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第2章 危機

第8話 異世界?

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「また戻って来たのか……?」

 俺は周囲の様子、自分の身体を確かめた。
 小屋の中、窓から差す青白い月光が降り注いで来る。その光で見える見窄らしい貧弱な身体に、白髪の長髪。

 間違いない、アメリアだ。

「ニュースではこんな事なかった筈だ……何がどうなってるんだ?」

 現実では、覚醒者達は行方不明になった時、異世界へと神によって送られたらしい。そこでチュートリアルをやる様に強制されたらしい。そこでチュートリアルを終えた者はスキルを与えられたと言う。

 そこで俺は疑問を覚えた。

 異世界に行ったのは合っている。チュートリアルがあったと知ったのは最後の方だがあったのは分かっている。
 しかし、『異世界に神へと送られた』なんて、全然知らなかった。
 だから俺は覚醒者ではなかった……そう思ってたんだけどな。

「また戻って来るってのは、俺は特別な人間だって事か?」

 ーーいやいやいや、中二病かって。例え俺が特別な人間だとしても、死にはする。実際、3日寝込んだって言うし。

「さて……一先ず寝るか?」

 3日寝てまた寝るって言うのも精神的に参るが、夜に何か行動するのも危ないし、止めとくか。
 そんな事思っていると、俺の目の前にアレが現れる。


【貴女は親方に認められ、保護されました。しかし、貴女には着々と危機が迫っています。危機を免れて下さい】

【報酬 時間軸の変更 ???】


「はぁ?」

 それを見て俺は眉を顰めた。

 親方に保護? っと考えた所で、俺の頭にこれまで何があったのか情報が流れ込む。
 どういう事だろう? この情報は俺の記憶ではない。客観的に見た様なまるで”神の視点”での情報だ。
 もしかして……現実世界で言っていた”神”が干渉して来ているのか? 前は干渉して来て無かったのに、今になって何で?

 いや、今は情報を整理する事が先決か。

 俺が現実世界に戻った時、アメリアは現場で倒れたらしく、それを親方に保護されたらしい。此処は親方が所有している物置の小屋の中で、俺が倒れてから3日が経っている。現実ではおよそ1週間が経っていたが、こっちでは3日……時間軸が違う、ってのがさっき頭の中に入って来た情報だ。

 この情報はどうやら、questが表示された時に自動的にこっちの世界での情報がアップロードされてしまうらしい。なんとも”神の様な所業”だ。

 questの報酬ってのも、時間軸の変更になっている。まるで俺にやる気を出させる様に提示されている様で、どうも居心地が悪い……もしかして今この瞬間も”神様”に見られてるんじゃないか?


 いや、今はそうじゃないか。それよりもこの【quest】の方が気になる。
 俺は視界のギリギリ上に表示された【quest】の内容を確認した。

「危機を免れないといけない……それは分かったがどうやって免れろと?」

 まずその危機が何時起きるのか分からない。明日かもしれないし、1ヶ月先かもしれない。
 ……もしそれを予想するならーー。

「最初にするべき事は状況把握か」

 この口振り的に、今直ぐに危機が起こる事はないだろう。

 俺は立ち上がり、小屋から出た。小屋の外は町の中だったが……町というよりは、村と言った方がしっかりする光景が広がっていた。ゴロゴロとした建物が崩れた様な廃材に、木や藁で出来た小屋の様な物がポツポツと立ち並んでいる。

 夜だから寝てる可能性もあるけど……確かここだったよな?

 俺は少し移動すると、近くにあった木造の小さな建物の扉を恐る恐るノックした。そして少し間を置いて俺は言う。

「親方、アメリアです」

 俺が言った瞬間、扉がゆっくりと開かれる。

「早く入れ」

 親方は扉の隙間から顔を覗かせると、戸惑う俺の腕を掴んで家の中へと引っ張り込んだ。中へ入ると、親方は扉の方へ耳を澄ました後に安堵したかのように大きく息を吐いた。

 そして振り向くと、俺の頭に手を置いた。

「起きたのかアメリア。体調は大丈夫か?」
「大丈夫です、全部治りました」

 その父親の様な優しさに顔を綻ばせながら、俺は顔を上げた。

「親方、何かあったんですか?」

 俺はさっきの親方の様子を見て問い掛ける。

「ん? あー……そうか。お前はいつも森の中で寝てるから」

 そう言われて、俺はある事を思い出した。
 侵略された土地の人類は、魔物の上位である魔族の労働力。奴隷として日々生活させて貰っていたという事を。

「最近、何時間か置きに魔族が偵察してるんだ。もし遭遇でもしたら殺されかねん」

 え、それってヤバくね?
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