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第一章・はじまりの物語

一番槍は君が取れ

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「……さて、どうするよ? 明日はどう動くべきだと思う?」

 戦への参加手続きを終え、傭兵たちが集まる長屋に押し込まれた燈は、相棒である蒼に戦での立ち回りを相談していた。

 燈たちの目的は、こころを身請けするために報奨金を稼ぐこと。
 現状、手元にある十両と生還すると貰える十両を合わせて二十両。つまりは、あと三十両分の手柄を立てなければならないのだが、そこで一つの大きな問題が立ちはだかる。

「顔を隠してるとはいってもよ、やっぱ目立つとあいつらにバレちまいそうなんだよな。正体が割れると色々と面倒くさそうなことになりそうっつーか、ヤバいっつーか……」

 戦で手柄を立てるということは、目立つということに直結するわけだ。
 つまり、注目を浴びることとなる。この戦には王毅をはじめとした元クラスメイトたちも参加しているし、憎き竹元の姿も昼間に見つけてしまった。

 戦場で大手柄を立て、報奨金を得られるだけの活躍をするのはいい。だが、そのせいで燈の正体が王毅たちにバレてしまうことだけは避けなければならない。

 燈にとって幸運だったのは、包帯で顔を隠している自分の格好が、そこまで目立たなかったことだ。
 いや、正確には目立ちはしているのだが、他の武士たちの中にも燈に負けず劣らずのインパクトがある格好をしている者がいるお陰で、注目が分散されているといった方が正しいのだろう。

 先祖代々伝わる仮面をつけて参戦する者。派手派手しい揃いの鎧に身を包んだ武士たちの一団。深編笠で顔を隠した虚無僧のような出で立ちの男。
 受付で顔を見せなかったのは燈くらいのものだろうが、それでもなかなかに濃い面子が揃っているなと思い、その中に間違いなく自分も加わっていることに苦笑しつつ、燈はこの問題に対する蒼の意見を聞くべく、彼へと視線を向ける。

 良き相談役であり、相棒でもある蒼は、目立たなければ目標が達成出来ないが、目立つと困ることになるというジレンマを抱える燈に対して、平然とした様子で自分の意見を述べた。

「手柄を立てるべきだと思うよ。そりゃあ、多少は目立つのは仕方がないけど、そうしないと報奨金を稼げないんだから仕方がないさ」

「そうだよな……。でも、どう動けばマシな目立ち方になるかね……?」

 正体が露見することを恐れて縮こまっていたら、こころを身請けするための金が稼げない。色んなリスクのある戦に参加して、目的を達成出来ないというのはあまりにも無意味が過ぎる。
 であるならば、少しでも注目されない方法で手柄を立てたいのだが……何分、戦などというものに接する機会がなかった燈にそんな方法が思いつくはずがない。

 唸り、悩み、頭を働かせながら、少しでも注目を浴びない手柄の立て方を考える燈。
 そんな彼に膝元にぽん、と何かが投げ寄せられたことに気が付いた燈は、驚いて思考を中断させると顔を上げ、それを放り投げた相棒を見やる。

「椿さんに作ってもらったんだ。それ、明日の戦に持ち込んでね」

「な、なんだ、これ?」

「小麦粉を練って、食紅で色を付けただけの団子みたいなものさ。もしかしたら椿さんが味付けしてくれてるかもしれないけど、美味しいものだとは思わない方がいいよ」

 掌に収まる大きさの袋の中には、赤色をした丸い玉が幾つか入っている。
 これが何の意味を持つのかわからないでいる燈は、詳しい説明を求めて蒼へと視線を向けた。

「……なに、それはただの小道具だよ。明日、燈が手柄を立てるためのね」

「はあ? どういう意味だよ? この非常食もどきが、俺が手柄を立てるための小道具? わけわかんねえぞ」

 ズズズ、と音を立ててお茶を啜る相棒の姿に小首を傾げ、更に詳しい解説を求めるようににじり寄る燈。
 蒼は、そんな彼の目を真っ直ぐに見返しながら、静かな口調で自分の考えを述べ始めた。

「手柄を立てる以上、ある程度目立つことは覚悟しなきゃならない。なら、問題はその時期だ。間違いなく手柄を立てたと認識されながら、戦中や終わった後にそこまで目立つことのない役目が、たった一つだけある」

「な、なんだよ、その役目って?」

「一番槍だよ。戦が始まって、相手に一太刀浴びせた最初の人間にはその勇猛さに敬意を表される。戦いの火蓋を切ったって意味でも注目されるから、間違いなく手柄さ」

 そこで再び湯呑を傾け、茶を啜った蒼は、コトリと音を立ててそれを自分の横に置くと、また静かに一番槍について話し始めた。

「一番槍は間違いなく大きな手柄さ。でも、敵の大将を討ち取るよりかは目立たない。何故なら、戦の最中は誰もが死に物狂いで戦っているから、最初の一太刀を浴びせた人間にそこまで意識を割くことがないんだ。戦が終わった後は、まず敵の首魁を討った人間に注目が集まる。戦の経緯を記録している者には一番槍の名はしっかりと刻み込まれるけど、その立ち位置に燈を知っている人間が就くことはないだろう?」

「お、おお……! 確かに、そうだな……!!」

「ほぼ間違いなく、敵の大将を仕留めるのは燈と同じ世界から来た人たちの役目だ。恐ろしい妖の親玉を倒した英雄として、彼らを祭り上げるのが大和国側の狙いでもある。僕たち傭兵に与えられるのは、その露払いとしての役目。その中で考えられる最も大きな手柄としても、一番槍はうってつけなんだよ」

 蒼の意見を聞いた燈は、彼の慧眼に感服していた。
 自分よりも戦に関する知識があるとはいえ、ここまで策を組み立てることが出来る蒼の聡明さと、自分のことのように燈とこころのことを考えてくれている優しさに感謝して、燈は彼に再度確認する。

「俺がすべきことは、戦の一発目を決めることなんだな? それが手柄になって、椿を助けることに繋がるんだよな?」

「うん、そうだよ。そのための策も考えたし、それを実行するだけの力もある。だから、燈――」

 そこで一度言葉を区切った蒼は、暫しの溜めの後、燈のことを真っ直ぐに見つめながら、力強い口調で言い放つ。

一番槍は君が取れ・・・・・・・・。旧友たちの前で、思いっきり目立ってやろうじゃないか」
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