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第1章(5)紫夕side
1-5-1
しおりを挟む突然現れた俺を見て、中に居た奴らが驚きふためいて何か言ってる。
でも、何も聞こえない。
こんな奴らの弁解なんて今更聞いてやるか。
頭に血が昇りすぎて、この時俺には周りの声や音なんて完全にシャットダウンされていた。
そんな中で視野に映る、ベッドの上に寝転がらされている雪。俺がやったブランケットをギュッと抱き締めて、身を縮ませていた。
「よごれ……ちゃった」
今朝、ブランケットを洗いながらそう言った雪を思い出す。小さな声で、今にも消えそうだった言葉の本当の意味を知る。
雪は「汚れた」と言ったが、洗濯してやった時、俺にはそのブランケットのどこが汚れていたのか正直分からなかった。
けど、今やっと気付いてやれた。
雪は昨夜も、ああやってブランケットを抱き締めて耐えてたんだーーッ!!!!!
怒りは収まる事なく湧き上がってくるばかり。慌てて、急いで逃げていこうとする奴らの一人を捕まえて床に放ると、起き上がる前に馬乗りになって俺は胸ぐらを掴んだ。
コイツ、どうしてやろうかな?
首絞めてやってもいいけど、簡単に気絶させて楽にはしたくねぇ。
そんな事を考えてたら、奴は無駄な抵抗をしてこようとしていた。胸ぐらを掴んでる俺の手を両手で掴んで、何か言ってる。その表情が、こんな状況なのに自分をバカにしているように見えて、俺の心は決まった。
……決めた。
まずは、医者にとって大事な指を一本ずつ折ってやろう。
後先の事なんて考えられなくて。ただ、雪を傷付けたコイツが許せない。
それから、舐めされた、って言ってたな。
そんな汚ねぇモン潰して、男として不能にしてーー……。
「ーーダメッ!!!」
そう思った俺が、奴に右手を向かわせた瞬間だった。耳元でマリィの声が聞こえて、俺の右腕は抱えるようにして止められる。
俺は邪魔されて苛立ちが溢れる視線をマリィに向けると、振り払おうと力を込めた。けど、マリィも譲らない。ものすごい力でガッチリと押さえ込んで来た。
そして、「放せッ!!」と怒鳴ろうとした俺をも押さえ込む勢いで言う。
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