名探偵になりたい高校生

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六十話 灰村杏中学二年

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「灰村杏です。よろしくお願いします」

中学二年の二学期、私はここ、あずまひがし中学校に転校してきた。

「みんな、転校してきたばかりで、右も左もわからない灰村さんに色々教えてやってくれ。それじゃ、灰村さんはあそこの席に座ってね」

担任の女性教師に指を指された、一番後ろの窓際の席に向かう。
先生は右も左もわからないなんて言ってるけど、残念だけど、この学校の事はすでに調べてる。
知らないことは何もない。

私、灰村杏は、一度覚えた事は二度と忘れることの出来ない絶対記憶力を生まれながらに持っている。
便利な能力だと思ったことは一度も無い…
この障害は、記憶。人間の五感全てで感じたことを記憶する。
視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚。全てで感じた事を記憶する。
一度覚えた事は二度と忘れない。

この教室内には全部で、二十五人の生徒がいる。男子十二、女子十三で構成されている。

「なあ、超可愛いじゃん」
「ああ、やべぇな」
「それよりも…けっこう胸でかくね?」

くだらないことを言う男子を一睨みして、席に着く。
人の身体をジロジロ見て気持ち悪いんだよ。
思春期特有の女子を見る男子の気持ち悪い視線…ここにもあいつみたいな奴いたら嫌だな。

席は窓際なだけあって、陽が当たり気持ちが良い。九月になり、夏の暑さが若干和らいでいるのか、気持ちの良い風が吹いている。

視線を窓から黒板に戻すと、先生がこっちをみている。
…いや、視線はこっちにあるが、見ているのは私では無い。

「おーい。いつまで寝てるの」

見ているのは、私の席の隣で机に突っ伏し寝ている男子。
先生に呼ばれても全く反応がない。完全に寝てるの?

「考ちゃん、さっさと起きなさい!!」
「んあ…」

情けない声と寝起きっぽい顔で起き上がる。
それよりも気になるのは…
この男、随分と傷だらけね。
周りの反応を見る限り、いじめを受けている感じはしないけど。

「おはよう。玲那」
「おはようじゃない!!挨拶は家を出るときしたでしょ」
「二度目のおはよう…」
「はぁ…情けないな。それより」

女子生徒が私に手を向ける。

「今日転校してきた灰村さん。考ちゃん席隣なんだから、ちゃんと面倒見るのよ」
「転校生…?」

男子生徒は眠そうな声を出しながら首だけこっちに向けてくる。

「ああどうも。隣の席の間宮孝一です。よろしく」
「はぁ…どうも」

それだけ言って、また机に突っ伏し眠り始める。どんだけ眠いのよ。

朝のホームルームが終わり、何名かの女子と男子が私を取り囲む。
正直あまり目立ちたくは無いけど、転校生って大体こんなもんよね。

「初めましてぇ!!私、志田紅羽って言います!!仲良くしてねぇ」
「紅羽さん、そんな勢いよく行くと、灰村さん驚いちゃうでしょ」
「ええー、そうかなー」
「初めまして、灰村さん。私は能登玲那。よろしくね。なにか分からないことがあったらいつでも言ってね」
二人の女子、一人は志田紅羽さん。テンションが高く、ムードメーカーっぽい感じがする。
もう一人の、能登玲那さん。
さっき隣の席の間宮って男子に声を掛けてた人ね。
落ち着いた雰囲気であり、優等生感が凄い。
このクラスのリーダーって感じかしら。でも、この人、面倒見がいいのだろうけど、腹黒そうね。表と裏で別人だったりして…

「ありがたい事だけど、今は別に何も困ってないから、大丈夫」
「そ、そお…」
「そこの能登嬢を怒らせると怖いから、注意しなよ」

二人の女子と一緒に来ていた男子が言って来る。
その言葉にぎろりと睨む能登さんか…
「おっと、に、睨まないでよ…」
「湯澤くんが余計な事言うからでしょ」
湯澤。そう言われたのが今目の前に立っている小麦色の肌の男子の名前ね。後に匠と自己紹介されたけど興味ないかな。体格はいいし、スポーツマンってやつかな?

「ところで、灰村さんは彼氏いたりする」

でた…この手のウザい質問。
しかも聞いてくるのが男子かよ。

「いないけど」
「お。まじ!!どんな男がタイプ?」
「そうね、とりあえず、君みたいな人はタイプじゃ無いとだけ言っとくよ」
「あははは。ゆっざ、だっせー」
「ああ、俺の魅力に気が付く女子はいつ現れてくれるんだろうか」
「一生現れないって」
志田さんと湯澤くんは仲良くじゃれ合ってる。そのまま二人でどこかいかないかな…

「それにしても、考ちゃん。いい加減に起きなさい」
「うーん…わかったよ」

能登さんは隣の男子、間宮くんの肩を揺さぶり、起こす。
面倒見が良いだけでここまでするのかしら?呼び方も距離感が近い気がするし…
そんな私の疑問を解消するかのように志田さんが教えてくれた。

「この二人はね、幼馴染みなんだよ。知らない人からみたら、恋人にみえるかもね」
「へえ。そう」

あまり興味は無いけど。

「そーだぞー、マムー。さっさと起きろー。のっちゃんが怒る前に」
「わかったよ…玲那に志田。あと湯澤までどうしたの?」
「転校生が来てるのにいつまでも考ちゃんが寝てるからでしょ」
「転校生?」

…さっきのやりとり忘れてるのかしら。
いいわね…忘れる事が出来て。

「考ちゃん…後で話しあるから」
「お、出た。後で話しある。能登嬢の告白タイム」

パチン。
能登さんは指を鳴らすだけ鳴らし、教室内から出て行ってしまった。
それと同時に、クラスの男子数名が湯澤くんの両腕を抱えどこかに消えていく。

「ゆっざは余計な一言多いんだから…あ、心配しないでね。いつものことだから」
いつものことって…毎日彼はどこかに連行されているの?

「のっちゃんも、ゆっざも悪い人じゃないから仲良くしてね。もちろん私とも。それじゃあね」

「とりあえず、よろしく。えっと…」
「灰村杏」
「灰村さん。よろしく。俺は間宮孝一」
「知ってる。さっき聞いたから」
「そうだっけ…」
「はぁ…」

一日も終わり放課後になった。
学校の事は前もって聞いてたし、どこに何があるかは調べたから大丈夫。だけど、やっぱり、実物を見とこうかな。

東東中は、三階建て。三階に一年、二階に二年、一階に三年がいる。
普段授業を受ける教室が、今いる教育棟。向かい側に家庭科室に科学室などの実習棟。実習棟も三階建て。
校庭に、体育館。まあ、この辺はどこも同じ造りね。

散歩がてら各場所を散策して、場所を完全に記憶する。
これで忘れない。
有効活用出来る時は使う。私の記憶力。

さて、そろそろ帰るか…

教室に向かう際に、スマホが震える。振動の長さから、電話のようだ。

【遠野由美】

スマホの画面にはそう表示されている。
通話ボタンを押し、スマホを耳に当てた。

「もしもし」
「よお。どうよ。私の母校は」
「どおって、初日なんだけど」
「イケメンいた?」
「知らないよ。誰とも関わってないし」
「友達作れよ。一匹狼もいいけど、青春は友と過ごせ」
「おばさん見たいな発言ね」
「まだ、若えから。お前がクソガキ過ぎるんだよ」
「はいはい。そうだね。で、それだけ?」
「そー。それだけ。杏が心配だからさ、ついつい電話しちゃう訳よ。
あんたも、週一で電話する。これが条件だからね。わかってんだろうね」
「わかってるよ。家着いたら電話するつもりだったし」
「毎日電話してもいいよ」
「しない。それじゃあね。由美さん」

通話を終え、教室内に戻ると、間宮くんがいる。放課後なんだから帰れよ…。
「あ、えーと。灰村さん」
「どうも…」
深く関わるつもりないし、それだけ言って帰ろうとバッグを持つ。

「どこ行ってたんだ?」
不意に話しかけてきた。

「君に関係ある?」
「いや、俺一応灰村さんに、この学校案内しろ的な事言われてさ。放課後案内しようと思ってたんだよね」
「それで、私を待っていたと?」

…変わってんなこいつ。

「君の幼馴染みにも言ったけど、その必要はないから、平気」
「そっか。あのさ…。いきなりこんな事言われてウザいかも知れないけど。壁を作っても、結局はいつか壊されるよ。玲那や志田はそういう奴だ。
全員を仲間にする。それであの二人は今までやってきてた」
「そ。確かにウザいね。なら私もいつか壁壊されたら、仲良くなるよ」

私は別に人が嫌いって訳じゃないし。男子のジロジロ見てくるあの視線が嫌いなだけ…
この間宮って奴も見てくるでしょ…

私は間宮くんと別れ、帰ることにした。
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