チャラい系騎士と魔女と呼ばれた王女

灰猫あさ

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第一章

王女殿下の100%純粋な好意

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いつもの通り、ティターニアは図書室にいた。
面白そうだと感じた本を数冊手にして窓際の読書スペースのソファに腰掛ける。

(今日はアロンダイト様は朝からお仕事だと仰っていたから、いらっしゃらないわよね…。)

アロンダイトが来ないことを少し残念に思いながら、ティターニアは持ってきた本の一冊を開いた。一度本を読み出すと止まらなくなるティターニアは黙々とページをめくっていき、休憩を全く挟むこと無く席へ持ってきていた本全てを読み尽くしてしまった。

「全部読み終えてしまったわね…。他の本を読むか…、今日はもう部屋に戻るか…。どうしましょう。」

とりあえず持ってきていた本を棚へ戻そうと立ち上がろうとしたその時…、ふいにドアが開く音が聞こえてた。

(…まさか、アロンダイト様…?今日はいらっしゃらないと思っていたのに…。)

ティターニアの胸がトクンと高鳴る。
ドアが開く音に続いて聞こえてきた足音は、ティターニアの居る読書スペースに向かって来ているようだ。

「ごきげんよう、王女殿下。」

現れたのはやはりアロンダイトであった。
ティターニアはドキドキと脈打つ鼓動を落ち着かせようと、深呼吸をひとつしてアロンダイトの方を向いた。

「ごきげんよう、アロンダイト様。」
「…アロンと呼んでくださいと何度も申し上げておりますのに。」

少し拗ねたような表情を浮かべているアロンダイトに、ティターニアはクスリと小さな笑いを漏らした。

「…お仕事お疲れ様です、アロン様。」
「ありがとうございます。」

ティターニアが恥ずかしさに頬を染めながら愛称でアロンダイトを呼ぶと、アロンダイトは満足そうに微笑んでティターニアを見た。
そんなアロンダイトに、ティターニアは更に赤くなってしまう。

「わたくしだけアロン様と愛称で呼ぶのはズルいです。」
「…え…。」
「王女であるわたくしを愛称で呼ぶのは難しいかもしれませんが…せめて名前で呼んでくださいませ。」

想像もしていなかったティターニアの申し出にアロンダイトは驚き目を見開いた。
だがすぐにまた笑顔に戻ったアロンダイトは、ティターニアの顔を覆っている前髪をサラりと左右に払うと、現れた2つの宝石のような瞳をじっと見つめた。彼のその目は優しげに細められている。

「仰せのままに、ティターニア様…。」
「…っ…。」

二人以外に誰もいない図書室では、「不敬だ!」とアロンダイトの行為を咎める無粋な者もいない。
ちなみにこの“無粋な者”は特定の人物を指している訳では無い。決してユージーンを思い浮かべて言った訳では無いのだ。…本当に。

息がかかりそうなほどに近い距離で覗き込まれて、ティターニアはドギマギしてしまう。
社交の場に滅多に顔を出さないティターニアは男性に口説かれたこともほとんどないため、こういったアロンダイトの行動にいちいちドキドキしてしまうのだ。
熟したトマトのように真っ赤になってしまったティターニアを満足そうに見つめ、アロンダイトは覗き込むようにしていた身体を起こした。

「今日はお仕事だと仰っていたので、いらっしゃらないと思っておりましたわ。」
「もしかしたらまだティターニア様が図書室にいらっしゃるかもしれないと思ったので…。」
「わたくしに…会うために…??」
「はい。…仕事を終えたあと急いで来たんですよ?」

アロンダイトはそう言って悪戯っぽくウインクして見せた。
アロンダイトはティターニアに会うために図書室に来てくれている。その事実がティターニアの胸を熱くする。
家族以外にティターニアのもとを好んで訪れるような人間は今までいなかった。むしろ避けられる方が多かったのだ。

(アロン様は…わたくしが求めていたものをいつもくださる。ずっとずっと欲しくて欲しくて堪らなくて…でも手に入れることが出来なかったものを…。)

普通とは違う自分を…そのままの自分を、受け入れてくれる友達が、ティターニアはずっと欲しかった。でも今までずっとそんな人物は現れてくれなかった。

でも今は。
自分と会うことを楽しみにしてくれている人がいる。仕事上がりに急いで会いに来てくれる人がいる。
ティターニアにとってはそれはまるで夢のようなことであり、泣きたくなるほどの喜びと幸せを彼女は噛み締めていた。

…楽しい時間はどうしてあっという間に過ぎてしまうのだろう。いつの間にか窓の外が暗くなり始めている。

「おや、もうこんな時間でしたか…。」

ティターニアにつられて窓の外を見たアロンダイトが呟くと、ティターニアは名残惜しいといった表情でアロンダイトを見つめた。

「そういえば、もうすぐですね。ティターニア様の誕生日。」
「うう…今から胃が痛いですわ。」

誕生日が来ればティターニアは成人を迎え、彼女の成人を祝うために行われる式典に参加しなければならないのだ。
人前に出るのが苦手なティターニアはそれが憂鬱でならなかった。

「そうだ、ティターニア様。当日の式典が始まる前に、少しだけ俺にお時間いただけませんか?」
「…?支度を終えてからでしたら、大丈夫だと思いますが…。」

ティターニアは不思議そうに首を傾げながら「何かあるのか」とアロンダイト訪ねるが、人差し指を口にあてて「内緒です」と悪戯っぽく彼に微笑まれれば、気になりつつもそれ以上は何も聞けなくなってしまうのだった。

その後ティターニアが読んでいた本を片付け、二人は図書室を後にする。アロンダイトはティターニアを部屋まで送り届けたのだが、先ほどの話のことについてはティターニアに何も教えてくれなかったという…。
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