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第一章
ノマドの騎士の打算混じりの好意
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お茶会の日の一件以降、アロンダイトは頻繁に図書室に訪れていた。
急に読書に目覚めた…訳ではもちろんない。目的はほぼ毎日図書室に入り浸っているティターニアである。
だがそれは純粋な恋心からではなかった。
カマエメラム伯爵家は歴代騎士の家系だ。アロンダイトの父で現当主であるホランダイトもまた、かつては腕の立つ騎士だった。その腕は第一騎士団の団長を務めるほどであった。
今現在は利き腕である右腕の怪我により騎士を退いてはいるが、左手で戦ってもその辺の若い騎士なら簡単に倒してしまうほどの腕は保っており、今でも騎士達の憧れの存在である。
アロンダイトはそんなカマエメラム伯爵の一人息子だ。それ故に生まれた頃から当然のように伯爵家の跡取りとして育てられた。
なかなか子宝に恵まれなかったカマエメラム伯爵夫妻にやっと生まれた子供。しかも男児となれば伯爵夫妻も周辺の者も大喜びであった。
父であるホランダイトは、まだよちよちと歩くようになったばかりであったアロンダイトに自ら剣を指導するほどに喜び、アロンダイトに多大な期待を寄せていた。
しかしそんな状況はアロンダイトにとって大きなプレッシャーとしてのしかかっていた。周囲からの期待も偉大な父親の存在も、彼には重荷でしかなかった。
しかし最初は周囲の期待に応えようと、アロンダイトも必死に努力をしていた。
だが、アロンダイトがどんなに努力をして頑張っても横から軽々と追い越していく存在があった。
ゼラニューム侯爵家の次男、ユージーン・ゼラニューム。
…そう、幼なじみのユージーンである。
爵位はゼラニューム家の方が上であったが、父親同士の仲が良かったことから同時期に生まれたアロンダイトとユージーンは幼い頃から交流する機会が多く自然に父親たちと同様に仲良くなった。
しかし、それは同時に周囲からアロンダイトとユージーンが比べられるきっかけになってしまった。
何をしてもユージーン、もしくは父親と比べられ、「ユージーン様はもっと凄い」「父君が子供の頃の方が凄かった」と周囲から言われるアロンダイト。
家柄でも勉学でも剣術でも…、なんでも自分の上をいくユージーンの存在は次第にアロンダイトの心を追い詰めていった。
そして追い打ちとなったのは、父までもがユージーンのことをべた褒めしていたことだ。これに関しては決してホランダイトは息子であるアロンダイトとユージーンを比べた訳でも悪気があった訳でもなく、ただ親友の子供を素直に優秀だと褒めていただけだったのだが…。
普段自分には厳しく滅多に褒めることなどない父が、他でもないユージーンを褒めたという事実はアロンダイトの心を折るにはじゅうぶんであった。
心が折れ、やる気を失ったアロンダイトは努力することをやめてしまった。
努力したところでどうせ自分はユージーンや父親の存在には勝てない。
ならば最初からいい加減で不真面目な出来の悪いヤツだと思われる方が良い。努力しても幼なじみや父親に勝てない可哀想なヤツだと思われるよりマシだ。
それに、不真面目に振る舞えば周囲から向けられていた期待も無くなるだろう。その方が気楽だ。
そんな風に考えるようになってしまったのだ。
その頃からアロンダイトは女遊びに耽るようになった。貴族のご令嬢から、使用人、踊り子、娼婦…様々な女性と浮名を流すアロンダイト。
しかしどんな噂が流れてもアロンダイトは女性に困ることはなかった。
父親の功績からカマエメラム伯爵家が辺境伯ほどの権力を持っていた為にそれに惹かれて自ら近づいてくる女性も多かったからだ。
加えてアロンダイトがかなりの美形であったことも理由のひとつだろうか。
女性も羨むほどに長いまつ毛に縁取られた快晴の空の色のぱっちりとした瞳は柔らかく優しげな印象を与え、太陽のように輝く金色の髪は少しくせっ毛で子犬のような甘い顔つきをより魅力的にみせる。
アロンダイトのこの甘いマスクに今までどれだけの女性が魅了されてきたことだろうか。
色んな女性を渡り歩くその様子からノマドの騎士というあだ名がついているアロンダイト。だが、今までに本気になった女性はいない。
どうせ皆カマエメラム伯爵家の嫡男という肩書きや整った容姿などの上辺にしか興味がないのだと思っているからだ。
そして実際に今までアロンダイトに近づいてくるのはそのような女性が大半であったのだ。それが更にアロンダイトを歪ませていった。
そんな中、偶然出会った王女ティターニア。そして、アロンダイトはティターニアに好意と興味を抱いた。
打算混じりの好意と純粋な興味。
権力の最高峰であるアルストロメリア王国国王アルフレッドの第一子にして一人娘のティターニア。
彼女と親しくなるということは王家との親交を深めるということである。
カマエメラム家と王家との結び付きをアロンダイトが深められれば、周囲のアロンダイトを見る目も変わるだろう。
万が一にティターニアと婚約にでも至れば、出来損ないの騎士から未来の女王の夫へと一気にランクアップする。
そうなれば自分にはもう誰も何も言えない。全て自分の上を行くユージーンにも劣等感を抱かなくていい。
そんな風な思いでティターニアに近づいていた。
純粋な好意を抱いていない訳では無い。今まで出会った女性とは全く違うティターニアに興味を持っているのも事実だ。だが、アロンダイトの心の中に蓄積された黒いモヤがその純粋な気持ちを覆い隠してしまっていたのだった…。
急に読書に目覚めた…訳ではもちろんない。目的はほぼ毎日図書室に入り浸っているティターニアである。
だがそれは純粋な恋心からではなかった。
カマエメラム伯爵家は歴代騎士の家系だ。アロンダイトの父で現当主であるホランダイトもまた、かつては腕の立つ騎士だった。その腕は第一騎士団の団長を務めるほどであった。
今現在は利き腕である右腕の怪我により騎士を退いてはいるが、左手で戦ってもその辺の若い騎士なら簡単に倒してしまうほどの腕は保っており、今でも騎士達の憧れの存在である。
アロンダイトはそんなカマエメラム伯爵の一人息子だ。それ故に生まれた頃から当然のように伯爵家の跡取りとして育てられた。
なかなか子宝に恵まれなかったカマエメラム伯爵夫妻にやっと生まれた子供。しかも男児となれば伯爵夫妻も周辺の者も大喜びであった。
父であるホランダイトは、まだよちよちと歩くようになったばかりであったアロンダイトに自ら剣を指導するほどに喜び、アロンダイトに多大な期待を寄せていた。
しかしそんな状況はアロンダイトにとって大きなプレッシャーとしてのしかかっていた。周囲からの期待も偉大な父親の存在も、彼には重荷でしかなかった。
しかし最初は周囲の期待に応えようと、アロンダイトも必死に努力をしていた。
だが、アロンダイトがどんなに努力をして頑張っても横から軽々と追い越していく存在があった。
ゼラニューム侯爵家の次男、ユージーン・ゼラニューム。
…そう、幼なじみのユージーンである。
爵位はゼラニューム家の方が上であったが、父親同士の仲が良かったことから同時期に生まれたアロンダイトとユージーンは幼い頃から交流する機会が多く自然に父親たちと同様に仲良くなった。
しかし、それは同時に周囲からアロンダイトとユージーンが比べられるきっかけになってしまった。
何をしてもユージーン、もしくは父親と比べられ、「ユージーン様はもっと凄い」「父君が子供の頃の方が凄かった」と周囲から言われるアロンダイト。
家柄でも勉学でも剣術でも…、なんでも自分の上をいくユージーンの存在は次第にアロンダイトの心を追い詰めていった。
そして追い打ちとなったのは、父までもがユージーンのことをべた褒めしていたことだ。これに関しては決してホランダイトは息子であるアロンダイトとユージーンを比べた訳でも悪気があった訳でもなく、ただ親友の子供を素直に優秀だと褒めていただけだったのだが…。
普段自分には厳しく滅多に褒めることなどない父が、他でもないユージーンを褒めたという事実はアロンダイトの心を折るにはじゅうぶんであった。
心が折れ、やる気を失ったアロンダイトは努力することをやめてしまった。
努力したところでどうせ自分はユージーンや父親の存在には勝てない。
ならば最初からいい加減で不真面目な出来の悪いヤツだと思われる方が良い。努力しても幼なじみや父親に勝てない可哀想なヤツだと思われるよりマシだ。
それに、不真面目に振る舞えば周囲から向けられていた期待も無くなるだろう。その方が気楽だ。
そんな風に考えるようになってしまったのだ。
その頃からアロンダイトは女遊びに耽るようになった。貴族のご令嬢から、使用人、踊り子、娼婦…様々な女性と浮名を流すアロンダイト。
しかしどんな噂が流れてもアロンダイトは女性に困ることはなかった。
父親の功績からカマエメラム伯爵家が辺境伯ほどの権力を持っていた為にそれに惹かれて自ら近づいてくる女性も多かったからだ。
加えてアロンダイトがかなりの美形であったことも理由のひとつだろうか。
女性も羨むほどに長いまつ毛に縁取られた快晴の空の色のぱっちりとした瞳は柔らかく優しげな印象を与え、太陽のように輝く金色の髪は少しくせっ毛で子犬のような甘い顔つきをより魅力的にみせる。
アロンダイトのこの甘いマスクに今までどれだけの女性が魅了されてきたことだろうか。
色んな女性を渡り歩くその様子からノマドの騎士というあだ名がついているアロンダイト。だが、今までに本気になった女性はいない。
どうせ皆カマエメラム伯爵家の嫡男という肩書きや整った容姿などの上辺にしか興味がないのだと思っているからだ。
そして実際に今までアロンダイトに近づいてくるのはそのような女性が大半であったのだ。それが更にアロンダイトを歪ませていった。
そんな中、偶然出会った王女ティターニア。そして、アロンダイトはティターニアに好意と興味を抱いた。
打算混じりの好意と純粋な興味。
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万が一にティターニアと婚約にでも至れば、出来損ないの騎士から未来の女王の夫へと一気にランクアップする。
そうなれば自分にはもう誰も何も言えない。全て自分の上を行くユージーンにも劣等感を抱かなくていい。
そんな風な思いでティターニアに近づいていた。
純粋な好意を抱いていない訳では無い。今まで出会った女性とは全く違うティターニアに興味を持っているのも事実だ。だが、アロンダイトの心の中に蓄積された黒いモヤがその純粋な気持ちを覆い隠してしまっていたのだった…。
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