βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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ずっと一緒に…

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窓の外を流れる景色を眺めながら…
命が険しい表情を崩さないまま、これからどうすべきかを考えていたところ
命の携帯の着信音が静かな車内に小さく鳴り響き
命が上着の内ポケットからスマホを取り出す

「…」

するとスマホ画面を見た瞬間、命の眉がピクッと跳ね上がり
眉間にあからさまなしわを寄せると
忌々し気に命が通話ボタンを押した…

ピッ

「…何の用だ。篠原…」

不機嫌さを隠そうともしない命の声に
電話の向こうから返ってきたのは返事は意外なもので――

『ッ、“命様”…っ、ああもう面倒くさいっ!命っ!!』

スマホから突然響いてきた、何処か焦っているような浩介の大声に
命は咄嗟にスッとスマホを自分の耳から遠ざけ
訝し気にそのスマホを一瞥すると
溜息をつき、気を取りなおして再びスマホを自分の耳に近づけて浩介に尋ねる

「…何だ。」
『アンタに助けを求めるのは癪だが――
 この際背に腹は代えられない…っ、助けて欲しい…!』
「――お前をか?ことわ――」
『洋一の事だっ!』
「!洋一の…?」

電話の向こうから唐突に飛び出した洋一の名前に命が食い付く

「洋一がどうかしたのか?」
『話せば長くなるが――実は俺、今まで監禁されてて…』
「…は?」
『兎に角っ!ヤバイやつが洋一の事狙ってるんだってっ!!
 アンタ今、洋一の傍にいんのかっ?!』
「いや…洋一はマンションだが俺は――」
『だったら今直ぐ自分のマンションに戻れっ!俺もすぐにそっちに向かう!
 じゃあなっ!』
「ッ!おい――」

ピッ――と浩介からの通話は一方的に切れ
命はしばし茫然とスマホを眺めるが――

「山下。」
「心得ております。」

命の一声に山下はギアを手慣れた手つきで切り換えると
今までの穏やかな運転がまるで嘘の様に
車は急加速し始めた…



※※※※※※※※※※※※※※



『――久しぶり。ようちゃん…』

―――よう…ちゃん…?

『ボクはね?まどかっていうの。よろしくね!ようちゃん。』

「あ…」

洋一が記憶の一番奥底に封じ込めていた思い出が――

『――死んじゃえばいい…
 僕からようちゃんを奪って行こうとするヤツなんて…!』

「あぁ…」

電話口の向こう側から聞こえてきた一言によって…

『ようちゃんだって――僕と一緒にいたいでしょ?ね?ね??』

「…ッ、ゃだ…っ、」

まるで魔法が解けるみたいに洋一の中から次から次へと溢れだし…

『…“コレ”を――何も知らない洋一君に使うのは忍びないが…
 円の暴走を止める為だ…許せ…』

――――――――ッ、

「嫌だっ!!!」

洋一は思わず我を忘れ、通話を切ろうとした次の瞬間

「いきなり電話を切ろうとするだなんて――
 相手に対して失礼でしょ?ようちゃん…」
「!?!?!?」

突然自分の背後から
さっきまで電話越しに聞こえていた声が、急に明瞭な響きとなって聞こえ
洋一は驚いて後ろを振り返る

するとそこにはいつの間に部屋に入り込んだのか…
銀色の髪に銀色の瞳をした
儚げなお人形さんの様な綺麗な人物がそこに立って居て――

「…ッ!…っ…ぁ…、ぁ…ッ、」

その姿を見るや否や、洋一はその場に尻もちをつき
腰が抜けたかのように動けなくなる…

「…大丈夫?ようちゃん。」
「ま…どか…ちゃ…ッ、」

驚愕の表情を浮かべたまま自分の事を見上げる洋一に
円はその場で膝を着き、洋一に向けて手を伸ばす

しかし

「…ッ!」

伸ばされた円の手に洋一は怯え、思わず顔を背ける…
そんな洋一の反応に、円の表情が一瞬険しくなるが
直ぐに元の表情に戻ると、洋一の顎に伸ばした手を添え
強引に自分の方へと洋一の顔を向かせると
円は妖艶な笑みを浮かべた…

「――それにしても…相変わらず甘くて良い匂い…
 と、言いたいとこだけど――」

命のマーキングの匂いに気が付いたのか
円が眉を顰め、洋一の首筋に顔を近づけ、スンスンと匂いを嗅ぐ
それと同時に洋一の着ている服の隙間から項部分に
薄っすらと青痣のようなものが見え、その視線を更に鋭くする

「…どうやら――あきちゃんに先…越されちゃったみたいだね。
 悔しいなぁ~…僕が先にようちゃんの事、見つけたのに…けど――」

円がその場から立ち上り、洋一に向けて手を差し伸べる

「“僕の手を掴んで。ようちゃん”」
「…ッ、」

それを聞いた洋一の顔から表情がスッと消え、洋一が差し出された円の手を握る
するとその細い身体の何処にそんな力があるのかってくらい強い力で
腰を抜かしている洋一の身体を引っ張り上げると
表情を無くしている洋一の耳元に円が唇を寄せ、熱い吐息と共に囁いた…

「ごめんね?迎えに来るのが遅れて…怖かったでしょ?
 あきちゃんに無理矢理こんな匂いまで付けられて…でも大丈夫っ!
 この忌々しいあきちゃんのマーキングの匂いも
 家に帰ったらすぐに僕ので消してあげる…だから――




 これからはずっと一緒にいようね。ようちゃん。」
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