魔法の杖を上空に掲げると、残りの女の子もそれにならう。

 すると、どこからともなく、光が集まってくる。
 絶望に染まった世界、その狭間を縫うように集まってくる。

 はじめは小さくか細いものだった。
 だけど、それが沢山重なることで、大きな、大きな、光となる。
 それが、少女達の魔法の杖に集まる。
「嘘……」

 囁く幼なじみの目の前で、魔法少女達のローブが光り輝くものに変形する。
 魔法少女の中心にいる少女が微笑みながら”誰か”に囁く。

「ありがとう」

 輝く少女達は地を蹴り、飛び上がる。
 絶望の権化、隕石に向かって。
 そして、光り輝く五人の少女は手に持つ杖を――そっと腰に差し直すと、拳を顔の前でつき合わせる。
 体の光が拳に集まり、ボクシングのグローブのような形になる。
『魔法少女隊!』
 五人の声がハモる。
『最終スターぁぁぁパァァァンチ!』
「結局殴るの!?」
という幼なじみの女の子の突っ込みを背に、五人の少女は隕石に殴りかかるのだった。

――

 ゆっくりと合わせていた拳を離す。
 その手首には白い魔力で作ったグローブが付けられている。
 グローブ、というよりも、形はフェンリルママの足首と言った方が良いか。

 力を加える。

 魔力が空気を爆ぜ、炸裂音が辺りに響く。
 その内のいくつかが地面を薙、雪と土が舞い上がる。
 後ろから赤鷲の皆の悲鳴や「お、おい大丈夫なのか!」とか聞こえて来たので、「その辺りにいれば大丈夫!」と振り向かずだけど、答えておいた。

 今のわたしは、Web小説的表現で言えば、最終戦闘形態だ。
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