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落日

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 武田軍侵攻の話を聞きつけ、朝倉義景が目を剥いた。

「義信が5万の軍で攻めてきたじゃと!?」

「はっ、近江より攻め入った武田軍は敦賀を制圧し、金ヶ崎城を落としたとのこと。また、軍を二つに分け、加賀からもこちらに攻め入る構えを見せているとのことにございます」

「なんということじゃ……」

 予想以上に武田軍の侵攻が早すぎる。

 織田討伐では頼もしいとさえ感じた武田軍であったが、敵に回ればこんなにも恐ろしいものだとは……。

「兵を集めよ! 武田軍を迎え撃つぞ!」

 義景の号令の元、一乗谷に2万の兵が集まった。

 しかし、よくよく見れば朝倉家の重臣が何人か姿を消していた。

「おい、景国はどうした。姿が見えぬが……」

「それが……魚住景国ら朝倉家重臣、ことごとく武田家に寝返ったとのこと。領内に篭り、武田軍を迎え入れる用意を進めているとのことにございます」

「なっ……。」

 敵は大国で、ただでさえ兵数も少ないという状況下。朝倉家譜代の重臣まで離反してしまうとは……

 兵数でも大差をつけられ、重臣たちは朝倉家を見放し、兵の質においても圧倒されている。

 朝倉家に勝ち目はないのは、もはや誰の目にも明らかであった。

「景鏡、儂はどうすればよい。どうすればこの場を生き延びることができる」

 義景の従兄弟にして筆頭家老の景鏡がちらりと外を眺めた。

「一乗谷を落とされるは時間の問題。……ひとまずは我が領地の大野郡にまで参られませ。かの地で態勢を立て直すのです」

 越前北部に位置する大野郡は盆地であるため守りやすく、また当時朝倉家と同盟関係にあった平泉寺もあり、義景が再起を図るには絶好の地であった。

 景鏡の進言に従い義景は一乗谷を離れると、道中の寺にて休息をとっていた。

「この年になると山越えは応えるのぉ、景鏡」

 義景が尋ねるも、景鏡からの返答はない。

「景鏡……?」





 その頃、景鏡は自身の手勢を率いて義景の篭もる寺を包囲していた。

 武田義信から提示された本領安堵の条件。

 それは朝倉義景の首を持って武田軍に参じるといったものであった。

「かかれェ!」

 景鏡の指揮の元、200の軍が義景の篭もる寺に攻めかかった。

 この時、義景は小姓らとともに応戦するも、多勢に無勢。小姓が次々と討ち取られていく中、朝倉義景は自害をした。

 こうして、五代に渡って一乗谷に栄華を築きあげた朝倉家は滅亡するのだった。
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