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31 最後に訪れた場所
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文具屋を出た俺たちは、雑貨屋や道具屋などを見て回り、コーヒーショップで休憩を取った。グレンノルトが訪れたかった店はもう全部回ったと言う。城に戻るにしては早い時間だし、どこか寄りたいところはないかとグレンノルトは俺に尋ねた。
「行きたいところですか?」
「はい。店でなくても、見てみたいところや訪れてみたい場所などでも」
そうか、お店じゃなくてもいいのか。俺は少しの間考える。見てみたいところ、と言うより見てみたいものはあるけど……俺が言い淀んでいるのが分かったのか、グレンノルトは促すように微笑んで頷いた。
「と、時計塔からの景色を見てみたいです」
アリシアから教えてもらったことだった。時計塔からは、町中と城が一望でき、とくに夕陽が落ちる時間は町と城がオレンジに染まるのを眺めることができる。町に住む人間なら、一度は訪れ息をのむ場所だと、アリシアはそう語った。俺が借りている部屋も、すごく良い景色が見えるが、それとは違った景色が時計塔から見えるんだろう。彼女の話を聞き、いつか見てみたいとそう思った。
「時計塔ですか……良いですね、行きましょう」
「え、良いんですか!? でも、今は兵士がいて一般人は入れないって聞いて」
「ああ、確かに予言の影響で今は閉めていますね。しかし、予言も解決され来週からはまた解放されます」
そしてグレンノルトはにっこりと笑うと、「ですが、私は今週のうちから入れます」と言った。
「しょ、職権乱用……」
「少しくらいならだれも怒りません」
「さあ、早く行きましょう」と、グレンノルトは自分の分のコーヒーを飲み切った。俺も慌ててコーヒーを飲む。彼の人となりが分かってきたような気がした。
*
コーヒーショップから時計塔は少し離れた位置にあった。ゆっくり歩いて行っても、夕陽の時間に間に合う。俺は店や名所など、町のことをグレンノルトから教えてもらいながら、時計塔へ向かった。
「あの建物はなんですか? 白くてすごく立派ですけど」
「あれは教会ですね。礼拝など儀式もしますが、絵画や彫刻なども飾れていています」
「へー、すごい! となりにくっついている建物は?」
「確か修道女たちの居住区だったかな」
流石城下町と言うべきか、たくさんのお店が町にはあった。教会、武器屋、占い店、ダンスホール、図書館……そして町の人たちの生活。城の自分の部屋から眺めるだけでは分からない光景がそこにはあった。たくさん話しながら俺とグレンノルトは歩き、時計塔に辿り着き、そして呆気に取られた。
「上に行くには、階段を上るしかないんです。大丈夫ですか?」
「はい……! がんばります」
時計塔は、下から見上げるとてっぺんが見えないほど大きかった。この高さをこれから上るのか……出かけた最後に訪れるところとしては、大変な場所を選んでしまったかもしれない。
「もしでしたら、私がトウセイを抱えて上りましょうか?」
「いや、それは流石に……」
少し心が揺れたのは嘘だ。ここで彼に頼って頂上の景色を見てしまったら、男としてなにか大切なものが傷ついてしまう気がした。大丈夫、最近運動不足だと思ってたし、良い運動だと思おう。
「あの、本当に無理しないでくださいね。限界だと思ったら、いや限界とか関係なくいつでも声かけてくださいね」
俺はそんなに体力がないように見えるのか。いや、別にいいけど。荷物を持てくれると言うグレンノルトにありがたく自分の荷物を渡しながら、頑張るぞと気持ちを改めた。
「行きたいところですか?」
「はい。店でなくても、見てみたいところや訪れてみたい場所などでも」
そうか、お店じゃなくてもいいのか。俺は少しの間考える。見てみたいところ、と言うより見てみたいものはあるけど……俺が言い淀んでいるのが分かったのか、グレンノルトは促すように微笑んで頷いた。
「と、時計塔からの景色を見てみたいです」
アリシアから教えてもらったことだった。時計塔からは、町中と城が一望でき、とくに夕陽が落ちる時間は町と城がオレンジに染まるのを眺めることができる。町に住む人間なら、一度は訪れ息をのむ場所だと、アリシアはそう語った。俺が借りている部屋も、すごく良い景色が見えるが、それとは違った景色が時計塔から見えるんだろう。彼女の話を聞き、いつか見てみたいとそう思った。
「時計塔ですか……良いですね、行きましょう」
「え、良いんですか!? でも、今は兵士がいて一般人は入れないって聞いて」
「ああ、確かに予言の影響で今は閉めていますね。しかし、予言も解決され来週からはまた解放されます」
そしてグレンノルトはにっこりと笑うと、「ですが、私は今週のうちから入れます」と言った。
「しょ、職権乱用……」
「少しくらいならだれも怒りません」
「さあ、早く行きましょう」と、グレンノルトは自分の分のコーヒーを飲み切った。俺も慌ててコーヒーを飲む。彼の人となりが分かってきたような気がした。
*
コーヒーショップから時計塔は少し離れた位置にあった。ゆっくり歩いて行っても、夕陽の時間に間に合う。俺は店や名所など、町のことをグレンノルトから教えてもらいながら、時計塔へ向かった。
「あの建物はなんですか? 白くてすごく立派ですけど」
「あれは教会ですね。礼拝など儀式もしますが、絵画や彫刻なども飾れていています」
「へー、すごい! となりにくっついている建物は?」
「確か修道女たちの居住区だったかな」
流石城下町と言うべきか、たくさんのお店が町にはあった。教会、武器屋、占い店、ダンスホール、図書館……そして町の人たちの生活。城の自分の部屋から眺めるだけでは分からない光景がそこにはあった。たくさん話しながら俺とグレンノルトは歩き、時計塔に辿り着き、そして呆気に取られた。
「上に行くには、階段を上るしかないんです。大丈夫ですか?」
「はい……! がんばります」
時計塔は、下から見上げるとてっぺんが見えないほど大きかった。この高さをこれから上るのか……出かけた最後に訪れるところとしては、大変な場所を選んでしまったかもしれない。
「もしでしたら、私がトウセイを抱えて上りましょうか?」
「いや、それは流石に……」
少し心が揺れたのは嘘だ。ここで彼に頼って頂上の景色を見てしまったら、男としてなにか大切なものが傷ついてしまう気がした。大丈夫、最近運動不足だと思ってたし、良い運動だと思おう。
「あの、本当に無理しないでくださいね。限界だと思ったら、いや限界とか関係なくいつでも声かけてくださいね」
俺はそんなに体力がないように見えるのか。いや、別にいいけど。荷物を持てくれると言うグレンノルトにありがたく自分の荷物を渡しながら、頑張るぞと気持ちを改めた。
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