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共通ルート
雲の上の人
しおりを挟むカイルの助言に従って筋力をつけるための訓練に力を入れ、走り込みのときは瞬発力を高められるよう短い距離の走り込みをしたり、訓練場を周回するときも早く走ることを意識して取り組んだ。
するとそれほど時間はかからず筋肉が付いてきた。うっすらと線を引き始めた腹を見て口元を緩める。
今まで全然つかなくて悩んでいたものがこんなに早く結果として現れるなんて。
結果が目に見えてくると訓練にもより身が入る。
そんなアミルの様子に先輩たちも最近頑張っているなと声を掛けてくれる。
中にはカイルに指導を受けていたところを見ていた先輩もいて副団長に目を付けられるなんて災難だなと同情された。先輩曰くあの人手加減てものを知らないからな、とのことだった。
確かにあの手への一撃は酷かった。けれどカイルの力を想像するにあれでも加減をした方だったんだろうと思った。
失敗したと言いながら酷めの打ち身で済んだ。多分本当に失敗したら骨折はしていただろうと予想する。
正解は不明だがこの予想は遠くはないだろうと考えていた。
その答えは偶然会った団長から得られた。
「この前カイルに扱かれたんだって?」
声を掛けられると思っていなかった僕は肩を跳ねさせた。
「扱かれたというか訓練を見てくれて助言をもらいました」
柔らかい表現に言い変えたらなんだかカイルを庇っているようなセリフになってしまって苦笑を浮かべる。
なんでアミルが言い訳をしてるんだろうと思ったら苦笑が自嘲の笑みに変わる。
「庇わなくてもいいんだぞ、アイツは手加減が下手だから怪我をさせてないか心配した」
怪我はしました。直してもらいましたが。
正直に言うのは憚かられて曖昧に笑みを浮かべる。
僕の笑みに察したのか団長が眉を寄せた。
「報告にこないから怪我をさせずにすんだのかと思えばアイツは……!
しかし骨折まではしていないのなら頑張った方か」
団長の呟きに背筋が冷える。骨折をさせていないので頑張ったことになるとは、カイルは今まで何人骨折させてきたんだろうか。
まさかあの上級ポーションはそのために持っていたのではと疑いが浮かぶ。
「しかしアミルは見どころがあるんだな。
カイルが相手をしたのなら余程だ」
「いえ、そんな」
何かの気まぐれというかあまりにみっともないから見ていられなかったんじゃないかと思う。
「謙遜しなくていい。
頼んでもいないのにアイツから指導をするなんて滅多にないことだ。
お前の何かがアイツの琴線に触れたんだろう」
そうなんだ。確かに頼まれて手合わせをしていることはあっても熱心に指導しているところは見ない。
「今度俺とも手合わせしてみるか?」
「いえっ! 団長に手合わせしていただけるような腕前ではありませんから」
カイルもだけど団長もアミルにとっては雲の上の人だ。
まだ戦闘に参加したこともないアミルの相手をしてもらうなんて申し訳ない。
「実力をつけるために学ぶんだろう。
まあまだ体力をつける時期だというなら無理強いはしない」
断ったことの方が申し訳なかったかと思っていると何でもないように団長が笑う。
その笑顔に勇気づけられて普段なら言えない言葉を口にする。
「いつか団長に稽古をつけてもらえるように精進します」
「ああ、その時になったら遠慮せず自分から言ってこい」
「はいっ!」
手を軽く上げて立ち去っていく団長に礼を取って後姿を見つめる。
団長に手合わせをしてもらえるような騎士に、か。
ほんの少し前の自分ならきっととんでもないと言っただろう。
けれどもう、ムリだなんて思わない。
そんなことを考える前にまだやることがあった。
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