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第1章 現実? 異世界? 夢?

第7話 嘘に決まってる

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 ”覚醒者”は救世主
 先日、世界中から人が消えた。人々は目の前から突然消え、世界のあちこちでブラックホールの様な化け物が出て来ると言う事件が多発。その戦闘力は成人男性程の力を持ち、種類によっては口から火を吹くなどと言った、まるで魔法の様な力を持っていた。一般人には到底敵う事も出来ず、安全な所へ逃げるか、軍を待つしか対処方が無かった。
 しかし、ある日を境に行方不明だった者達が強力な力を持って現れた。その者達はあっという間に化け物を倒して行った。その人間離れした力を持つ者、それを評してーー

「覚醒者、ねぇ?」

 俺はスマホのネットニュースを閉じ、呆れる様に息を吐いた。

「ここ等辺は田舎なので、覚醒者の人数も少なくて【GATE】への対応も遅くなってるみたいです」

 なるほど……俺がこんなに怪我したのもアイツがチンタラしてたからって事か。今思い出してもムカつく……言葉遣いが良ければ良いって訳じゃねぇんだぞ?

「玲さん、どうぞ」
「お、おぉ、悪いな」

 そんな俺の心境を察してか、日島がお茶を入れてくれる。
 ありがたい……けどこいつ、いつまで居るんだ?

「日島、お前いつまでも居なくて良いんだぞ? 仕事もあるだろ?」
「いえ、それが会社が臨時の休日を設けてくれて……」
「はあ? あのクソ会社が? 笑えないぞ?」

 サービス業務・残業・休日出勤が当たり前の会社だ。臨時の休日なんて、こんな事態になったとしても設ける筈がないと思うんだが?

「本当ですよ! 今は政府から【GATE】の被害に遭った会社は1ヶ月程の休暇を勧告されているんです」
「政府からか……まぁ、それなら納得だな」

 アイツらは保身や利益を追い求めてるからな。ウチでは何年か前に労基に報告されてもいるし、これ以上印象を悪くしたくなかったんだろう。

「でもなぁ……1ヶ月の休暇だからってそんな深い隈が出来てる奴に世話される程、俺も落ちぶれて無いつもりなんだが?」

 そう言うと日島は急いで顔を手で覆った。

「……そんなに酷いですか?」
「今までに見た事が無い日島になってる」
「私は女の子ですから色々と
「お前、俺が入院してから寝てないだろ? 大体分かるぞ?」

 俺はよく不眠症になってたりしたからな。顔を見ればその程度ぐらいは分かる。

「最低限の事は教えて貰ったし、お前も色々あって疲れてる筈だ。俺は何も痛く無いし、体調は万全だ。安心しろ」

 俺がムンッと力こぶを作ると、日島はやっと納得したのか鼻で笑った。

「分かりました。何か不便な事とか、何かあったら教えて下さい」
「分かった、分かった。それじゃあな」

 日島を手で払い、俺はベッドに横になり、大きく息を吐いた。そしてーー。


「メニュー」

 ・status
 ・inventory


 メニューと呟き、2つの欄を出した。

 この1週間の出来事を踏まえれば、これは幻覚等ではない。


 現実。


「もっとこれを理解しないといけないな……ステータス」


 名前:泉 玲
 レベル:2+1
 年齢:25
 種族:人間
 ユニークスキル:【明晰夢】
 スキル:
 称号:[異世界へと自力で渡れる者][表裏一体]

 力:G 2.00 +0.5
 防:G 2.00 +0.5
 速:G 2.00 +0.5
 知:G 2.00 +0.5
 魔:G 1.00 +0.5


 俺は呟いて、ステータスボードを出す。
 ふむ……レベルが上がって、能力が上がってる。魔物を倒せば、レベルが上がる……これはゲームとかと同じ仕様なんだな。でも西条はレベル分からなかった、もしかして西条達、覚醒者達はもの凄いレベルが高いんじゃないか? 
 多分、分類的には俺も覚醒者の分類だと思うんだけど……まぁ、今はそれを考えても強くなれる訳じゃないか。

「次はこっちだ、インベントリ……ん? インベントリ!」

 俺は少し強めに言った。それでも俺の前には何も現れない。しかし、視界の端に空間が歪んでいる所を見つけ恐る恐る手を伸ばした。

「うお~……」

 手が途中から無くなった。俺は何度か手の差し入れを繰り返した後、そこに頭を入れた。
 すると、そこは周囲の光景がうっすらと見える空間だった。中はこんな感じか……インベントリって言うんだから何か此処に仕舞えるんだよな?

 そんな事を考えていると、病室の扉が開かれる。看護師さんだ。
 俺は看護師さんと目が合い、急いでインベントリに頭を突っ込んだ変な恰好から元に戻る。

「失礼しま~す、すみません。ノックはしたんですけど……あ、此方に昼食置いていきますね~」
「あ、ありがとうございます」

 看護師さんは、笑顔でカートを押しながら病院職を机の上に置いていく。

 今の恰好……見られてたって事だよな!?

 俺はさっきの自分の姿を思い返した。
 四つん這いでニコニコと周りを見渡したり、難しい顔して居たり、側から見れば中々の変人だ……死にたい。

「お元気そうで何よりですよ~、何か気分が悪い所とかありますか?」
「な、ないです、はい」
「お熱とか測りましたか?」
「えっと、さっき測ったら平熱でした」
「なら良かったです。ですけど、泉さんは大怪我してるんですからまだ安静にしていてくださいね?」

 そう言って、看護師さんは俺をベッドに横になるよう促して来る。
 その時、彼女の手が俺の手と触れ、彼女はパッと手を離した。

「あ……その、ごめんなさい」

 はは、そんな恋する乙女みたいな反応しなくても良いのに。

 俺は看護師さんと別れると、昼食を食べ始める。それに併せてinventoryの調査も続け、その調査の過程で先程の空間に物を入れると、その空間には物が仕舞える事が判明した。

 どうやらinventoryはファンタジー世界で言う、魔法の鞄(透明バージョン)だ。いつでもどこでも取り出す事が出来て、無制限・重さを感じる事もない魔法みたいなもん。イメージすれば、仕舞うのも取り出すのも自由自在みたいだ。
 取り敢えず今は、時間の経過を見る為に、みそ汁をコップに入れて仕舞ってみている。

 みそ汁は、夕食の時に取り出してみよう。よし、それじゃあ久々に起きた事だし歯を磨いて顔でも洗うか。
 俺はベッドから立ち上がると、洗面所へと向かった。


 そこで俺は動きを止める事になった。


「おいおい、マジかよ……」

 そこにはアメリアと同じ様な中世味を帯びたイケメンが驚愕の表情を浮かべていた。

「【現実と夢の同調】ってそういう事か……」

 日島にお礼を言う時いつも以上に照れていた気がする、看護師も普通の俺だったらあんな反応をする訳がない。

 辻褄が合うなぁ。まさか俺がこんなにイケメンになるなんて……これならさっきの西条にも負けない、いや自分的にはそれ以上の顔面をしてるかもしれない。

「はは、まるで…………」

 そう思った直後、身体が渦に巻き込めれるかの様な感覚に襲われる。
 この感覚は身に覚えがある、あの時のーー

 そうして、俺はどこか木造の小屋へと移動していた。

 アメリアという少女へと戻ってーー。
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