振り向けば君がいた

和之

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第九話

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  店を出ると他の者は、深山と希美子の二人とは別れて帰った。
  四人は帰り道で野村が希美子の意外性を語ると、雅美はそうでもないと以前にもあんな風な事を聴いていたらしい。問い詰めるともったいぶって雅美ははぐらかした。それをのらりくらりと話題を変ながらやっと聞き出した。    
  会社に入ってひと月目ぐらいだった。二人で初夏の中を自転車を借りて市内の散策に出かけた。御所とか鴨川べりをよく走った。上賀茂神社で休憩した。御手洗川の側に腰を下ろした。希美ちゃんは入ったその時から向こうからよく話しかけられた。たわいのない話でも希美ちゃんの口から出るとひねてないから御姫様のように優雅に聞こえるから聴いて心地良かった。きっと両親の深い愛情に包まれて育ったんだろうと勝手に解釈するほどだった。その彼女の次の言葉に唖然とした。ただそれは話が聴き終わってからだ。雅美に云わせればそれほどこの人の語りは絶妙だった。
  危ないから途中で表通りの車から逃れるように裏通りに入った。目標方向に見当を付けて、その方角の路地裏を走ると、朽ちた廃墟の家の前を通りかかった。あたしは気味が悪いから行き過ぎようとすると、希美ちゃんは動かずにそこに立ち止まっている。仕方なくあたしは「なにしてんのん?」
 と引き返すと急に訊ずねられる。
「瓦屋根でない平らな洋館作りの屋根が何でこう傾いてんのやろう、雅美ちゃんこの家どう思う」
「それゃあ住む人が居なくなれゃあこうもなるわなぁ」
「どうしていい家じゃない」
「昔はねぇ、でももうこれじゃ住めないわねぇ」
「鬼なら住める」           
 希美子は屹度見つめたまま無表情で言う。
「希美ちゃん気は確か?」 
「こんな古い家がヨーロッパの中世にはよく出てきそう、こう云うところに妖怪が昼間は息を殺して棲んでいる。それが闇夜と共に動き出す。でも心の朽ち果てた人間には解らないから厄介なのよねぇ、そして常に刃物のような心を持っている。それで知らずに人を死に追い込んでゆくのよ」
  雅美は思わず笑い出した。
「希美ちゃんこんな所に本当にそんなお化けいるの」と訊くと「居る訳ないでしょう例え話し」とさらりと流されちゃった。
  ーーそれって今考えると笑い事じゃないわねぇ。希美ちゃんは年間三万の自殺者は異常じゃないっていってるのよ。さっきの宴席も多分答えはその辺に有ると思う、と雅美は言ったが野村は腑に落ちなかった。

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