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第5話 姫、鬼に嫉妬する――鬼女・紅葉――
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しおりを挟む三日夜も無事に終わり、あやめが鬼童丸の妻と認められて数日が経った。
鬼の使用人たちとも仲良く過ごして順調だ。
台盤所に立ち、鬼達に料理の指導をしたりして、皆の食生活はどんどん改善してきていた。
どうやら、食事が美味しいので、人間に襲いかかる数も減ってきていたと、茨木童子も教えてくれた。
「こんなにも鬼達の生活が良くなっていっているのは、お前のおかげだ、あやめ」
「ありがとうございます」
鬼童丸に声を掛けられたあやめの顔が、林檎もかくやと言わんばかりに真っ赤だった。
そう、現在――。
「まるで仏像みたいだな」
「ぶ、仏像にございますか……!?」
「すまねぇ、気を悪くしたか? 年頃の女に言う台詞じゃなかったな」
「いいえ、鬼童丸さんの言う通り、仏像もかくやの固まり具合で……昨日はいつの間にか、一緒に眠っていたので……その……最初から衾の中でこんな風に一緒なので、ものすごく緊張しています」
――あやめは、鬼童丸と一緒に床についていた。
(夫婦だって分かるように毎晩一緒に眠っているだけだけれど……)
しかも、ご丁寧に、彼から抱きしめられている。
心臓がはち切れんばかりに高鳴っていた。
彼の少しだけ低い声音が鼓膜を震わせてくる。
こうなったのには少しだけ事情がある。
「一度一緒に眠った位では慣れねぇよな、俺もお前を急に攫って来ちまったし……俺が外に出ようか?」
「いいえ、こんなに寒いのに……! それに、なかなか慣れないけれど夫婦ですし……!」
そんなこんなの押し問答の末に、三日夜を超した後も、共寝することになったのだが――。
(さすがに緊張する……)
意識がある内から、異性に抱きしめられているのでは――どうにも緊張して眠ることが出来そうにない。
しばらく無言のまま過ごしていたが――。
「なあ、あやめ、まだ起きてるだろう?」
「ええ、はい、まだ眠れなくって……」
抱きしめてくる鬼童丸が、口の端を釣り上げてくつくつと笑いはじめた。
押し問答の末、結局抱きしめられたまま過ごすことになった。
彼の腕の中はなんだか温かくて、ぽかぽかしていて……。
「母は肺を患っていたし、こんな風に誰かに抱きしめられるのなんて、子どもの時以来で……」
そこまで声に出すと、瞳からポロリと涙が零れた。
「あ、ごめんなさい……泣いてしまって……最後は流行り病に罹って亡くなってしまいました……私に移ってはいけないからと離れて過ごしていて……」
母と引き離され、影ながら彼女の食事の準備だけをして過ごしていた。
最期の時を、そばにいるのに近づけずに過ごした際の哀しみが胸の奥底からせり上がってきていた。
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