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第七章【時空間を欺く者】

第一幕『暴かれた動機』

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 「サリーさん? どうしたんですか?」

長岡親方がタイムリーパーで、本物の拳銃を玩具銃モデルガンに偽装した可能性がある。

この言葉を耳にした瞬間、サリーさんはなにかを思い出したような表情をしている。



 「ねえ、その長岡親方ってさぁ、君のいる時代では何歳ぐらいなのかなぁ?」

「えーっと……。大体でしか解りませんけど、八十歳前後の老人だったと思います」
 


 「あたしのときも変な男がいたなぁと思ってね。タイムリープの方法はね、その男が渡してきた時逆昇術って書いたメモが元になってるんだよ……あたしより少し年下だったかなぁ」

「するとそいつが長岡親方だったかもしれないってことだな? 年齢的にも合ってるしな!」

村さんも長岡親方が自分の死に関与していると疑っている。







 「そういえば、サリーさんの最期の日はどんな感じでしたか? 今なら訊いてもいいですよね?」

村さん以上にサリーさんには訊きにくかった質問だ。



 「うん、大丈夫だよん。あの日はねぇ、キャバレーにお笑いトリオまったりのルミナって芸人が来たんだ。それでね、そいつがあたしを食事に誘ったの。仕事終わってから飲みに行ってね、泥酔してルミナの肩を借りて帰ったみたいなんだぁ……」

お笑いトリオ……、芸人のルミナ……。昭和中期の芸人だろうか?




 「サリーさんは、深酒と睡眠薬で亡くなってしまうんですよね? なにか違和感はありませんでしたか? 泥酔している状態ですから解らなくても無理ないですけど……」

村さんは拳銃に細工があった。サリーさんの場合もなにかあってもおかしくはない。

「意識が途切れる寸前だったから確実ではないけどねぇ……、いつも寝酒に飲んでた酒の味が違ってたよぉ!酒瓶は同じだったけどねぇ。あと睡眠薬も形は同じだったけど、変な味がしたような気がするなぁ……ごめんねぇ、はっきり覚えてないんだよぉ」







 ――三者三様に沈黙して考え込んでいる。
途切れた糸がつながりそうでつながらない、そんな気がするのだ。

「サリーさんが受け取った時逆昇術がサリーさん流のタイムリープ方法なら、そのルミナって男はタイムリーパーだった可能性が強いですね!」

 「わしの死んだときと同じく、サリーさんも細工されて自殺させられたってことか?」

 考えられるのは、酒と薬をルミナがすり替えた可能性があるということだ。
しかし、年代的に合致しているからと言うだけで長岡親方だとは限らない。

 「それに村さん、動機ですよ。仮に親方がタイムリーパーとして、五回目で村さんを自殺させる動機が解りませんよね? サリーさんの場合もそうですよ。六十六回もルミナと食事に行ってるんです。六十六回目にサリーさんを自殺させる動機が解りません」

管理者たちの死因は全員が自殺だろう。しかし、手の加えられた自殺である可能性が高い。



 「他の管理者の話は訊いたことないからねぇ……。村さんとあたしのケースから見ると、ループの回数は関係ないように思えないかなぁ?」

「確実な結論ではないですけど、ループ回数は関係がないと思います。そうなると動機は村さんとサリーさんに共通しますよね?」

「どういうことだ? わしとサリーさんを自殺へと追い込んだ奴の動機が同じなのか!?」








 「その通りです。なぜ自ら手を下さずに自殺させたか考えてみてください。あなた方二人はタイムスパイラル中のアーカイブ・ホリックだった」

サリーさんが閃いたと言わんばかりにポンと手を叩いた。

「そうかぁ!亜空間《ここ》へ落したかったんじゃないの!?」




 「それだとサリーさんやわしだけじゃなく、他の管理者たちも同じようにループ中に細工されてここへ落された可能性があるってことだよな?」

「はい。推測の域を出ませんが……。動機としては辻褄が合っていると思います」




 「あとは現実世界で長岡親方を調べるしかないですね……」

「正直に話すとは思えないよぉ? どうすんの?」

「なあ、わしは前からずっと疑問に思っていたことがあるんだが……」





 「あ、村さん。たぶん私も同じこと考えてますよ!」

これはタイムリーパーを成功させた者すべてに当てはまる重要なことだ。

「お前のいる現実世界で村山徹は四十九歳で死んでいるのか? サリーさんにも言えることだ。サリーさんは二十六歳で死んでいるのかってことだ」

「あぁー!なーるほどねぇ!タイムリープ後の現代の自分はどうなるかってことだよねぇ?」

 「ええ、そうなると世界は多世界で分岐しているから、私のいる現実世界では村さんは生きているかもしれないし、四十九歳で亡くなった故人かもしれない」

「どっちにしてもあたしは七十歳が寿命だったから調べようがないね……」

「いえ、ありますよ。サリーさんは私の世界で二十六歳で亡くなったのか、七十歳で亡くなったのかってことです」




 「わし、頭がこんがらがってきた……」

村さんの頭から湯気が出る……わけがないか。

「もう少し簡単に説明しますね。亜空間《ここ》ってどこにでもつながってますよね? 例えば、今いる町の風景も過去から未来すべてが亜空間にあるんですよね? ところがですよ、タイムリーパーは何人もここを訪れてますけど、同じ時代の人間だからと言って同じ世界を見ているとは限らないんですよ」








 「君、説明が上手に見えて……超下手じゃないのぉ? それ複雑化してるよん」

ぐはっ、思わずサリーさんに突っこまれる。



 「それじゃあ、最も簡単に……。亜空間《ここ》だけは誰もが共通する世界ってことです」

「なんとなく解らんでもないぞ。わしが生きていた世界とサリーさんやお前が生きている世界は別かもしれんってことだろ? 違うかな? 同じ事象が起こってるとは限らんのじゃないか?」

「はい、そうですね。だから私は現実世界でお二人のことを調べる必要があります」



 「あたしの場合、調べると言っても家族もいないしなぁ……身内も亡くなってるだろうから無理かなぁ……?」

またサリーさんは難しい表情で考え込んでしまった。

「大丈夫ですよ。戸籍を調べればサリーさんが何歳で亡くなったのか判明します。生存時の本名を教えてくれませんか?」

「山本……山本美沙理《やまもとみさり》だよん。だから、占い館ミザリーって名前だったの。あとあたしの田舎は□□県の〇〇〇市の北東の村なんだ。ひとつ隣りの県になるねぇ」

「それじゃあ、そこの村に行って調べて来ますね。孫のフリして」

「うぅ……なんかお婆ちゃんになったみたいで嫌だあ……」

「わしのは教えた通りだ。できれば妻と娘の様子も頼む」

「了解です!とりあえずは長岡親方よりお二人のことから調べてみますね」

「そうだねぇ、危険かもしれないから長岡親方は後にした方がいいよねぇ……」






 「それでは今回は長居しちゃいましたけど、そろそろ戻りますね!」

「うん、いろいろありがとうねぇ。またすぐ会いに来てくれるよね?」

「サリーさん、わしら管理者がタイムリーパーに来いって言うのはまずいだろ……」

確かに、ここはstabの上に監視されている。サリーさんの上司のシルフィという人は問題ないが、その上が解らない限り下手なことは口にしない方が無難だ。



 「――ブルーライト照射するねぇ……」

サリーさんは私の手をぎゅっと握ったまま、ブルーライトを照射してきた。

「サリーさん、待っててくださいね!調べたら来ますからね」





 ――そして、私の亜空間潜入作戦は終わった。
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