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第5話 姫、鬼に嫉妬する――鬼女・紅葉――
40 鬼童丸
しおりを挟むあやめと初めての口づけを交わした。
途中、少しだけ調子に乗り過ぎた鬼童丸は、少しだけ彼女の唇を深く貪ってしまったのだ。
うっかり舌を絡めた頃には、あやめは羞恥の限界で顔を真っ赤にしながら気を失ってしまっていた。
「すまないな、あやめ……」
気絶した彼女に声は届かなかった。
直衣でくるんで、御頂台へと連れて帰った。
そうして、添い寝している状態なのだが――。
鬼童丸はやけに身体が軽く感じていた。
「なんだ?」
これまではまるで鉛か何かでも全身に乗っているかのような感覚があったというのに――。
「ああ、まさか、あやめの体液が俺の口の中に入り込んだから……頼光がかけてきた呪いが少しだけ解けたのか……?」
因縁の相手である武将・源頼光にかけられた呪のせいで、いやいや探していた生贄だった。利害が一致さえすれば花嫁にする気など毛頭なかったというのに――。
出会って、彼女を自身の生贄として我が物にする――花嫁として――となぜか自然に考えが浮かんできたのだ。
あやめの料理に絆されたのか、はたまた――。
「俺があやめにこんなに惹かれているのは――頼光の呪いの類か……?」
やけに美味そうに感じるが、それ以上に相手に心を掴まれて――離れることができないのだ。
人間に対して恨みがあれども、母も人間だったし――。
食べ物として魅力的に感じているのか、それとも――。
誰かに裏切られるのには慣れている。
だけれど、せっかく得た妻だけは、どうか自分を裏切らないでいてほしい――。
「なぜこんなに惹かれるのか? 呪いか? いいや……きっとそうじゃない……」
頼光がかけたのは、あやめを性的に食べないと生きながらえることが出来ないというものだった。
「あやめの体を欲するのは呪いの類だ。けれども、心がこんなに惹かれるのは違う。それは俺自身の心の問題のはずだ――」
そんなことを思いながら、彼は彼女の黒髪をかきわけ、そうしてこめかみに柔らかな口づけを落としたのだった。
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