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32 夕焼けに染る町
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多分人生でこれだけ長い階段を上ったのは初めてだろう。そう確信するほど、頂上への道は過酷なものだった。
「あと少しですトウセイ! がんばって!」
隣でグレンノルトが励ましてくれているのだけが、心の支えだった。荒くなる息を整え、汗を拭いながら上を見上げる。明日から運動始める。絶対始める。俺に合わせ、多分グレンノルト的にはゆっくりとしたペースで頂上を目指し、そして遂に最後の段差を上った。そこには息をのむほどの光景が広がっていた。
「……すごい」
落ち着きあるレンガの街並みを夕陽がオレンジに染めている。夕陽と反対の空は灰色と黒色がグラデーションのように広がっていた。夕陽を受けた建物は影を長く伸ばし、オレンジと黒が境界線を作っていた。
「見てください、トウセイ。星が出ています」
「一番星ですね! すごい……きれいです」
グレンノルトが指をさして教えてくれる。黒く染まり始めた西の空に、輝く星が1つ浮かんでいる。景色を見て心を動かされることを、俺は初めて経験した。
「……そうだ、トウセイ。こちらをどうぞ」
「紙袋? さっきのお店のものですよね」
グレンノルトが差し出したのは文具屋の紙袋だ。俺に……? 何だろうと思いながら受け取り、中を見る。中には、インクボトルと細長い箱が一つずつ入っていた。
「もしかして、これ万年筆ですか!?」
グレンノルトははにかみながら頷いた。
「今日1日、付き合ってくださったお礼です。店に聞いて一番良さそうなものを買ったのですが」
こういう場合、どう言葉を返すのがいいんだろう。遠慮した方が良いのかな。こんな高価なもの受け取れないと、紙袋をそのままお返しするべきなんだろうか。でも……
(嬉しい)
欲しかった万年筆だ。それだけでない。多分、店で万年筆を買おうかどうしようか迷い、値段を見て速攻諦めた俺の姿を見ていたんだろう。彼の気遣いみたいなのも感じれて嬉しかった。
「あの、本当に貰って良いんですか?」
「もちろん。あなたに贈りたいと思い、買ったものですから」
そうか、受け取ってもいいのか。俺は紙袋を置き、箱を開ける。中には新品の万年筆が入っており、夕陽を反射している。紺色のきれいな万年筆だった。
「あ、色お揃いですね! グレンの手帳と同じ色です」
なんかもうグレンノルトの手帳と色が同じだっただけでも嬉しかった。頑張って時計塔を上り、ようやく見た光景に感動して、贈り物にまた感動して……多分テンションが変になっていたんだと思う。だからグレンノルトの、続く「恋人になってくれませんか」と言う言葉に、俺は思わず「はい!」と頷いてしまった。
*
「おかえりなさい、トウセイ様! あれ? 着替えたんですね。その服も似合いですよ。では、借りてた服返しに……トウセイ様?」
「え、あ! はい! なんですか!」
アリシアが、「朝借りた服を返しに行こうかと……」と怪訝そうな表情で話した。俺は「そうですね!」とリュックに仕舞っていた服を急いで取り出す。ダメだ。集中できない。今は何をやっても変な風になるという確信があった。このままでは良くない。いったん落ち着こう。あれ? 俺いつこの部屋に戻ってきたっけ。
「トウセイ様~? ダメですね。上の空です。もしかして、遂にグレンノルト様に手を出されたんですか?」
「はぁ!? グレンノルト!? ち、違います! そんなことないです!」
「じゃあ、今日何があったんですか? 私、トウセイ様がお出かけするための協力しましたよね。今日のお出かけについて、話を聞く権利あると思いますけど」
アリシアは、「服探すの大変だったな~サイズが合うかとか、似合うかとか考えて~」と俺に聞かせるようにゆっくりと話した。加えて朝と言う忙しい時間に、頼ってしまったと言う自覚があった。俺は、「ぐぐぐ……」と悩み、結局アリシアの押しに折れてしまった。
「今日は、ずっとグレンノルトと一緒に店を見て回ったんです……本屋とか、雑貨屋とか……文具屋とか」
「ふ~ん。それで?」
アリシアは、にこにことしながら話の続きを促した。「名前呼び捨てになってますね」と指摘しないのは、彼女の優しさだった。
「最後に時間が余ったので、時計塔に行きました。そこで風景を見て、それで途中のお店で買った万年筆を貰って、その……こ、」
「こ?」
「告白、されました……」
その瞬間、リスの叫び声みたいなのが聞こえた。いや別に、俺はリスの叫び声を聞いたことは無いんだけど、声を聞いてはっと思い浮かんだのがその言葉だったんだ。甲高いリスの鳴き声みたいな、そんな声が隣で爆発して、同じく爆発しそうなほどドキドキしていた俺の心臓は危うく止まりそうになった。
「告白! あのグレンノルトが! どんな、どんな言葉を言われたんですか!? というか、時計塔で告白するとか……! ほんと、気障な人間ですね!」
「み、耳と心臓が……」
思わぬところで負傷してしまった。もしかして、話す相手を間違えたのかな。そんな俺を前に、アリシアは「私、応援します! なんでも相談してください!」と俺の手を握って、元気よく宣言した。
「あと少しですトウセイ! がんばって!」
隣でグレンノルトが励ましてくれているのだけが、心の支えだった。荒くなる息を整え、汗を拭いながら上を見上げる。明日から運動始める。絶対始める。俺に合わせ、多分グレンノルト的にはゆっくりとしたペースで頂上を目指し、そして遂に最後の段差を上った。そこには息をのむほどの光景が広がっていた。
「……すごい」
落ち着きあるレンガの街並みを夕陽がオレンジに染めている。夕陽と反対の空は灰色と黒色がグラデーションのように広がっていた。夕陽を受けた建物は影を長く伸ばし、オレンジと黒が境界線を作っていた。
「見てください、トウセイ。星が出ています」
「一番星ですね! すごい……きれいです」
グレンノルトが指をさして教えてくれる。黒く染まり始めた西の空に、輝く星が1つ浮かんでいる。景色を見て心を動かされることを、俺は初めて経験した。
「……そうだ、トウセイ。こちらをどうぞ」
「紙袋? さっきのお店のものですよね」
グレンノルトが差し出したのは文具屋の紙袋だ。俺に……? 何だろうと思いながら受け取り、中を見る。中には、インクボトルと細長い箱が一つずつ入っていた。
「もしかして、これ万年筆ですか!?」
グレンノルトははにかみながら頷いた。
「今日1日、付き合ってくださったお礼です。店に聞いて一番良さそうなものを買ったのですが」
こういう場合、どう言葉を返すのがいいんだろう。遠慮した方が良いのかな。こんな高価なもの受け取れないと、紙袋をそのままお返しするべきなんだろうか。でも……
(嬉しい)
欲しかった万年筆だ。それだけでない。多分、店で万年筆を買おうかどうしようか迷い、値段を見て速攻諦めた俺の姿を見ていたんだろう。彼の気遣いみたいなのも感じれて嬉しかった。
「あの、本当に貰って良いんですか?」
「もちろん。あなたに贈りたいと思い、買ったものですから」
そうか、受け取ってもいいのか。俺は紙袋を置き、箱を開ける。中には新品の万年筆が入っており、夕陽を反射している。紺色のきれいな万年筆だった。
「あ、色お揃いですね! グレンの手帳と同じ色です」
なんかもうグレンノルトの手帳と色が同じだっただけでも嬉しかった。頑張って時計塔を上り、ようやく見た光景に感動して、贈り物にまた感動して……多分テンションが変になっていたんだと思う。だからグレンノルトの、続く「恋人になってくれませんか」と言う言葉に、俺は思わず「はい!」と頷いてしまった。
*
「おかえりなさい、トウセイ様! あれ? 着替えたんですね。その服も似合いですよ。では、借りてた服返しに……トウセイ様?」
「え、あ! はい! なんですか!」
アリシアが、「朝借りた服を返しに行こうかと……」と怪訝そうな表情で話した。俺は「そうですね!」とリュックに仕舞っていた服を急いで取り出す。ダメだ。集中できない。今は何をやっても変な風になるという確信があった。このままでは良くない。いったん落ち着こう。あれ? 俺いつこの部屋に戻ってきたっけ。
「トウセイ様~? ダメですね。上の空です。もしかして、遂にグレンノルト様に手を出されたんですか?」
「はぁ!? グレンノルト!? ち、違います! そんなことないです!」
「じゃあ、今日何があったんですか? 私、トウセイ様がお出かけするための協力しましたよね。今日のお出かけについて、話を聞く権利あると思いますけど」
アリシアは、「服探すの大変だったな~サイズが合うかとか、似合うかとか考えて~」と俺に聞かせるようにゆっくりと話した。加えて朝と言う忙しい時間に、頼ってしまったと言う自覚があった。俺は、「ぐぐぐ……」と悩み、結局アリシアの押しに折れてしまった。
「今日は、ずっとグレンノルトと一緒に店を見て回ったんです……本屋とか、雑貨屋とか……文具屋とか」
「ふ~ん。それで?」
アリシアは、にこにことしながら話の続きを促した。「名前呼び捨てになってますね」と指摘しないのは、彼女の優しさだった。
「最後に時間が余ったので、時計塔に行きました。そこで風景を見て、それで途中のお店で買った万年筆を貰って、その……こ、」
「こ?」
「告白、されました……」
その瞬間、リスの叫び声みたいなのが聞こえた。いや別に、俺はリスの叫び声を聞いたことは無いんだけど、声を聞いてはっと思い浮かんだのがその言葉だったんだ。甲高いリスの鳴き声みたいな、そんな声が隣で爆発して、同じく爆発しそうなほどドキドキしていた俺の心臓は危うく止まりそうになった。
「告白! あのグレンノルトが! どんな、どんな言葉を言われたんですか!? というか、時計塔で告白するとか……! ほんと、気障な人間ですね!」
「み、耳と心臓が……」
思わぬところで負傷してしまった。もしかして、話す相手を間違えたのかな。そんな俺を前に、アリシアは「私、応援します! なんでも相談してください!」と俺の手を握って、元気よく宣言した。
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