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第9話:総攻撃

Bパート(3)

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 巡視船は、夜明けと同時にヘリオス首都にたどり着いた。その直後、機関室では火災が起こったが、アルテローゼレイフはそれを無視して船を飛び降りた。

『直ぐに格納庫に向かうぞ』

「分かったよ。でも船の方は良いの?」

 アイラは、後ろで煙を噴き上げている巡視船を不安そうに見ていた。

『港に着いたのだ。後は連邦軍の連中に任せておけ。それよりもレイチェルの救出が優先なのだ』

「分かったよ。金髪ドリルを助けなきゃ」

『ディビット、後は任せるぞ』

 マリンフォームをパージして、身軽になったアルテローゼレイフは、一目散に研究所めがけて走り出した。巨大機動兵器が街の中を走って移動する。それは、夜明け直後で道路に車がほとんど走っていなかったから、できることである。後数時間遅れていたらアルテローゼは港で足止めを食っていただろう。レイフはそこまで考えて巡視船を走らせたのだ。


 ◇

 研究所の格納庫にたどり着いたアルテローゼレイフは、誰のいない格納庫に座り込んでヴィクターに通信を送った。

『ヴィクターは起きているか』

 時刻は午前五時。まだベッドで眠りについていても不思議ではない時間である。

『レイフ君か、君が送ってくれたレイチェル救出案を検討していたので、こちらは徹夜だよ』

 モニターに眠そうなヴィクターの顔が表示される。ヴィクターは、レイチェルが掠われたと聞いてから、気が気ではなかったのだろう。
 レイフは、巡視船がヘリオス首都に向かったところで、自分が考えたレイチェルの救出案と、それに伴うアルテローゼの改造案をヴィクターに送った。ヴィクターはそれを徹夜で健闘してくれたようだった。

『それで、亜野救出案は実現は可能か?』

「私には軍事的な観点で判断はできないのだよ。…ただ、アルテローゼの改造も含め、短期間で実現するのは難しいと思うな。特にこの装備・・・・だが、私が冗談のつもりで健闘した物で、その装備を実現することが前提の計画とか、正気の沙汰ではないと思うのだよ」

 ヴィクターは、しわの寄った眉間を指でもみながらモニターに背を向けた。ヴィクターとしては、一刻も早くレイチェルを助け出したいのだろうが、レイフの立てたレイチェル救出計画は余りにもリスクの高い物で、彼には承認しかねる物だった。

『儂は本気だぞ』

「あたいも協力するよ」

 レイチェルを救い出すためには、アルテローゼを動かせるアイラの協力が必要である。レイフは船の中でアイラに協力を依頼し、了承を取り付けていた。

『アイラ君を危険な目に遭わせるのは問題と思うのだが…。しかし、レイチェルを救出するためには、私は悪魔にでも魂を売るつもりだ。…………分かった、私も腹を括ろう。レイフ君の救出計画を承認しよう。直ぐにアルテローゼの改装に取りかかってくれ』

 一転して、眠そうだったヴィクターの目が見開かれる。

「よっしゃ、所長のお許しが出たぞ」

「おめーら、グズグズするな。アルテローゼの改装が終わるまで眠れると思うなよ」

 ヴィクターがレイフの計画を承認すると言ったとたん、格納庫の奥から研究所員や作業員が続々と出てくる。そしてその先頭には整備主任であるおやっさんが当然のようにいた。

『どうしてこんな時間に皆が居るのだ?』

「うぁ、びっくりしたよ」

 レイフとアイラは突然出てきた研究所員や作業員達に驚きを隠せなかった。

「そりゃ、レイチェルの嬢ちゃんが掠われたと聞いたら、じっとなんてしてられないだろ。どうせお前さんも何かやるだろうと思ってな、アイツらに朝早く来るように招集かけておいたんだよ」

『おやっさん…』

 帝国筆頭魔道士としてレイフは尊敬はされていたが、人望は余りなかった。その為、おやっさんが、アルテローゼ自分のために人を集めていてくれたことに感動すら覚えていた。

『ありがとうございます』

 レイフは、自分の人生で一番素直な感謝の言葉をおやっさんに送った。もしレイフが生身であれば、この場で泣いていたかもしれない。

「その言葉は、この・・改装が上手くいってからにしてくれ」

 おやっさんは、照れ隠しなのか帽子を被り直す。

「それより、この改装の成否はお前さんがあれを作れるかどうかだろ。そっちは大丈夫なのかい?」

『それは、船上で時間をかけて設計をしましたから大丈夫です』

 レイフは、船上で余った時間に在る物の設計図を作り、そしてアルテローゼへ搭載した場合のシミュレーションまで行っていた。理論上・・・は改装に問題は無い。

「後は、俺たちの腕前次第か。よっしゃまかしとけ」

 おやっさんが胸をどんと叩く。

「「「俺たちもがんばるぜ」」」x沢山

 研究所員も作業員もやる気満々だった。

『皆さん、ありがとうございます』

 レイフは、再び感謝の言葉を、今度はみんなに向けておくった。


 ◇


 その頃ヘリオスの連邦軍作戦司令室では、今までにない緊張が走っていた。
 オペレータ達が操作する毎に、3Dモニターの映像が切り替わり、そこには多数のロボット兵器が映し出される。火星の地図にその位置と規模が表示されるが、前回の首都侵攻部隊とは比べものにならないぐらいの大軍であることは一目で見て取れた。

「革命軍の奴ら、今度は本格的な進行ということか。…おい、革命軍の戦力はどのぐらいだ?」

 アッテンボロー少佐は、モニターから目を離さずに、オペレータに尋ねる。

「そ、その数五千ぐらいかと。しかも、以前のように重機を改造した物ではなく、全てガイア・コープランドGC社の軍用ロボット兵器です」

 オペレータも、革命軍の規模に驚いているのか、声がうわずっていた。

「前回の五十倍の戦力か。しかし、例の盾は装備されていないな。普通に正規のロボット兵器で攻めてきているのか。待て、重機や巨人はいるのか?」

「それが、重機はいないのです。ですが、巨人の方は、…見ての通りです」

 オペレータの操作によってモニターが切り替わり、そこには四足歩行の機動兵器が映し出された。その総数は四台で、ガオガオは獅子型だったが、今度は狼と馬と犀そして象と思わしき形であった

「正規の軍用ロボット兵器が五千と、巨人が四体か。一体革命軍はどこからそんな戦力を集めてきたんだ! …この映像は信頼できるんだろうな?」

 アッテンボロー少佐は、オペレータに再度確認をとるが、

「はい、何度も確認しました」

 オペレータは、間違いないと頷いた。

「くそっ、この戦力から首都ヘリオスを守るだけの力は、今の連邦軍にはないぞ。どうすれば良いというのだ!」

 アッテンボロー少佐は、自分の無力さを呪うかのように拳をパネルに叩きつける。
 大シルチス高原の大敗で、連邦軍の戦力は激減している。ロボット兵器の補充が足りていないのも問題だが、一番の難点は兵隊が、特に下士官が足りていないことだった。
 その為、連邦軍は部隊の運用に支障をきたしていた。恐らく、今出せる戦力は三千ぐらいである。数で負けている上に巨人が四体もいるのだ。普通に考えて勝ち目など在るわけもない。

「アッテンボロー君、革命軍の状況は?」

 絶望感漂う作戦司令室、そこに現れたのは、オッタビオ少将だった。彼はちらりとモニターを見て、ため息をついた。

「また革命軍がやってくるのか。今度はかなりの大軍のようだが?」

「五千です」

 脳天気な雰囲気のオッタビオ少将に、アッテンボロー少佐は右手をパーの形にして突き出した。

「ほう、五千とは大軍だな。それで、今の戦力で何とかなるのかね?」

 しかし、オッタビオ少将は脳天気な調子を崩さずに、アッテンボロー少佐に尋ねてくる。

「(くっ、この人は何を考えているのだ、司令のくせに今の連邦軍の状況を理解していないのか?) 軍が出せるのは三千です。つまり数では圧倒的に負けているのです」

「だけど、こっちは正規の軍人だよ? 見たところ正規のロボット兵器だし、例の盾も装備してないみたいだね。つまり、普通に戦えるって事でしょ。まさか、正規の軍隊が普通に戦って、革命軍に負けるとか言うのかい?」

 オッタビオ少将は、目を半眼にしてモニターを眺め、ロボット兵器が魔法陣の描かれた盾を持っていないことを指摘する。

「確かに練度は軍であるこちらの方が有利ですが、ロボット兵器同士の戦いは数が物を言うんですよ! それに、この巨人はどうするんですか?」

 アッテンボロー少佐は、モニターに映る四体の巨人を指さして、オッタビオ少将に怒鳴った。

「まあまあ、アッテンボロー君、落ち着きたまえ。巨人が四体もいるのは分かったよ。こっちはまた研究所の方に何とかして貰うしかないな」

 オッタビオ少将は、アッテンボロー少佐を落ち着かせるように手を振って、巨人の対応をアルテローゼに任せると言うのだった。

「アルテローゼはパイロットが掠われたと聞いています。出撃すら難しいのではないのですか? さすがに今度は奇跡は起こりません。…司令、まさか、また徹底抗戦を命じるつもりなのですか?」

 アッテンボロー少佐は、レイチェルが掠われた事を知っていた。そしてオッタビオ少将が、この戦力差で戦うつもりであることに気付いて愕然とした。

「だって、降伏はできないでしょ。それとパイロットは代わりがいるみたいだし、何とかなるでしょ。ヴィクター君に今からお願いしてくるから、迎撃部隊の編成をお願いね~」

「司令、待って下さい」

 アッテンボロー少佐の制止の声を無視して、オッタビオ少将は、手を振って作戦司令室を出て行ってしまった。
 アッテンボロー少佐の伸ばした手が、むなしく空を切る。

「一体、司令は何を考えているのだ!」

 オッタビオ少将の他人事のような言動に、アッテンボロー少佐は頭を抱えてしまった。

「少佐、どうしましょう」

「…こうなったらやるしかないだろ。革命軍の総攻撃・・・を、何としても食い止めるんだ」

 アッテンボロー少佐は、迎撃部隊の編成をオペレータに命じるのだった。

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