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第十一章

真っ白な景色

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 我が家の玄関は不思議な構造になっていて、玄関のドアが内側と外側、二つある。

 わたしはリビング側の扉を内側に小さく開けて、外に出る。
 やはり、ちょっと冷える。
 リビングに冷たい空気が入らないように、すぐに扉を閉めた。
 今出た扉の正面に、さらに扉が現れる。
 扉だけではなく、外壁から平行してさらに一枚壁がある。
 何とも不思議な構造だ。
 まあ、いいけど。
 わたしは白いモクモクを出すと、壁と壁の間であるこの空間を暖める。
 ふむ、そろそろ良いかな?
 リビング側の扉を開ける。
 すぐ側に待機していた、イメルダちゃんとシャーロットちゃんを招き寄せた。
 シャーロットちゃんが嬉しそうにこちらにやってくる。

 二人とも、念のために厚着をさせている。

 特に、シャーロットちゃんは病み上がりだからね。
 お古のコートだけでなく、中にも色々着込んでいた。
 内側と外側の扉を興味深げに見ていたイメルダちゃんが言う。
「これ二重扉になっているの、扉を開けたときに外の冷たい空気を遮断するためにあるんじゃないかしら?」
「ああ、なるほどそういうことか」
 外の扉だけだと、開けると家の中に冷気がダイレクトに入ってくる。
 でも、二重にすれば両方を開けるようなことをしない限り、どちらかの扉である程度ブロックできる。
 そんなところか。
 流石は宰相様だね、と感心していると、シャーロットちゃんが袖を引いてきた。
「サリーお姉さま。
 外の風、凄い」
「そうだね」
 外からは風のうなり声が壁一枚越しにも大きく響きし、窓ガラスが揺れる音もそこそこの音量で聞こえてくる。
 わたしは扉から少し離れた所にある窓に近づく。
 扉と同じく、内側、外側の壁に窓があるんだけど、冬ごもり前、窓ガラスを購入した時に外側の壁に取り付けて貰った。
 外の様子が分かるようになれば良いなぁ~という安直な理由であったけど、どうかな?
 ガラスが割れても良いように内側に付けてある、窓用の扉に手をかける。
 観音開きのそれを内側に開ければ、ガラス窓が出てきた。
 ……う~ん。
「白いね、サリーお姉さま」
「……うん」
「外がよく見えない」
「そうだね……」
 まあ、そこそこなお値段だったガラスだったけど、分厚いこともあり、前世のガラスほどにははっきり見えない。
 それはまあ、ある程度は分かっていたけど……。
 吹雪いているためか、なんか滲んだ白しか見えない。
「サリーお姉さま、外に出たら駄目?」
 シャーロットちゃんの突然の発言に、わたしはぎょっとする。
「駄目だよ!
 ダメダメ!
 絶対に駄目!」
 こんな吹雪の中、外に出たら、シャーロットちゃんみたいなちっちゃい女の子、どっかに吹っ飛んでいってしまう。
 イメルダちゃんも「そうよ、駄目よ!」と言い聞かせている。
 でも、シャーロットちゃん、ちょっと不満そうだ。
「だって、しっかりと見えないもん。
 ちゃんと見たい!」
 ……まあ、気持ちは分からないでもない。
 正直、よく分からないもんね。
 わたし達が禁止する理由も、ピンと来ていないのかもしれない。

 う~ん。

「仕方がない」
「え!?
 ちょっと、サリーさん!?」
「ここの扉越しに外を見せてあげる」
「扉越し?」
「そう」
 下手に禁止して、一人で勝手に扉を開けられたら、それこそ大変なことになる。
 それだったら、わたしと一緒の時に見せてあげた方がよい。
 一旦、イメルダちゃんには家の中に入って貰う。
 念のためにだ。
「ちょっと、サリーさん大丈夫なの?」
と心配そうに言われたけど、「大丈夫大丈夫」と気軽に頷いて見せた。
 そして、シャーロットちゃんを抱っこする。
 その体を白いモクモクで覆い、保温する。
 寒さのために体がビックリしないための保険だ。
「じゃあ、開けるよ。風が凄いけど、驚かないでね」と言うと、シャーロットちゃんは「うん!」と嬉しそうに頷いた。
 いつのまに来てたのか、近衛騎士妖精ちゃんが二人、側にいてくれる。
 頼もしい!
 わたしは左手で外側の扉に手をかけ、静かに開ける。
 とたん、雪の粒を含んだ風が入ってくる。
「ひゃ!?」
とシャーロットちゃんは驚いたのか声を上げ、わたしにしがみつく。

 外は本当に真っ白だった。

 大量に降り注ぐ雪と雪煙の為に、結界より外がうっすらしか見えない。
 地面も勿論、純白の雪に覆われ、ただただ白かった。
 だが、真っ平らという訳でなく、いくらか山になったりへこんだりしている箇所も見えた。
 よく見ると、家の周りは雪が少なく見えた。
 一瞬、不可解に思えたけど、妖精ちゃん達の大木を思いだし納得した。
 あの大きく広がった枝葉が、雪をある程度遮っているのだろう。
 そう思うと、今は見えないけど、屋根の上には余り積もっていないのかもしれない。
 そんなことを考えていると、シャーロットちゃんが叫ぶ。
「サリーお姉さま!
 もういい!」
「あ、はいはい」
 扉を閉めると、ぐったりしたシャーロットちゃんがわたしの首にしがみついていた。
「どうだった?」
と訊ねると、シャーロットちゃんは少し考え「真っ白だった」と答えた。

――

「風と雪がね、びゅーびゅー顔に当たってね、外はね、真っ白だったの!」
「あらそうなの?」
「うん!」
 シャーロットちゃんが一生懸命話すのを、ヴェロニカお母さんはニコニコしながら聞いている。

 そんな親子の会話を聞きつつ、わたしは食堂のテーブルにてノート型の黒板を使い文字の勉強をする。

 う~ん、異世界の文字はアルファベット、文章は英文に近いのかな?
 でも、やっぱり違う感じがする。
 まあ、仮に全く同じでも中学生レベルの英語ですら、良い点数を取れなかったダメダメ女子中学生では、結局、苦戦したことだろうけどね。

 シャーロットちゃんが続ける。
「サリーお姉さまにしがみついていたから大丈夫だったけど、シャーロットだけだったら、多分吹き飛ばされちゃったと思うの。
 凄かった!」
「あらあら、そうなったら大変ね。
 シャーロット、一人で外に出るのは止めましょうね」
「うん!」
 同じく食堂のテーブルで本を読んでいた、イメルダちゃんも同意する。
「本当に、その方がよいわね。
 わたくしも、シャーロットの後に見せて貰ったけど、とてもじゃないけど出られる環境じゃなかったわ。
 風や雪もそうだけど、景色が白一色だから、どこにいるのか分からなくなりそう」
「サリーお姉さまも無理?」
「ん?」
 顔を上げると、シャーロットちゃんがなにやら期待した感じにわたしを見ていた。
 思わず苦笑してしまう。
「わたしも無理だよ。
 少なくとも、率先して外に出たいとは思わないなぁ」

 雪山はかなり大変だ。

 雪や風、寒さだけでない。
 鼻も利きにくいし、雪煙なんて起きたら視界も利かない。
 方向が分からなくなって、下手をしたら真逆に歩いてることもある。
 まあ、前世はともかく、今世は標高の高い山で育ったこともあり、寒さに耐性があるから死ぬことにはならないだろうけど、だからといって吹雪いている時に外に出る気にはならないなぁ。
「シャーロットちゃん、こんな時は家でぬくぬく過ごすのが一番だよ」
「えぇ~」
「その通りよ。
 お母様も、わざわざ、寒い思いをするのは嫌だわ。
 暖かいお部屋で、美味しいお菓子やお食事を頂きたいわ。
 シャーロットだってそうでしょう?」
 不満そうなシャーロットちゃんに、ヴェロニカお母さんは微笑んだ。
 すると、シャーロットちゃん、思い出したようにわたしを見る。
「そういえば、サリーお姉さま。
 伝説の肉料理は?」
「伝説?
 なにそれ?」
 よく分からない。
 すると、シャーロットちゃんが不満そうに頬を膨らます。
「サリーお姉さまが、作ってくれるって言った!」
「はて?
 ……ああ」
 そういえば、言ったっけ。
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