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第22章(1)雪side
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しおりを挟むけど。その背中や、雰囲気から怖さは全く感じなくて……。怒っているんじゃなくて、何だか戸惑っているように、オレの目には映った。
だから、オレはゆっくり近付いて声を掛ける。
「そ、そうなの?」
「……」
「オレに、何か……くれるの?」
「……。店のオヤジが勘違いして売りつけて来ただけだ。捨ててくれていい」
振り向いてくれない。
でも、そう言って響夜は手に持っていた"何か"を、オレに差し出した。
不思議に思いながらも受け取って、その小さな袋の包装を開けて中身を取り出すと……。
「ーー……可愛い」
手の平に乗せたそれを見て、オレは思わずそう言っていた。
中から出てきたのは、髪ゴム。桜の花の装飾品がついた、可愛らしいヘアアクセサリーだった。
これを、響夜がオレにーー……?
そう思って髪ゴムを見つめていたら、何だか胸が少しくすぐったい気がした。
すると、またぶっきらぼうな声が聞こえる。
「いらねぇだろ」
「!……そんな事ないよっ」
ーー……けど。
そのぶっきらぼうな態度の中に、不器用な優しさがある事を、オレは知った。
いつの間にかこっちを向いていた響夜が、
「ったく、タイミングわりぃんだよ。髪、勝手に切りやがって……」
まるで拗ねた子供のような、悔しそうな……。ううん、照れた表情を必死に隠そうとしながら、そう、愚痴を溢したんだ。
っ、……どうしよう。
嬉しい、かも……知れない。
そんな響夜が何だか可愛く思えて、まるで照れが伝染したように恥ずかしくなってくる。それに、素直に……オレは嬉しかった。
きっとオレが髪を伸ばしたままで、毎回そこら辺にある紐で髪を束ねているのを知ってて……。気にしててくれたんだ。
でも、オレが髪を短く切っちゃってたから、渡しづらかったんだよね?
おそらく店の店主さんに強引にすすめられた、って言うのも嘘ではないだろう。
けど、響夜の性格上、本当に嫌なら買う筈がない。
そう思ったら、嬉しさがまた溢れる。
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