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第一章

引き合わせたのは

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ばら撒いてしまった資料を全て回収し、内容ごとにきちんと仕分ける作業が終わった時には、アロンダイトは仕事に戻らなければならない時間になってしまっていた。

「…あとは棚に仕舞うだけですから、わたくしがやっておきますわ。アロンダイト様はお仕事にお戻りくださいませ。」
「えっ!?いえ、王女殿下にそのようなことをしていただく訳には…。」

後のことは任せて仕事に戻って良いとティターニアは告げるが、まさか自分だけ去って王女に一人で片付けをさせる訳にはいかないとアロンダイトは首を横に振った。

「これくらいならすぐに終わりますし、今は誰も見ていませんから大丈夫です。」

ティターニアはそう言うと口元に人差し指をあて、「内緒ですよ」と悪戯っぽく笑ってみせたのだった。


「…で、結局王女殿下に片付けを任せてきたのか…。」

仕事に戻ったアロンダイトは待ち構えていたジーンに捕まり、尋問を受けていた。適当に誤魔化そうかとも思ったのだが、後でバレてもめんどくさいし何より先ほどのことを誰かに話したい気持ちもあったのでアロンダイトはユージーンに図書室でのことをありのまま話した。
幼なじみでユージーンのことをよく知っているアロンダイトは彼になら話しても大丈夫だと考えたのだ。
しかし話を聞いたユージーンの表情が渋くなったのを見て、やっぱり適当に誤魔化すべきだったかとアロンダイトは悔やんだのだが後の祭りである。

「いくら良いとおっしゃられたからって、自分の仕事を王女殿下に丸投げするやつがあるか!」
「お前が仕事に遅れるなって言ったんじゃんか。」
「あー言えばこう言う!そもそもお前がもっと早く返しに行ってれば、そんなにギリギリにはならなかっただろ!」

悪びれる様子のないアロンダイトにユージーンは頭痛をおぼえた。こめかみに指をあて、深いため息をつく。

「…はぁ。今度王女殿下にお会いした時にきちんと謝罪しないと…。」
「ん?ユージーンは王女殿下とそんなに会う機会があるのか?俺は今日初めて会ったぞ。」

近いうちにティターニアと会う予定があるようなユージーンの口ぶりに、アロンダイトは首をかしげる。
なんせティターニアは滅多に姿を現さないのだから。
アロンダイトに問われて、ユージーンはあからさまに「しまった…」という表情を浮かべていた。

「お?あれか?もしかしてジーン、王女殿下と密会でもしてんのか?」
「…不敬だぞ。」 

下世話なことを言い出すアロンダイトをユージーンは咎める。しかしアロンダイトは気にする風もなく、ニヤニヤとしながらユージーンを見つめている。

「…たまに図書室でお会いするんだよ。王女殿下は読書がお好きらしくて…。俺も本や資料を借りに結構図書室に行くから…。」
「へぇ…図書室で王女殿下と密会とは。ジーンもなかなかやるねぇ…。」

ガチャ…
ユージーンは無言で剣に手をかける。
そして剣先をアロンダイトの方に向けた。ユージーンの目は据わっている。

「ちょ…っ、待て!早まるな!剣は止めろ、剣は!」
「問答無用。不敬罪だ。」

ヒョイヒョイと器用に剣をかわすアロンダイトと据わった目で剣技をくりだすユージーン。まわりには他の騎士たちもいるのだが誰も止める者はいない。
アロンダイトとユージーンがじゃれ合っているのはいつもの事で、同じ隊の騎士たちには見慣れた光景なのである。

(こんなことなら自分で返しに行けば良かった。王女殿下とアロンが出くわすことは予測出来たはずなのに…。)

じゃれ合いが終わったユージーンはアロンダイトに資料を返しに行かせたことを後悔していた。
ティターニアがよく図書室を利用していることをユージーンは知っていた。それなのにアロンダイトを図書室へ向かわせた己の軽率さを呪ったのだった。
しかし後悔先に立たず。もう既に起きてしまったことは変えられない。

そう、2人は出会ってしまった。
この出会いがティターニアにもアロンダイトにも大きな変化をもたらすことになることを、引き合わせたユージーンはもちろん、当事者であるティターニアとアロンダイトの2人もまだこの時は知る由もなかった。
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