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第2話:宣戦布告

Bパート(1)

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 火だるまになった戦闘機が爆散し、その破片が市街地に落ちていく。

「ひゃっはー。汚物は消毒だぜ」

 世紀末のモヒカンのような台詞を吐きながら、巨人は前進する。巨体が進むたびに、その足下ではヘリウム《首都》外苑部の住宅地が踏みつぶされていた。さすがに住民は皆避難しているのか、住宅から人が逃げたす様子はない。

 巨人を操縦しているパイロット…恐らく十代後半から二十代前半と言った若い東洋人であろう…チャンは、今度は目の前に立ちふさがる5階建てのマンションを巨人の自分の手で殴りつけて壊し、無理やり道を作っていく。どうやらこの巨人は、パイロットであるチャンの動きをトレースしているようだった。その動きはなめらかで、もし人型ロボットを開発している技術者が見れば、どうやってそんなことが可能か、質問攻めに遭うだろう。
 もちろんチャンはそんな技術的なことは知らない。彼は言われたままに巨人のコクピット…といっても椅子もなく、外を見るモニターと奇妙な模様が描かれた床があるだけの物だが…に入って、自分の体のように操っているだけだった。

「(詳しいことなんてどうでも良いぜ)俺はこの力で革命王になる!」

 巨人に乗り込んでからチャンのテンションは上がりっぱなしだった。

『おい、チャン! 馬鹿なことを言ってないで、足下に気を付けろ。一般市民の財産住宅を壊すな』

 そんなハイテンションなチャンに足下の重機からそんな音声通信が入る。
 通信主は巨人と一緒に首都に進行してきた革命軍の一人で、サトシから首都侵攻部隊の指揮官として指名された人物だった。

「何言ってんだよ。巨人こいつはあんたらの重機と違ってデカいんだ。建物を避けて歩けるわけないじゃん」

『同士・メガ…いやチーバから大通りを進めと言われていただろうが。なぜその指示に従わないんだ』

「だって、こっちの方が近いし。大きいから進路を変えるのも一苦労なんだよ。それに首都に住んでる連中とかマーズリアンと言っても地球連邦政府に尻尾を振っている連中だろ、そんな奴らの財産とか気にすんなよ」

 チャンはそう言って足下の住宅を蹴り上げた。

『チャン、よさんか! どうして同士チーバは、こんなやつを巨人のパイロットに選んだんだ』

 指揮官から抗議の声が上がるが、

「そりゃ、同士チーバが言うように、俺しかこれを動かせないからだろ? 巨人を動かせるのは俺みたいに選ばれた者・・・・・だけなんだよ。あんた達にはそのガラクタ重機がお似合いだぜ。ほら、俺は先に門を叩きつぶしに行くぜ」

 チャンは嘲るようにそういうと、巨人の歩みを急がせた。

 ◇

 戦闘ヘリが市街地を縫うように低空飛行を行い、巨人に迫っていく。20世紀のヒューイコブラと言う戦闘ヘリに酷似したそれは、もちろん無人樹である。搭載されたAIは、オペレータの支持通り、マンションを遮蔽物として巨人の背後死角に回り込んだ。そして100メートルほどの距離に近づくと、戦闘ヘリは一気に高度を上げ、巨人の背後から対戦車ミサイルを撃ち込んだ。
 今までの戦闘から赤外線誘導やレーダー誘導のミサイルは、何らかの妨害で命中率が極端に悪いことが分かってたので、カメラ画像による形状認識誘導を選択した。 回避不能な距離から発射された二発の対戦車ミサイルは、そのまま巨人の弱点と思われる頭部に向かっていった。

「甘いんだよ!」

 しかしチャンはその攻撃を知っていたかのように、頭を下げて対戦車ミサイルをひょいと避けてしまった。これが胴体を狙ったのであれば、このような避け方はされなかったのだろうが、AIの狙いが賢すぎたのだ。目標を見失ったミサイルは、AIの判断で自爆させられた。
 これが人間のパイロットであれば必中のミサイルを避けられて唖然とするところだろうが、AIにはそんな油断はない。戦闘ヘリは、対戦車ミサイルでの攻撃をあきらめると、30ミリ・レールガンによる攻撃に切り替え、巨人に向けて連射した。

 本来30ミリ・レールガンにとって100メートルの距離は必中圏内である。狙いを外すことはない。しかし、

「そんな距離から当たるかよ」

 チャンが気合いを入れると、彼の足下の模様が光り、レールガンの弾が巨人を避けて・・・いった。

「お返しだ。これでも喰らえ」

 チャンがそう叫ぶと、コクピットのモニターの前に床に描かれているのと似て異なる光の模様が浮かび上がり、巨人の口から巨大な炎弾が発射された。
 戦闘ヘリは炎弾を避けようと進路を蛇行させながら後退するが、まるで生き物のように炎弾は戦闘ヘリを追尾する。戦闘機の二の舞と思われた戦闘ヘリだが、

 ズガーン

「なにぃ~」

 炎弾に向かって対戦車ミサイルを撃ち込むことで、戦闘ヘリは炎弾の魔の手から逃げおおせたのだった。
 しかし逃げおおせたといっても被害がなかったわけではなく、レールガンはひしゃげてしまい、ミサイルポッドもどこかに飛ばされて満身創痍の状態であった。煙を噴きながら、戦闘ヘリは逃げ去るしかなかった。

 ◇

 巨人が戦闘ヘリと戦っている時、革命軍の車両は、連邦軍の装輪戦車と多脚装甲ロボット達と遭遇し戦闘状態に入っていた。

「恐れるな、突撃だ!」

「おう、任しとけ」

「連邦軍何する物ぞ」

「ウラー!」

「ツム シュトゥルム - マルシュ!」

 …何か変なかけ声があるが、革命軍の車両は、遮蔽物も利用せず大通りを文字通り突き進んでいった。それに対し、装輪戦車と多脚装甲ロボットは、地形を上手に利用して攻撃を行っていた。普通であれば革命軍は、戦車砲とレーザー機銃により蜂の巣となるのだが…。

「何だよ、ありゃ。革命軍はフォースバリアでも開発したのかよ」

 指揮車両でマイケルが、革命軍が弾をはじきながら突進している映像をみて電子ペンを回し損ねて落としていた。

 フォースバリア…某シューティングゲームでおなじみの無敵バリアであるが、革命軍はもちろんそんな物を持ってはいない。彼等が持っているのは奇妙な模様が描かれた奇妙な盾であった。
 重機のボンネットやドアと言うような金属や合成樹脂の板に白い塗料で模様が描かれているだけの装甲とも言えない盾を掲げて、革命軍の車両は突撃してくる。
 砲弾やレーザー機銃は、その盾の前に全てはじき飛ばされ、無効化されていた。

「接近してしまえば、こっちの物だぜ」

「オラのドリルを喰らえ」

「パイルバンカーで貫くのみ」

 飛び道具が使えない状態で肉薄されてしまうと、装輪戦車と多脚装甲ロボット達は相打ちを恐れて攻撃ができなくなる。それに対して革命軍の車両は、採掘用の重機を改造した物なので、ドリルやらパイルバンカーやらパワーアームを駆使して、文字通り格闘戦をしかけるのだった。
 装輪戦車5両にと多脚装甲ロボット16機に対して、革命軍は100両以上。大シルチス高原での連邦軍と革命軍の戦いが、門の前で再現された形となり、たこ殴りにあった装輪戦車と多脚装甲ロボットは瞬く間に破壊されてしまうのであった。
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