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騎士団

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 魔獣の残骸を避け怪我人を探す。
 見習いで戦闘に参加できないアミルは医療班の一員として討伐隊に加わっていた。
 立てないほどの重症な者がいなそうなのにほっとする。

「アミル! こっちも頼む!」

「はい!」

 素早く傷を洗い流し怪我の手当をしていく。
 走り回って治療をしていくと一際大きな男性が目に入る。
 獣の爪にやられたのか左腕からは結構な量の血が流れていた。

「団長! 早く手当しないと!」

「ああ、これくらい大丈夫だ。 団員たちを優先してくれ」

 大したことはないと手を振りアミルの言葉を退ける団長に困っていると別の声が割って入った。

「じゃあ団長の手当は俺がやりましょうか、止血さえしとけば大丈夫そうですし」

 戦闘の後とは思えないほど涼しい顔をした副団長が団長の肩に手を置く。
 手が空いてますからと言う副団長に、ならと団長も頷いた。

「ああ、そうだな。 乱暴にするなよ?」

「オレに丁寧さを求めるのは間違ってますよ。
 まあ、ワザと痛くはしないので安心してください」

 戦闘の後でも普段とまったく変わりない様子の副団長に負傷した騎士たちも感嘆混じりの畏怖の目で見ている。

「副団長、一番最初に魔獣に切り込んで行ったのになんであんなに元気なんだろうな」

「ああ、返り血一つ付いてないぞ」

 化け物か、と囁いた誰かの言に「聞こえてるよ」と答えた副団長の地獄耳に皆口を噤む。

「団長もあの巨鳥を一人で落としてたもんな、いつ見てもすげえよ」

 二人を賞賛する声はあちこちから聞こえる。
 手当てを終えた団長が副団長の報告を聞く姿を見ているとやっぱり別世界の人間なんだと思う。
 騎士団に属していても裏方ばかりの自分とは大違いだ。
 訓練にはきちんと参加しているものの細い腕をちらりと見降ろし首を振る。
 余計なことを考えないで自分のやるべきことをやろう。
 重傷者から順番に手当をしていき、全てが終わるころにはすっかり日は沈んでいた。





 討伐から戻ってきてもアミルの業務は終わらない。
 医療班の一員として負傷者の怪我の程度や施した治療内容、使ったポーションの種類などを報告書として提出しないといけないからだ。
 覚えているうちに使った薬を記録し、薬品棚を閉じた。
 報告書自体は明日纏めることにして、片づけを済ませ部屋に向かう。
 灯を落とした廊下を歩いていると足音が聞こえた。

「あれ、まだ休んでない子がいたんだ」

 暗闇から現れたのは副団長だった。

「副団長! お疲れ様です!」

 敬礼をするとこんな時間なんだからいいよと手を下げるように言われる。
 僕が来た方を見て所属がわかったのか得心したように頷く。

「医療班の子か、遅くまでお疲れ様」

 労いの言葉に恐縮する。

「副団長もこんなお時間までお仕事ですか?」

「そうだよ。
 団長が報告書を面倒がるから」

 だから俺がこんな時間まで残業しないといけないんだと肩をすくめる副団長に笑みが零れた。
 雲の上の人だと思っていたお二人に少しだけ親しみを感じる。
 報告書を面倒がるなんて団長にそんな一面があると思わなかった。
 ちょっと可愛いかも。
 そんなことを考えていると副団長がじっと僕を見ていることに気づく。
 失礼だったかと居ずまいを正す。
 何か考えていた副団長がにこりと笑う。


 ちょっといいかなと呼ばれ後をついて行くとそこは副団長の私室だった。
 緊張しながら部屋に入る。
 アミルが与えられた部屋よりも当然だけど大きくて立派だ。
 きょろきょろするのも失礼なので気になっていたことを聞く。

「あの、団長の怪我は大丈夫でしたか?」

 結局医療班の誰にも見せてくれなかったと聞いたので治療をした副団長に様子だけでも聞いておきたかった。

「ああ、大丈夫だよ。
 怪我自体は浅いもので、消毒して止血したくらいで済んだから」

 副団長の話によると出血は多かったものの魔獣の爪が掠めた傷は浅くて消毒と包帯による止血を施したのみで済んだという。

「指も動くし、心配いらないよ。
 深刻な怪我だったら引きずってでも医療班に見せてるから」

「あ、そうですよね」

 いくら部下を優先してほしいと団長が言ったからって大怪我なら副団長が見逃すわけがない。
 薬は副団長が自分で常備してる物を使ったそうなので報告書には記載しなくていいと言う。

「団長が心配?」

「それはもちろんですよ!
 さっきは深い傷に見えたのに治療をさせてくれないので心配になったんです」

「そう」

 副団長が微笑ましそうに笑う。
 あのくらいあの人にとっちゃかすり傷だから大丈夫だよと言われてやっぱり凄い人だと尊敬の念を新たにする。

「団長に憧れてるの?」

「え?!」

 思わぬことを聞かれて顔がかあっと熱くなる。
 憧れに隠した恋情を言い当てられた気がして慌ててしまう。

「ち、違っ!」

「ふーん、違うの?」

 口元を吊り上げた副団長が目に入った。
 やわらかく笑んでいるように見えるのに、どうしてか不安を覚える笑みだった。

「あの、そういえばお話って?」

「話?」

 空気を変えようと聞くと不思議そうな顔を返される。

「何か話があるから僕を呼んだんじゃないんですか?」

 アミル自身に用があるとは思わないけれど、医療班の人間として何か確認したいことか依頼したいことがあるのではないかと思ってついてきたのだ。

「んー、話っていうか」

 笑みを浮かべたままの副団長が一歩足を進める。
 それだけで間にあった距離が無くなる。
 近すぎる距離に身を引くと背に扉が当たった。


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