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第9話:総攻撃

Bパート(2)

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 レイチェルを誘拐した潜水艦を取り逃がしたアルテローゼは、待機状態スリープモードで海に浮かんでいた。

「どうしよう、金髪ドリル、さらわれちゃったよ。レイフこれからどうするの?」

 アイラは、どうしてよいかわからずコクピットでおろおろしていた。

『…』

 しかし、レイフは黙りこくってしまった。アイラが呼びかけても返事すらしなかった。その状態は、追いかけてきた巡視船が、アルテローゼを回収してもレイフは無言であった。

 一方、巡視船の方も火星タコによって被害を受けたが、航行不能になるほどの被害では無かった。
 問題だったのは革命軍の兵士に撃たれたホァンの容態だった。彼は革命軍の別働隊が潜水艦に乗り込むのを邪魔しようとしてリーダーに撃たれたのだ。幸い弾は急所を外れており、一命は取り留めたが出血が多く重傷であった。そのホァンの行動によって、別働隊の五名は捕縛することができた。銃に撃たれたホァンと一緒に別働隊の五名を捕まえたのは、ケイイチであった。

 ケイイチは、一人で機関室に向かっていたため、自由に行動できた。また、無口で気配を消しがちのケイイチは存在感が薄く、革命軍の兵士達は彼の存在を忘れていた。ケイイチは、機関室でエンジンの調整中に船の異変に気づいた。彼は、手近の武器庫で銃や閃光手榴弾スタングレネードを調達すると、ディビット達を助けるために艦橋に向かった。
 しかしケイイチが艦橋にたどり付いたときには、別働隊は、脱出するために移動しており、その場には居なかった。ケイイチはディビット達と合流しようとしたが、艦橋のドアは破壊されており、ディビット達は閉じ込められた状態だった。
 このままでは革命軍の兵士を逃がしてしまうと、ケイイチは一人で追いかけた。
 そして、ケイイチが左舷にたどり着いたときには、レイチェルは既に潜水艦に連れ込まれた後で、船に残っていたのは別働隊の五人だけだった。

 五人が潜水艦に乗り移ろうとしていたため、ケイイチは閃光手榴弾スタングレネードを投擲すると、全員殴り倒して制圧した。しかし、それを見たリーダーは、ホァンを銃で撃つと海に突き落としたのだった。
 ケイイチは、ホァンを助けるために海に飛び込んだ。その間にリーダーは潜水艦に乗り込み、潜水艦は動き出してしまったのだった。





 アルテローゼを回収したあと、巡視船は自動で北に進んでいた。しかし潜水艦と速度差がありすぎて追いつけないことは明白だった。

「さて、このまま進んでも潜水艦には追いつけないわけだが…。どうするべきか、みんなの意見を聞きたい」

 レイチェルが掠われたため、今の指揮官はディビットであった。彼はマイケル、クリストファー、ケイイチに意見を求めた。

「司令部は何と言っている」

 珍しくケイイチが質問する。

「まだ何も言ってこない。あの司令のことだ、俺たちに判断責任を擦り付けるつもりだろう」

 そう言って、マイケルは肩をすくめた。クリストファーも同意と頷いていた。

 レイチェルが誘拐されたことは、既に司令部には連絡済みである。しかし、今のところ司令部からの指示はなかった。

レイフAIの意見は?」

 ケイイチが、ディビットに尋ねる。

「レイフはずっと黙ったままだ。何か考えているようだが、俺にはよく分からないな」

 ディビットは、ヘリ甲板に待機しているアルテローゼの映像をあごで示した。

「このまま進んでも極冠は通り抜けられない。一旦、ヘリオス首都に戻るべきだな」

「そうするしかないか。お前達もそれで良いか?」

 ディビットはケイイチの提案に頷き、マイケルとクリストファーも頷いていた。

ヘリオス首都に進路を変更しろ」

『了解です』

 ディビットの命令に従って、巡視船はヘリオス首都に進路を変更する。


 ◇


 その頃、ヘリ甲板に駐機しているアルテローゼのコクピットでは、アイラがレイフに話しかけていた。

「ねえ、レイフ。このままじゃ金髪ドリルはサトシの所に連れていかれるよ」

『…』

「どうしてサトシは金髪ドリルを誘拐したんだろうね?」

『…』

 アイラは、レイフに話しかけるがずっと反応がない。アイラは、「(もしかして、レイフは壊れちゃったんじゃ)」と心配になってきていた。

「ねえ、レイフ。返事をしてよ」

 アイラは、もう何度目になるか分からないレイフへの呼びかけをする。

『……アイラ、サトシはどこに居る?』

「レイフ、ようやく正気に戻ったの? 壊れてないの?」

 レイフから返事があった事に、アイラはほっとする。

『儂は正常だ。今までどうやったらレイチェルを取り戻せるか、考えていたのだ! それよりサトシはどこに居るのだ?』

 そう、レイフは思考速度を限界にまで高速化して、レイチェルの救出プランを練っていた。そして、アイラのサトシというワードに反応して、一旦意識を通常速度にまで戻したのだ。

「え、サトシは……」

『早く教えるのだ』

「…言わなきゃ駄目?」

 アイラにとって、サトシは命の恩人である。サトシの居場所を教えるのは、裏切りのような気がしていた。
 しかし、レイチェルを誘拐にきた革命軍の兵士は、自分アイラの救出について何も聞いていないと言われてしまった。それを聞いたとき、アイラはサトシに見捨てられてしまったと感じていた。

『レイチェルを助けるために必要だ。早く言え』

「うう、分かったよ。サトシはオリンポスの…一番大きいビルに居るよ」

 アイラは、レイフの「レイチェルを助けるために必要だ」という言葉を聞いて、サトシの居場所を話してしまった。いや、それよりもレイフの命令のような言葉に逆らえなかったと、アイラは感じていた。

『オリンポスで一番大きなビル…オリンポス行政ビルか。よく教えてくれた』

「うぅ、教えちゃった。サトシごめんね…」

 アイラは、サトシを裏切ったという申し訳ない気持ちで一杯となり、へこんでしまった。

『さあ、レイチェルを取り戻すぞ。その為にはヴィクターの元に早く戻らなければ。この船の針路は…もうヘリオス首都に向かっているのか。よし、機関のリミッターを解除して、全速力を出させてやる』

 レイフは、全速力でヘリオス首都に戻るため、巡視船の制御AIの制御を奪い取ると機関出力を最大に上げた。
 巡視船の機関は、過負荷に悲鳴を上げ、AIが警告を出すが、レイフはそれを無視した。

『レイチェル待っていろ。必ず助けに行くぞ』

 アルテローゼレイフは、オリンポスの方向に視線カメラを向けて、そう呟いた。
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