30 / 589
第1章(5)紫夕side
1-5-2
しおりを挟む「っ、そんな事したら雪ちゃんと一緒に暮らせなくなるわよッ!!!!!」
ーー……。
その言葉は、この時の俺を、何よりも冷静にさせた。
振り払おうとしていた腕が、力が、あっという間に緩んで、俺の動きは止まった。マリィが語り続ける。
「……分かる、分かるわ!紫夕ちゃんが許せないのは、怒るのは分かる!
っ……でも、暴力はダメッ!!雪ちゃんを護りたいなら、ここは我慢しなきゃダメッ!!」
雪を、護りたいならーー……。
マリィの言葉が心に浸透して、俺はゆっくり視線を雪に移した。
すると、ベッドで上半身を起こした雪が、ブランケットを抱き締めたまま俺を見ていて、視線が重なって……。俺は右手を下ろすと、胸ぐらを掴んでいた左手の力も緩めた。
もしもこの時相手をボコボコにしていたら、俺は暴力事件を起こした事で雪を引き取る事が出来なくなっていた事は勿論、隊長職も失っていて……。雪を護ってやるどころではなくなっていただろう。
本当にマリィのお陰だ。そしてこの後更に、マリィは最高の起点をきかせてこの場を収めてくれる。
「っ、何なんだよ!!」
それは、俺から解放された男が立ち上がり、後退りしながら文句をつけてきた時の事だ。
「どうせお前だって同じだろっ?そいつ引き取って、自分の好きなようにしたいだけだろっ?!カッコつけんなよッ!!」
まさに負け犬の遠吠え。
悪事が見付かって、体裁が悪い男が放つ戯言。
でも、ついさっきまでの事もあり、そんな奴の言葉にでさえ俺は挑発にのってしまいそうで……。必死に必死に、拳を握り締めて堪えていた。けどーー……。
「訴えてやる!
僕が訴えれば例えお前が殴ってなくてもみんな僕の味方にーー……」
「ーーどうぞ、お好きになさい。アンタ達の会話は、全部録音させてもらってたから」
状況を一変に覆す、強い言葉。
男の言葉を遮るようにして、マリィが言った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)
ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。
僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。
隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。
僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。
でも、実はこれには訳がある。
知らないのは、アイルだけ………。
さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪
僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定
死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!
時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」
すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。
王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。
発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。
国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。
後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。
――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか?
容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。
怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手?
今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。
急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…?
過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。
ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!?
負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。
-------------------------------------------------------------------
主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。
光のもとで1
葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。
小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。
自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。
そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。
初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする――
(全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます)
10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! 時間有る時にでも読んでください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる