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そして現れたのは

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 その言葉に、私は何も答えることができなかった。
 ……それほどの恐怖に体をむしばまれていたせいで。

 先ほど見えた精霊だけでも、その数は百を越える数だった。
 それだけで私を殺すのには十分な数だろう。
 その上、ここには私への怒りを隠さない聖獣がいる。
 ……そんな状況から、どうやったら逃れられる?
 そんな答えのでない問いに体が好くんでしまった私を、聖獣は笑った。

「ここで怖じ気付くくらいなら、余計なことをしなければよかっただろうに」

 そういって腕を振り上げ、その途中で聖獣は動きを止めた。
 そして背後へと振り返り、聖獣はゆっくりと手をおろした。

「そのつもりだったが、まあいい。今回は奴に譲ってやろう。我には滅ぼすことしかできないからな」

「……は?」

 その言葉に、全く理解できない私を放置し、聖獣は身を翻す。
 瞬間、その姿が幻のように消えた。
 突然のその光景に、私はただ呆然と立ち尽くす。

「はっ、はっ」

 そして数秒後、ようやく体が動かせるようになった私は、その場に足から崩れ、荒い呼吸を繰り返すことになった。
 何が起きたのかは理解できていない。
 ただ、自分がなんとか生き残ったことだけは確かで、その幸運に私はただ感謝する。
 命の危険はもうさったのだ。

 ……こつこつ、と背後から足音が響いてきたのはそのときだった。

 その足音に私は呆然と顔をあげ、そしてその入ってきた人間に目を見開くこととなった。

「聖獣様には、お膳立てを感謝しないと」

 飄々としたその人物は、本来隠された場所であるこの部屋が、まるで自分お部屋であるかのような気安さで足を踏み入れてくる。
 そしてその人物は、床に手をついた私を見下げ、笑った。

「やあ、カイザード。いい姿だね」

「ライ、ハート……」

 ──新たに現れたのは、帝国の英雄皇子その人だった。
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