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六十一話 灰村杏中学二年 二
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転校して、一週間が経った。
そろそろ学校にも慣れてきた頃。
自分の席に着き、隣に目をやる。
また寝てる…
毎日毎日、学校に来ては寝てる。
一週間毎日見てたらいい加減、見慣れてくる。そんなに寝たいなら学校休めば良いのに。
でもそうはいかないのでしょう。
なぜなら。
「考ちゃん。いつまで寝てるの」
これだ。
間宮くんの幼馴染みで優等生。能登玲那さんが毎朝、彼の家まで行き、迎えに来ているそう。
おかげで、間宮くんは遅刻もせず登校出来ているらしい。
私なら速攻で見限るけど…
自分のことは自分で管理しろって思っちゃうね。
「もうちょっと寝かせてよ」
「ダメ。ここは考ちゃんの部屋じゃ無いのよ」
「お前が無理矢理起こすからこうなってんだろ」
「言い訳しないの。さっさとおじさまに一撃入れるくらい強くなれば良いじゃ無い」
間宮くんは別に寝起きが悪い訳では無いらしく、別の理由があり、毎晩遅くまで父親に稽古を付けられているとか。
なんでも父親はありとあらゆる格闘技でチャンピオンになり、無敵な男だったらしく、その血を引いている彼を鍛えているのだとか。
彼が毎日ボロボロなのはそれが理由。
「無理だ…父さん強すぎ。もう少し手加減しろっての」
「おじさまは考ちゃんを強くしたいんでしょ」
「俺は格闘技に興味はないぞ」
「でも、強くなったら色々便利でしょ。頑張りなさい」
「母さんと同じ事言うなお前…」
「強くなったら、私のボディーガードにしてあげるね」
「お前別に誰かに命狙われてないだろうが」
「未来の話」
能登さんはクラス代表だけでは無く、この学校で生徒会長をやっている。それも一年の時から。彼女は全生徒に慕われている。成績優秀。容姿端麗。全員に平等。誰にでも優しく、誰にでも怒る。怒ると言っても注意とかそのレベル。ただ、間宮くんは別ね。特別な感情でもあるのかしら。
「おはようハイムー」
「…おはよう」
朝から元気な志田さん。彼女は誰とでも仲良くしたい性格らしく、全員をあだ名で呼んでいる。
私もハイムーなどと呼ばれている。
別に仲良くなった訳じゃ無いんだけどな。
全員と仲良くしたい志田さんと比べるわけじゃ無いけど、私は別に誰とでも仲良くなりたいと思ったことは無い。一定の距離感で付き合う方が楽だから。
仲良くなり、私の事を知ったらきっと離れていく。
私の障害を知ったらきっと、あの人と同じような目で私を見るだろう。あの冷たい視線で見られたくない。
ガラガラと教室の扉が開くと、先生が教室に入ってくる。
いつもはニコニコとした顔をしている先生だが、今日はなぜか、沈んだ顔をしている。
「おはよう、みんな」
声のトーンも暗い。
「実は残念な知らせがあります」
残念な知らせ。それが何か分からないけど、その残念な事のせいで先生はあの表情をしているのがわかる。
「実は、このクラスの給食費が紛失しました」
先生の一言でクラスがざわめき始める。
先生は、紛失なんて言っているが、恐らく、盗まれた。と言う事でしょうね。
「みんな知らないかな?」
優しい口調で全員に聞いている先生だが、要は、このクラスに犯人がいたら素直に名乗り出て欲しいって事でしょうね。
素直に名乗り出る物は当然いない。給食費は大金だ。その大金を盗んだなんて、誰も言うはずが無い。
そもそもこのクラスの人が盗んだかどうかも分からないし。
「先生。それは私達を学校側は疑っていると言う事でしょうか?」
能登さんが先生の気配を察知し、質問する。
こういう時はあの優等生は便利ね。
「そうじゃないけど…」
「明らかに疑ってますね。先生、はっきり言って下さい」
「そうねぇ。この事は学校には伝えてないの。出来るなら、このクラス内で解決出来るなら解決したいと思ってる。だから、みんな、何か知ってたら教えて欲しいの」
学校側には伝えてないね…
自分の管理ミスによって起こった盗難事件だし。先生は学校側にバレたくないのね。
そして、先生はこのクラスを疑っている。
自分のクラスの給食費が盗まれているのだから疑うのは当然ね。
その方が先生にとっても都合がいいだろうし。
他のクラスを疑う事は学校側にバレることにもなる。
まあ、私には関係ないわね。
次の授業に使う教科書を取るため、机の中に手を入れる。私的に、教科書は一度目を通したから、見る必要は無いのだけれど、何も出さないと、変だし、一応出している。
机の中に何かいつもと違う、違和感を感じる。
なにかしら…?
そっと出すと。給食費と書かれた、封筒だ。
中身を確認すると、札束がたくさん入っている。
あらあら。これじゃ、私が盗んだことになるわね。
誰かが、私の机に入れ、その場をやり過ごそうとしたのか、それとも私を犯人にしたいのか…
恐らく後者ね。
「先生。机の中に、給食費、入ってますけど」
私の発言で先生を含めたクラスの全員が私を見ている。
見てくんじゃねえよ。
「灰村さん。なぜあなたがそれを持っているの?」
先生の当然の反応。
そんなこと言われても分からない。だれかが入れたんでしょ。
「さあ。わかりません。机に手を入れたら入ってました」
「そお…灰村さんが盗ったのかな?」
やはりそう思うよね。
さて、どうしよ。なにを言っても言い訳に聞こえるでしょうね。
「盗ってないですよ。でも、見つかったんだし、私が犯人で構いません。別に犯人を庇ってるわけでもないです。それより、中身確認したらどうですか?」
先生は中身を確認し、金額が減ってないことを全員に伝えた。
もし、金額が減ってたら、私が払うことになってたのかな。
「まあ、見つかったし、これでよしとしましょう」
先生はこれで話を終わらせる。
まわりの生徒はきっと私を犯人だと思ってるでしょうね。ま、これで話し掛けてくる人もいなくなるでしょ。私は別に人が嫌いって訳じゃ無いけど、一人でいる事の方が気楽で良い。
「先生。俺灰村さんは犯人じゃないと思います」
一人の男子生徒が突然言い出す。
「吉野くん。お金は見つかったんだし、その話はやめましょ。いい、みんな。犯人捜しはしちゃダメよ」
「でもさ、これじゃ、灰村さんが犯人だとみんな思うだろ」
吉野くんの発言にクラス中がザワつく、真犯人は他にいるのかと。
正直、犯人が誰とかどうでもいい…けど、私の机に入れた奴は見つけようかと思ってる。
「さっきも言ったけど、犯人捜しはしないこと」
「先生、灰村さんが犯人だと思ってんの」
「そんな事思ってないわよ。けれどこれ以上話を広めるのは禁止にします。いいわね」
先生が話を強制的に終わらせ、朝のホームルームが終わる。
「ねえ、ハイムー。犯人じゃないんだよね?」
誰も話し掛けてこないだろうと思っていたのに、志田さんは普通に話し掛けてくる。
「さあ。先生はこれ以上話しを広めるなって言ってたんだし、やめたら?」
「だってぇ。ハイムーが犯人だなんて私は思えないよぉ」
「そう思ってくれるのはありがたいけど。私は別にどうだっていいわ」
机に中に入れた奴は探すけど…
まあ、それが給食費を盗んだ奴になると思う。
「紅羽さん。灰村さんの言うとおり、これ以上話しちゃダメよ」
「のっちゃんは、ハイムーが犯人だと思ってるの?」
「さあ、わからないよ。灰村さんが違うと言うのなら、それを信じるけど。本人がどうでもいいと思っているなら何もしないのが良いかと私は思うわ」
「能登さんの言うとおりだよ。私はどうでもいい」
「ええー」
肩を落としがっかりする志田さんには悪いけど、話はこれで終わりで良いい。犯人捜しは勝手にやる。
「それにしてもヨッシーのやつが、ハイムーが犯人じゃないとか言うなんてね」
「そうね。紅羽さんが言うはずの台詞先に言われちゃったね」
「そうなんだよぉー」
吉野くんか、全然話したこと無いのに、よく庇ってくれたわね。
「俺も、灰村さんが犯人じゃないと思うけどね」
いつもは寝てる間宮くんが急に会話に入ってくる。
なぜか、目がキラキラしてる。
「考ちゃん…出たね。いつもの。
で、その理由は?」
いつもの…?
「給食費って、多分職員室にあるんだろ?いつ盗まれたと思う?」
「放課後じゃない?」
「そうだな。犯人は放課後職員室に入り、給食費を盗んだ」
「でも、マムー。職員室って誰かしら絶対いるよね」
「考ちゃん、給食費は昨日の放課後盗まれたと思ってるのね」
「ああ。けど、志田の言うとおり、職員室には常に誰かいる。けれど昨日の放課後は誰もいなかった」
「なんでよ」
「紅羽さん。昨日は職員会議で、全ての先生達は会議室に行ってたのよ。」
「そういう事だ。だから職員室には誰もいない。灰村さんはそれを知ってたのかな?」
「…知らない。私、すぐ帰るし」
ついでに言うと、職員室に常に誰かいることも知らない。
「そして、今、灰村さんが言ったとおり、灰村さんはいつもすぐに帰る。初日こそ、残っていたけどね」
「マムー、よく見てんなー。ハイムーの事狙ってる?」
「だから、灰村さんが職員室に向かって給食費を盗む事は出来ない。職員会議が始まるまでは先生達は職員室にいたわけだし」
「こらー、無視すんなー」
普段は寝てるくせに、間宮くんってこういう事になるとイキイキしてるわね。好きなのかしら。
「考ちゃんの言うとおり、給食費が盗まれたのが、昨日なら、灰村さんが犯人である可能性はないって事ね。帰りも早いし、他の日でも、灰村さんが盗むことは無いと」
「まあ、そうだね。灰村さんは犯人じゃ無い」
「マムー、それ、さっき言えばハイムーの無実が決定だったのに」
「吉野が違うって言った時、そのまま便乗して言おうかと思ってたんだけど、先生がすぐに話を終わらせた」
「むぅー。先生なんで、犯人捜ししないんだろ」
「給食費が見つかって、お金も減ってないからよ」
「ハイムーを疑ってるとか?」
先生は私の家庭事情を知っている。私が盗んだ可能性も少しは考えていたでしょうね。
いや、犯人が私だと思っていたかも知れない。
「実際灰村さんは盗んでないし、お金も減ってない。これで良いのよ。紅羽さん。この話はもうやめよ」
「うーん。なんか、腑に落ちないな」
「これで、いいのよ…」
言葉とは違う何かを能登さんから、感じるけど。
放課後になり、今日も早めに帰宅する。
私は、いつもバイトをするために帰りが早い。
中学生がバイトって、どうかと、思うけど仕方が無い。家庭の事情という奴。
下駄箱で靴を履き替え、出ようとした時に、声を掛けられた。
「灰村さん」
「…なに?」
声を掛けてきたのは同じクラスの吉野くん。
今朝、私が犯人だとは思えないと言っていた人だ。
さっさと帰りたいのになんの用よ。
「えっと…そのさ、一緒に帰んない?」
「悪いけど、私これから用事があるから。それに、仲良くない人と帰ってもね」
「そ、そうか…それじゃまた明日」
初めて話し掛け、いきなり一緒に帰ろうとかよく言えるな。
兎に角気にせず、バイトに向かうことに。
私のバイト先は図書館で、そこにある本の整理や、訪れた人に本の場所、おすすめの本を紹介したりしている。一度置き場さえ覚えれば二度と忘れないため、簡単だ。
ここには由美さんの紹介でバイトさせて貰っている。
館長と由美さんは昔からの知り合いらしく、私の事情は教えてないが、由美さんの知り合いという事で、面倒見て貰っている。バイト代も時給千円と結構高い。土日は一日中いるから、私は結構稼いでいると思う。
今日もいつも来る、おばあさんの相手をして、たまに本の整理、館内の掃除をするだけの決まった行動。空き時間は本も読んで良いし、勉強もしてもいいから、居心地がいい。割と自由だ。
バイトも終わり、帰宅する。
閉館までいる為、帰りは九時過ぎ。
スマホを見ると、由美さんから着信があった。
スマホを操作し、折り返しの電話をする。
昨日電話したんだけどな…
「もしもし。バイト終わり?」
「そうだけど、どうしたの?昨日も電話したじゃん」
「可愛い杏の声は毎日聞きたいんだよ」
「キモ…」
「キモとか言ってんじゃねえよ。
ところでさ、最近、将の帰りが遅いんだよね。心当たりない?」
将…名前を聞いただけで、震えてしまった。出来れば聞きたくない。
あいつがどこで何してるかなんて、興味がない。
「さあ。知らない。私が分かるわけないでしょ?」
「そうだよね~。あいつに聞いても言わないし。ぶん殴って聞いちゃおうかな」
「すぐ、暴力振るなよ。あいつも、来年就職でしょ。それで悩んでるんじゃないの」
「そうかね~。杏がいなくなってから、明らかに元気なくなってるんだよねあいつ。杏はどこ行ったとか最初はよく聞かれたよ」
「ここの場所、教えてないよね?」
もし教えてたら最悪だ…
「言うわけ無いだろ。そこは守ってるさ。まあ、そういうわけだから、もし、あのバカに街中で会ったら、私がさっさと帰ってこいって言ってたって伝えておいて。私より、杏が言う方が聞くから」
「……わかった」
会いたくない…
その思いが一番強い。
帰りが遅い…か。
そろそろ学校にも慣れてきた頃。
自分の席に着き、隣に目をやる。
また寝てる…
毎日毎日、学校に来ては寝てる。
一週間毎日見てたらいい加減、見慣れてくる。そんなに寝たいなら学校休めば良いのに。
でもそうはいかないのでしょう。
なぜなら。
「考ちゃん。いつまで寝てるの」
これだ。
間宮くんの幼馴染みで優等生。能登玲那さんが毎朝、彼の家まで行き、迎えに来ているそう。
おかげで、間宮くんは遅刻もせず登校出来ているらしい。
私なら速攻で見限るけど…
自分のことは自分で管理しろって思っちゃうね。
「もうちょっと寝かせてよ」
「ダメ。ここは考ちゃんの部屋じゃ無いのよ」
「お前が無理矢理起こすからこうなってんだろ」
「言い訳しないの。さっさとおじさまに一撃入れるくらい強くなれば良いじゃ無い」
間宮くんは別に寝起きが悪い訳では無いらしく、別の理由があり、毎晩遅くまで父親に稽古を付けられているとか。
なんでも父親はありとあらゆる格闘技でチャンピオンになり、無敵な男だったらしく、その血を引いている彼を鍛えているのだとか。
彼が毎日ボロボロなのはそれが理由。
「無理だ…父さん強すぎ。もう少し手加減しろっての」
「おじさまは考ちゃんを強くしたいんでしょ」
「俺は格闘技に興味はないぞ」
「でも、強くなったら色々便利でしょ。頑張りなさい」
「母さんと同じ事言うなお前…」
「強くなったら、私のボディーガードにしてあげるね」
「お前別に誰かに命狙われてないだろうが」
「未来の話」
能登さんはクラス代表だけでは無く、この学校で生徒会長をやっている。それも一年の時から。彼女は全生徒に慕われている。成績優秀。容姿端麗。全員に平等。誰にでも優しく、誰にでも怒る。怒ると言っても注意とかそのレベル。ただ、間宮くんは別ね。特別な感情でもあるのかしら。
「おはようハイムー」
「…おはよう」
朝から元気な志田さん。彼女は誰とでも仲良くしたい性格らしく、全員をあだ名で呼んでいる。
私もハイムーなどと呼ばれている。
別に仲良くなった訳じゃ無いんだけどな。
全員と仲良くしたい志田さんと比べるわけじゃ無いけど、私は別に誰とでも仲良くなりたいと思ったことは無い。一定の距離感で付き合う方が楽だから。
仲良くなり、私の事を知ったらきっと離れていく。
私の障害を知ったらきっと、あの人と同じような目で私を見るだろう。あの冷たい視線で見られたくない。
ガラガラと教室の扉が開くと、先生が教室に入ってくる。
いつもはニコニコとした顔をしている先生だが、今日はなぜか、沈んだ顔をしている。
「おはよう、みんな」
声のトーンも暗い。
「実は残念な知らせがあります」
残念な知らせ。それが何か分からないけど、その残念な事のせいで先生はあの表情をしているのがわかる。
「実は、このクラスの給食費が紛失しました」
先生の一言でクラスがざわめき始める。
先生は、紛失なんて言っているが、恐らく、盗まれた。と言う事でしょうね。
「みんな知らないかな?」
優しい口調で全員に聞いている先生だが、要は、このクラスに犯人がいたら素直に名乗り出て欲しいって事でしょうね。
素直に名乗り出る物は当然いない。給食費は大金だ。その大金を盗んだなんて、誰も言うはずが無い。
そもそもこのクラスの人が盗んだかどうかも分からないし。
「先生。それは私達を学校側は疑っていると言う事でしょうか?」
能登さんが先生の気配を察知し、質問する。
こういう時はあの優等生は便利ね。
「そうじゃないけど…」
「明らかに疑ってますね。先生、はっきり言って下さい」
「そうねぇ。この事は学校には伝えてないの。出来るなら、このクラス内で解決出来るなら解決したいと思ってる。だから、みんな、何か知ってたら教えて欲しいの」
学校側には伝えてないね…
自分の管理ミスによって起こった盗難事件だし。先生は学校側にバレたくないのね。
そして、先生はこのクラスを疑っている。
自分のクラスの給食費が盗まれているのだから疑うのは当然ね。
その方が先生にとっても都合がいいだろうし。
他のクラスを疑う事は学校側にバレることにもなる。
まあ、私には関係ないわね。
次の授業に使う教科書を取るため、机の中に手を入れる。私的に、教科書は一度目を通したから、見る必要は無いのだけれど、何も出さないと、変だし、一応出している。
机の中に何かいつもと違う、違和感を感じる。
なにかしら…?
そっと出すと。給食費と書かれた、封筒だ。
中身を確認すると、札束がたくさん入っている。
あらあら。これじゃ、私が盗んだことになるわね。
誰かが、私の机に入れ、その場をやり過ごそうとしたのか、それとも私を犯人にしたいのか…
恐らく後者ね。
「先生。机の中に、給食費、入ってますけど」
私の発言で先生を含めたクラスの全員が私を見ている。
見てくんじゃねえよ。
「灰村さん。なぜあなたがそれを持っているの?」
先生の当然の反応。
そんなこと言われても分からない。だれかが入れたんでしょ。
「さあ。わかりません。机に手を入れたら入ってました」
「そお…灰村さんが盗ったのかな?」
やはりそう思うよね。
さて、どうしよ。なにを言っても言い訳に聞こえるでしょうね。
「盗ってないですよ。でも、見つかったんだし、私が犯人で構いません。別に犯人を庇ってるわけでもないです。それより、中身確認したらどうですか?」
先生は中身を確認し、金額が減ってないことを全員に伝えた。
もし、金額が減ってたら、私が払うことになってたのかな。
「まあ、見つかったし、これでよしとしましょう」
先生はこれで話を終わらせる。
まわりの生徒はきっと私を犯人だと思ってるでしょうね。ま、これで話し掛けてくる人もいなくなるでしょ。私は別に人が嫌いって訳じゃ無いけど、一人でいる事の方が気楽で良い。
「先生。俺灰村さんは犯人じゃないと思います」
一人の男子生徒が突然言い出す。
「吉野くん。お金は見つかったんだし、その話はやめましょ。いい、みんな。犯人捜しはしちゃダメよ」
「でもさ、これじゃ、灰村さんが犯人だとみんな思うだろ」
吉野くんの発言にクラス中がザワつく、真犯人は他にいるのかと。
正直、犯人が誰とかどうでもいい…けど、私の机に入れた奴は見つけようかと思ってる。
「さっきも言ったけど、犯人捜しはしないこと」
「先生、灰村さんが犯人だと思ってんの」
「そんな事思ってないわよ。けれどこれ以上話を広めるのは禁止にします。いいわね」
先生が話を強制的に終わらせ、朝のホームルームが終わる。
「ねえ、ハイムー。犯人じゃないんだよね?」
誰も話し掛けてこないだろうと思っていたのに、志田さんは普通に話し掛けてくる。
「さあ。先生はこれ以上話しを広めるなって言ってたんだし、やめたら?」
「だってぇ。ハイムーが犯人だなんて私は思えないよぉ」
「そう思ってくれるのはありがたいけど。私は別にどうだっていいわ」
机に中に入れた奴は探すけど…
まあ、それが給食費を盗んだ奴になると思う。
「紅羽さん。灰村さんの言うとおり、これ以上話しちゃダメよ」
「のっちゃんは、ハイムーが犯人だと思ってるの?」
「さあ、わからないよ。灰村さんが違うと言うのなら、それを信じるけど。本人がどうでもいいと思っているなら何もしないのが良いかと私は思うわ」
「能登さんの言うとおりだよ。私はどうでもいい」
「ええー」
肩を落としがっかりする志田さんには悪いけど、話はこれで終わりで良いい。犯人捜しは勝手にやる。
「それにしてもヨッシーのやつが、ハイムーが犯人じゃないとか言うなんてね」
「そうね。紅羽さんが言うはずの台詞先に言われちゃったね」
「そうなんだよぉー」
吉野くんか、全然話したこと無いのに、よく庇ってくれたわね。
「俺も、灰村さんが犯人じゃないと思うけどね」
いつもは寝てる間宮くんが急に会話に入ってくる。
なぜか、目がキラキラしてる。
「考ちゃん…出たね。いつもの。
で、その理由は?」
いつもの…?
「給食費って、多分職員室にあるんだろ?いつ盗まれたと思う?」
「放課後じゃない?」
「そうだな。犯人は放課後職員室に入り、給食費を盗んだ」
「でも、マムー。職員室って誰かしら絶対いるよね」
「考ちゃん、給食費は昨日の放課後盗まれたと思ってるのね」
「ああ。けど、志田の言うとおり、職員室には常に誰かいる。けれど昨日の放課後は誰もいなかった」
「なんでよ」
「紅羽さん。昨日は職員会議で、全ての先生達は会議室に行ってたのよ。」
「そういう事だ。だから職員室には誰もいない。灰村さんはそれを知ってたのかな?」
「…知らない。私、すぐ帰るし」
ついでに言うと、職員室に常に誰かいることも知らない。
「そして、今、灰村さんが言ったとおり、灰村さんはいつもすぐに帰る。初日こそ、残っていたけどね」
「マムー、よく見てんなー。ハイムーの事狙ってる?」
「だから、灰村さんが職員室に向かって給食費を盗む事は出来ない。職員会議が始まるまでは先生達は職員室にいたわけだし」
「こらー、無視すんなー」
普段は寝てるくせに、間宮くんってこういう事になるとイキイキしてるわね。好きなのかしら。
「考ちゃんの言うとおり、給食費が盗まれたのが、昨日なら、灰村さんが犯人である可能性はないって事ね。帰りも早いし、他の日でも、灰村さんが盗むことは無いと」
「まあ、そうだね。灰村さんは犯人じゃ無い」
「マムー、それ、さっき言えばハイムーの無実が決定だったのに」
「吉野が違うって言った時、そのまま便乗して言おうかと思ってたんだけど、先生がすぐに話を終わらせた」
「むぅー。先生なんで、犯人捜ししないんだろ」
「給食費が見つかって、お金も減ってないからよ」
「ハイムーを疑ってるとか?」
先生は私の家庭事情を知っている。私が盗んだ可能性も少しは考えていたでしょうね。
いや、犯人が私だと思っていたかも知れない。
「実際灰村さんは盗んでないし、お金も減ってない。これで良いのよ。紅羽さん。この話はもうやめよ」
「うーん。なんか、腑に落ちないな」
「これで、いいのよ…」
言葉とは違う何かを能登さんから、感じるけど。
放課後になり、今日も早めに帰宅する。
私は、いつもバイトをするために帰りが早い。
中学生がバイトって、どうかと、思うけど仕方が無い。家庭の事情という奴。
下駄箱で靴を履き替え、出ようとした時に、声を掛けられた。
「灰村さん」
「…なに?」
声を掛けてきたのは同じクラスの吉野くん。
今朝、私が犯人だとは思えないと言っていた人だ。
さっさと帰りたいのになんの用よ。
「えっと…そのさ、一緒に帰んない?」
「悪いけど、私これから用事があるから。それに、仲良くない人と帰ってもね」
「そ、そうか…それじゃまた明日」
初めて話し掛け、いきなり一緒に帰ろうとかよく言えるな。
兎に角気にせず、バイトに向かうことに。
私のバイト先は図書館で、そこにある本の整理や、訪れた人に本の場所、おすすめの本を紹介したりしている。一度置き場さえ覚えれば二度と忘れないため、簡単だ。
ここには由美さんの紹介でバイトさせて貰っている。
館長と由美さんは昔からの知り合いらしく、私の事情は教えてないが、由美さんの知り合いという事で、面倒見て貰っている。バイト代も時給千円と結構高い。土日は一日中いるから、私は結構稼いでいると思う。
今日もいつも来る、おばあさんの相手をして、たまに本の整理、館内の掃除をするだけの決まった行動。空き時間は本も読んで良いし、勉強もしてもいいから、居心地がいい。割と自由だ。
バイトも終わり、帰宅する。
閉館までいる為、帰りは九時過ぎ。
スマホを見ると、由美さんから着信があった。
スマホを操作し、折り返しの電話をする。
昨日電話したんだけどな…
「もしもし。バイト終わり?」
「そうだけど、どうしたの?昨日も電話したじゃん」
「可愛い杏の声は毎日聞きたいんだよ」
「キモ…」
「キモとか言ってんじゃねえよ。
ところでさ、最近、将の帰りが遅いんだよね。心当たりない?」
将…名前を聞いただけで、震えてしまった。出来れば聞きたくない。
あいつがどこで何してるかなんて、興味がない。
「さあ。知らない。私が分かるわけないでしょ?」
「そうだよね~。あいつに聞いても言わないし。ぶん殴って聞いちゃおうかな」
「すぐ、暴力振るなよ。あいつも、来年就職でしょ。それで悩んでるんじゃないの」
「そうかね~。杏がいなくなってから、明らかに元気なくなってるんだよねあいつ。杏はどこ行ったとか最初はよく聞かれたよ」
「ここの場所、教えてないよね?」
もし教えてたら最悪だ…
「言うわけ無いだろ。そこは守ってるさ。まあ、そういうわけだから、もし、あのバカに街中で会ったら、私がさっさと帰ってこいって言ってたって伝えておいて。私より、杏が言う方が聞くから」
「……わかった」
会いたくない…
その思いが一番強い。
帰りが遅い…か。
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