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9 予言と花屋と橋と火事①

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 魔女のお茶会から2週間ほどが経った。予言の内容は3つ。西の町に魔物が襲撃することと、花屋で火事が起きること。そして、名馬が誕生することだ。1つ目の予言はもうすでに解決済みであるが、他2つはどうなんだろう。朝起きて顔を洗いながら、俺はそんなことを考えた。

 *

 今日の朝食は、ピザトーストにサラダ、オニオンスープ、そしてデザートにオレンジといったメニューだった。ピザトーストの伸びるチーズが美味しい。オレンジも瑞々しくて最高だった。
 
「町にある花屋だって?」
「はい。いくつ花屋があるか知りませんか? あと、場所もできたら教えて欲しいです」

 俺は朝食を食べてから、朝から気になっていることをヘンドリックに聞いた。ヘンドリックは俺の言葉を聞き、「そうだな……」と指を折りながら花屋の数を数えている。食器を洗っていたマーサはその手を止め、「何かあったの?」と俺に尋ねた。

「は、花を贈りたい、人がいまして……」
「まあまあ! それは良いわね!」

 マーサは俺の言葉を聞くと、弾けるように笑った。俺はと言うと、冷や汗ダラダラだった。そうか、急に花屋についていろいろと聞くなんて変か。理由をあらかじめ考えておくべきだった。しかし、咄嗟にそれっぽい理由を言うことができて良かった……もしかして俺は、アドリブに強いのか? そんな風に考えながら俺は心臓を落ち着かせた。

「3つあるか。町の東に1つ、南に2つ……」
「東の方と南の方……」
「ああ。ちょっと待ってろ、地図で教えてやる」

 ヘンドリックはそう言うと、机の引き出しから地図を取り出した。それを広げてペンで三か所、印を付ける。東と南に分かれた印は、一見するだけで全部の店を見て回ることの大変さを感じさせた。

「その地図、お前にやるよ」
「え、良いんですか?」
「今日、お店の手伝いお休みでもいいわよ! 肌寒くなってきたから、ちゃんと温かくしてね。頑張って渡しなね!」

 ヘンドリックが地図を折りたたみ、俺に渡してくる。マーサはキラキラとした表情で俺を励ましていた。どうやら、俺の今日の予定は決まってしまったらしい。2人の厚意にお礼を伝えながら、明日は絶対筋肉痛だと覚悟を決めた。

 *

 朝食の後、俺は少し休憩してから家を出た。マーサが言っていた通り、風が少し冷えている気がする。まず目指すのは、お店から近い場所にある東の花屋だ。帽子を被り直し、服の襟を正すと俺は地図を片手に歩き始めた。

「ここかな……うん、あの店だ」

 お店には思っていたより早く着くことができた。何回か花屋のある大通りを歩いていたことがあり、何となく道を覚えていたおかげだ。それでも、地図がなかったら迷っていたから、この地図を貸してくれているヘンドリックには感謝しなければならない。俺は地図を鞄にしまうと顔を上げて、東の花屋、ショップ・フローチェを見た。

「えーっと、近くに橋があるお店、だったよな……」

 予言の内容を思い出す。橋があるということは、川や水路が近くにあるということだが……あんまりお店の前をうろうろするのも怪しいから、俺は一度店の周りをぐるりと回ると、近くのコーヒーショップに入った。店の店員にホットコーヒーを頼み、俺は一息ついた。

(お店の裏側に水路が通ってたな……橋は架かってないみたいだったけど)

 お店の裏は小道になっており、その小道を挟んだ向こう側に大きめの水路が通っていた。水路の幅は3mくらいだったか。橋についても確認したが、なかったように思う。予言の店はここじゃないのかな。それと気になったのは___

(騎士団の人が見回りをしていた……)

 城下町なんだ。警備のため、国の騎士団がいるのは変じゃない。けれども俺は、彼らが必要以上にあの花屋を見ている気がした。と言うことは、あの店が火事が起きると予言された店なのか? もしそうなら、騎士団が注意して見回りをしているということは、予言の火事はまだ解決していないことになる。いや、予言されたんはこの店だと言い切るのは早いか……俺はコーヒーを飲み切ると、代金を支払い、次の花屋を目指した。
 
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