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第十一章

伝説の料理!1

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 ヴェロニカお母さんがエリザベスちゃんの所に戻っていくのを見送った後、食料庫から必要な物を持ってくる。
 食堂のテーブルをしっかり拭き、手をしっかり洗う。
 必要な食料や調理器具をテーブルに並べる。

 ふむ。

「さて、では伝説の肉料理を作っていきましょうか?」
「わ~い!」
 すぐ隣にいるシャーロットちゃんが、嬉しそうに手をパチパチと叩いている。

 可愛い!

 テーブル用の椅子を、わたしの邪魔にならない場所に移動しつつ、イメルダちゃんが少し呆れた顔でこちらを見る。
「今度はいったいなにを始めるつもり?」
「だから、伝説の肉料理を作るんだって!」
「いったいどこの伝説よ」

 それはもちろん、前世の母国、日本である。

 伝説の肉料理――その名をトンカツという。
 王道中の王道(わたし基準)、それでいて、現在の保有素材で作れるお肉料理と言ったらこれである。

 そう、これとの出会いは、小学四年生ぐらいの頃、おばさんのおうちにお呼ばれした時だ。

 初めて食べるおばさん手作りのトンカツを口にして、余りの美味しさに涙が出てしまったものだ。
「こんなに美味しいの生まれて初めて!」とパクパク食べてたら、なぜかおばさんも号泣し「いっぱい食べていいのよ!」と言ってた。

 いや、そんな話は良いか。

 テーブルに並んだ材料は以下の通りである。

・弱イノシシさんのロース肉(肩から腰にかけての部位)
・赤鶏さんの卵
・塩
・コショウ
・小麦粉
・パン
・キャベツ
・植物性油

 まずはパン粉かな。

 鉢を用意する。
 次に朝食の余りであるパンを白いモクモクを使って凍らせ、それをすり下ろし林檎で使った下ろし金を使い細かく削る。

 鉢の中にパラパラと落ちていく。

 ……この下ろし金だと、ちょっと小さすぎるかな?
 仕方がないので、左手から出した白いモクモクを下ろし金のように形を変えて、削っていく。
 うん、やりやすい。
 パン粉がガンガン、積み上がっていく。
 イメルダちゃんが椅子から少し中腰になり、不思議そうにこちらを見てくる。
「ねえ、なにしてるの?」
「パン粉を作っているの」
「パン……粉?
 なにそれ?
 変わったことをしてるのね?」
「そうかな?
 そんなに変わったことじゃないと思うけど?」
「そう……なの?」
「うん」
 まあ、異世界にはパンをこんな風に使わないかもだけど。

 次に卵を手に取る。

 それを大きめの鉢の中に割って、物作り妖精のおじいちゃんに作って貰った木製の箸で、しゃかしゃかと溶き卵にする。
 さすが、巨大な赤鶏さんの卵、普通サイズの卵に比べてちょっと大変だ。
 黄身と白身をしっかり混ぜる。

 そして、弱イノシシさんの肉に取りかかる。

 まな板をテーブルに置き、弱イノシシさんの肉を切り分ける。
 大きめに切ろうかと思ったけど、上手く揚げられるか少々心配なので、小さく切り分けることにした。
 そして、白いモクモクを棒状にして叩く。
 シャーロットちゃんが「サリーお姉さま、お肉叩いていいの?」とか訊いてくるので「柔らかくするために叩くんだよ」と教えてあげる。
「へ~すご~い」とシャーロットちゃんが感心したように言ってくれる。

 気分が良い!

 強靱な顎を持つママ達ファミリーには殆ど不要な気遣いだけど、シャーロットちゃんみたいな小さく可愛い女の子が食べるんだ。

 丁寧に両面を叩いていく。

「どうして、叩くと柔らかくなるの?」
とイメルダちゃんが訊ねてくるので「なんか繊維的な物を壊して食べやすくするとか何とか」と教えてあげると、「なんか曖昧ね」と苦笑された。

 前世、中学生知識止まりの女の子に、そこまで期待されても困る!

 そんなことを思いつつ、弱イノシシさんのお肉に塩コショウをする。
 ソースが無いからしっかり目にする。
 さて、ここまで来たら、あの準備もしなくてはならない。
 左手から白いモクモクを出すと、鍋型にする。
 そして、一抱えもする壷を右手の白いモクモクで持ち上げると、布で作った蓋を取る。
 中には少し緑みの帯びた黄色い液体が入っている。
 それを鍋型白いモクモクの上で傾ける。
 少し、ドロリとした感じに落ちていく。
「これには危ないから近づいちゃ駄目だよ」
 特に、シャーロットちゃんに注意していると、イメルダちゃんが立ち上がって訊ねてくる。
「なんなのそれ?」
「油」
「油?
 普通、そんな色はしてないけど?」
「ふふふ、それもそのはず。
 これは幻の油――菜種油なのだ!」
「菜種油?
 なにそれ?」
 イメルダちゃんが訝しげにする所を見ると、どうやら、この辺りでは一般的ではないらしい。

 菜種油とは、菜の花の種を大量に集めて、煎ったり圧縮したりして作った植物性油だ。

 巨大蜂さんの為に、大量に咲かせた菜の花の副産物がこれだ。
 もう、壷一杯分の油を作るのに、ビックリするほど種が必要だから、この壷と、もう一つ分しか無い貴重なものだけど、シャーロットちゃんの快気祝いだからね!
 投入することにした。
 ん?
 シルク婦人さんが台所から出てきて、興味深げに近づいてきた。
 なので、説明をしてあげると、こくこくと頷いている。
「シルク婦人さんは菜種油、使ったことある?」
と訊ねてみると、首を横に振っていた。
 やっぱりこの辺りでは――というか、異世界では、使用しないのかな?

 まあ、いいか。

 鍋型白いモクモクに魔力を流し、油を温める。
 その間、箸を使って弱イノシシさんの肉を持ち上げる。
 小麦粉、溶き卵、をしっかり付け、パン粉の上に落とす。
 パン粉は手でしっかり付ける。
 終わった後、鉄製バットの上に並べていく。
 このバットは物作り妖精のおじいちゃんに作って貰った。
 製鉄した時に、何か作って欲しい物はないか? と訊ねられた時に思いついた一つだ。
 角型で底の浅い形を作るのが地味に大変そうだったけど、網も含めて二セット、作ってくれた。
 イメルダちゃん達には、少々重いがシルク婦人さんは軽々と持っていたので、問題無い。

 箸で肉を掴んで、小麦粉に付けていると、イメルダちゃんが感心したように言う。
「そんな棒を二本、器用に使うわね」
「慣れれば、かなり便利だよ。
 フォークと違い穴が空かないし、挟むからしっかり掴めるし」
「ふ~ん」
 トングがあれば便利だろうけど、使うのはともかく、作るのはかなり難しいからね。
 単純な棒を二本でさまざまなことが出来る箸が使えると、絶対便利だと思う。
 そんなことを思っていると、シルク婦人さんが袖を引っ張ってきた。
「後で」
「?
 ああ、後で使い方を教えればいいの?」
 シルク婦人さん、コクリと頷いた。

 まあ、それぐらいなら問題無い。

 その後、パン粉を付ける行程をシルク婦人さんが受け持ってくれることに。
 サクサクと、下拵えを終えた。
 ん、そろそろ、温まってきたかな?
 鍋の上に手をかざす――うむ、これぐらいかな?
 よく分からないけど。
 菜箸さいばし用に作って貰った、長い箸を持って、鍋の中の油を静かに混ぜる。
 左手でバットを持ち、菜箸で下拵え済みのお肉を掴み、ゆっくりと油に落とす。
 油をバチバチ鳴らしながら、お肉が揚がっていく。
 上手い具合、行っているかな?
 様子を見るために、とりあえず一個だけにする。

 ふむふむ、徐々にきつね色になってきているね。

 そろそろかなと、持ち上げて、もう一つの網を乗せたバットにそれを置く。
 見たところ、良さそうだけど……。
 観察していると、シルク婦人さんがナイフとフォークで半分に切った。
 そして、問うようにこちらを見る。

 うむ、最初のお毒味はわたしがしよう。
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