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10 予言と花屋と橋と火事②

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「ここが、2つ目の花屋……!」

 俺は滲んだ汗を拭って帽子を被り直すと、目の前のお店を見た。お店の名前は、フラリダ。現在休業中らしく、鉢植えや店の看板が店の中にしまわれているのがカーテンの隙間から見える。花屋は営業中だろうという考えがあった俺には、この店は一見花屋には見えず、しばらくここら辺をうろついてしまった。俺は息を吐いて整えた。

(休みなのか……お店の人に話を聞きたかったな)

 さっきのお店では近くに騎士団の人がいたため、なんとなくお店の人に話しかけ辛かった。だから次に向かうお店では、きちんと話を聞きたいと思っていたのに……まさか店が休みだったとは。正直残念だ。それでも、周囲を調べることはできる。俺は顔を上げて、気持ちを切り替えると、お店の周りの調査を始めた。

 *

 結果から言おう。フラリダは、予言された店ではなかった。なぜなら、店の近くに川も水路もなかったためである。川や水路がなくては、橋も架からない。ということはつまり、フラリダは火事が起きると予言された店ではないということだった。

(肌寒くなってきたとはいえ、日中はまだ暑いな……)

 俺は木陰に入り、これからどうするか考えた。もうすでに昼時は過ぎている。歩き回ったおかげでお腹もペコペコだった。ヘンドリックに、花屋の場所だけじゃなくておすすめの店も教えてもらえばよかったかな。店を2つ見て回っただけでも疲れを感じ始めている俺だが、「予言の店はこれだ」と判明していな以上、3つ目の店が予言の店である可能性は高い。もし3つ目の店でもなかったら___まあ、そうなったらそうなったで、やることはあるだろう。今はとにかく、昼食だ。俺は木陰から出ると来た道を戻り、大通りに出た。昼時は過ぎたとはいえ、まだまだ人で混んでいる。

(どの店にしようかな……)

 カフェ、レストラン、屋台……この世界の主食はパンだった。正直、お米が恋しく感じる。米を使った料理がないことはないのだが、日本料理と比べると言葉で表現できない「違い」があり、その違いが何となく気になってしまい、結局パンやパスタと言ったものを食べることが多かった。今回も俺が昼食として選んだのは、屋台で売られていた、薄いナンのようなパンに肉やキノコ、野菜を挟んだケバブに似た食べ物だった。香ばしく、スパイシーな香りに釣られたのが本音だ。屋台の店主のおすすめで、パインジュースも追加で購入し、俺は美味しい昼食を楽しんだ。
 
 *

 さて、調査である。1店目は保留、2店目は予言の候補から外しているのが現状だ。3店目は2店目からそれほど遠くない場所に位置している。俺は昼食を食べ終えると、すぐに3店目を目指した。
 3店目の花屋は、フラワーショップ・シャレムと言う名前のお店だった。他の2つよりもお店が大きく、繁盛しているのが分かる。店の隣には水路も通っていた。俺がお店を見ていると、女性の店員と目が合って会釈された。これはチャンスだ。

「こんにちは、きれいなお花ですね」
「ありがとうございます! 今の季節は、赤やオレンジ色のお花がきれいですよ」

 店員はにこやかに笑って、お店の前に出ている鉢植えを指した。話しかけるきっかけとして花を褒めてみたのだが、確かにきれいだ。買って帰るのも良いかもしれない。

「どのようなお花をお探しですか?」
「えっと、人に贈るものなんですけど___」
「すまない」

 俺が、「お世話になってる人に贈るんです」とそう続けようとしたとき、後ろから声がかかった。平坦ではあるがどこか響きのある、凛とした声だった。

「少し店について話、を」

 俺はまたしても反射的に振り向いてしまう。前にもこんなことがあった気がするなと、俺は頭の端でそう思った。一度慕ってしまった声や音を、その後心底嫌いになったとしよう。けれどもふとした瞬間にその声や音を聞き、まず感じるのはどきりと心臓が跳ねるような、まだ自分はこの声や音が好きなんだと錯覚してしまうような、そんな感覚だった。俺はその感覚が、鳥肌が立つほど嫌いだった。

「グ、グレンノルト様! えっと、お話とは」
「いや、すまない! そ、その方の相手をしていたんだろう。タイミングが悪かった。店の外で待っている。その方の用事が済んでからで、大丈夫だ」

 グレンノルトはそう言うと、急ぐようにして店を出て行った。店員が困ったような表情を浮かべている。俺はどんな表情を浮かべているんだろうか。きっと、良い顔はしてないんだろうなと、そう思った。
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