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33 月を追いかける花
しおりを挟むグレンノルトと恋人と言う関係になってから生活が一変した、なんてことはなく、それまでと変わりない日々を俺は城で過ごした。
(いや、変わったことはあるか)
まず、グレンノルトとほぼ毎日顔を合わせるようになった。特別用がなくてもグレンノルトは俺の部屋に来て一緒に過ごしたし、俺も廊下ですれ違ったときとかは必ず話しかけるようになった。俺とグレンノルトの関係を周囲に伝えることは無かった。知っているのは、アリシアだけ。俺とグレンノルトも恋人になったからと言って、話す機会が増えたくらいで特に変わったことは無かった。そして俺は、グレンノルトのことをよく考えるようになった。
「今日は何をしようかな……」
読書をしているとき、昼食を食べているとき、ベッドに入ったとき、ふとした時にグレンノルトは今何をしているんだろうと考えるようになった。そして、グレンノルトと会えると安心した気持ちになれた。
扉がコンコンコンと叩かれた。時刻はお昼過ぎ。アリシアが部屋の掃除をしに来たのかと思い、「どうぞ」と俺は返事した。
「失礼します」
「わっ! グレンノルト。今日は夜まで仕事だったんじゃ」
「はい、少し城に戻る用があったので。あなたの顔が見たいなと」
「へ、へー、そうですか」
まだちょっと、グレンノルトのこういう感じには慣れない。俺がお茶でも飲みますかと聞くと、すぐに出るからと断られた。
「そう言えば、資料室でこんな本を見つけたんです」
グレンノルトがそう言って差し出したのは、表紙を見るにどうやら植物の図鑑のようだった。「何でその本を俺に?」と疑問に思っていると、グレンノルトが机の上でその本を広げ、ソファに座っている隣を叩いた。並んでその図鑑を見ましょう、ってことか。それは、なんか恥ずかしくないか? 俺はちょっと迷ってから、グレンノルトと一人分離れたところに座った。
「なんで植物の図鑑を?」
「たまには、こういった図鑑を見るのも楽しいと思って」
グレンノルトはそう言って図鑑のページをめくった。
「あ! この花、俺のいた世界にも似たような花ありました」
「サンフラワーですね」
「へぇ……俺たちはひまわりって呼んでました」
黄色い花びらの大きな花。実は、小学生の時にひまわりの花に関する自由研究をしていたから、あまり植物に詳しくない俺でも、ひまわりについてだけは少し知識がった。
「太陽の動きを追うように花の向きが変わるので、『ひまわり』って名前になったんです」
「サンフラワーも同じ感じですね。名前が違うだけの同じ花なんでしょうか」
そうなんだろうか。図鑑の絵は、花弁が根元から先までで黄色とオレンジ色とグラデーションのようになっている。俺のいた世界にこんな種類のひまわりあったかな?探せばあるような、ないようなそんな微妙なラインだ。
「こっちの花は? 同じ種類みたいですけど……見た目はひまわりと違いますね」
「それはムーンフラワーです。月の光で育つ花です」
背が高く大きな花を咲かせるサンフラワーと、背が低く小さな花を咲かせるムーンフラワー。見た目は真逆と言っていいほど違うのに、似た特徴を持っているのか。
「いいなぁ、見てみたい」
「珍しい花ですからね……あまり店にも出ない花です」
月を追いかけるムーンフラワー……実物を自分の目で見てみたいと俺は思った。
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