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第六章【亜空間を翔る者】

第五幕『フェイク・バレット』

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 「いいえ、村さん。それだと矛盾があるんですよ」

村さんの主張する、自殺に見せかけて殺害された……これには無理がある。

「矛盾だって? なんでだ?」

「亜空間の管理者はアーカイブ・ホリックとなったタイムリーパーが自殺したペナルティで強制労働させられてるんですよね? 殺害されたならここに来るのはおかしくないですか?」

腕組みをしながら唸るように村さんは考え込んでしまった。




 「――おいおい!それじゃあなにか? その法則自体が間違ってるんじゃねえのか!?」

なにかを閃いたように村さんは言った。

「いえ、亜空間の管理者になってしまう法則は間違いないと思うんですが……」

死亡例がサリーさんと村さんの二人分しかない状態ではなんとも言い難い。







 「そういえば、村さん。管轄エリアの端っこに用事があったんですか?」

ここはサリーさんと村さんが管轄するエリアの一番東側の地点だ。

「ああ、時間の壁が破損した反応があってな。管轄下なら端っこでも行かないと上がうるさいからよ。サリーさんから聞いてねえか? シルフィってガキみたいな姿してる上司がいるんだよ」




 「一旦、タワーへ戻りませんか? サリーさんも交えて話しましょう」

「そうだな、それがいい。戻るとするか!」

 飛んできた道を帰るのは簡単だ。ゼロ距離移動である程度戻れる。
私と村さんはゼロ距離移動と高速飛行でタワーへ急いだ。




 「――それで、サリーさんはナイスバディだったのか?」

いつの間にか村さんはサリーさんをさん付けで呼んでいる。やっぱり上司なのね……。

「ええ!すごかったですよ!ただ、肉体じゃないんで感覚的に味気ないですけどね!果てると言っても、空砲を発射するが如くです……ああっ!」

思わず声をあげてしまった。自分の発したシモネタで閃くとは……。

「なんだ? 思い出して興奮したのか?」

「ぶっ!違いますよ!とりあえず急いでタワーへ戻りましょう!」









 タワー到着まで約十五分、ゼロ距離移動でかなり短縮できた。

「おっかえりぃー!村さんお疲れ様!」

サリーさんはいつも通りの満面の笑顔で迎えてくれた。

「すまんっ!サリーさん!あんたを誤解していた……」

管理局事務所の入り口でまさかの土下座ですかー。

「いいよん、村さん。こんな亜空間《せかい》で信じ合う方が難しいことはあたしがよく解ってる」




 「――で、さっきサリーさんで果てて、空砲が発射って言ってたのはなんだったんだ?」

村さん……。本人がいる前でなんてことを言っちまうんですか!

「き、君ねぇ……、男同士だからそんな話もするんだろうけど……」

みるみるうちにサリーさんの顔は紅潮して、激高していく。

「サリーさん!すごく綺麗ですね!最高ですよ!」

ギュッと肩を抱き寄せる。

女を怒らせた場合は殴られる前に抱き寄せろ、親友《ミツ》の格言だ。




 「はぁ……。ワザとらしいなぁ。あんまり変なこと話すとセクハラ裁判だからねぇ!」

亜空間にもセクハラ裁判があるのなら、被告として是非出廷したいものだ。

「おーい!わしをのけ者にするなー。お前、さっきなにか気付いたんじゃないのか?」

入口付近で村さんがボヤいている……。




 「空砲ですよ!空砲発射!それで閃いたんです!」

と言った途端、サリーさんが握りこぶしを固めている。

「だから君ねぇ!村さんがいる前でそういうこと……」

「違いますって!村さんが死亡した原因が解りそうなんです!」

「なに!? どういうことだ? わしが使った銃のことか!?」

玩具銃《モデルガン》で自殺、これも単純なトリックだったのだ。








 「まず、村さんの自殺は確実です。村さんは玩具銃《モデルガン》ではなく、本物の拳銃でこめかみを撃ち抜いてるんですよ!」

「いや、ちょっと待て!それはさっきも話しただろ? わしら拳銃はご法度だ。それに引き出しから取り出したとき見たが銃身《バレル》は塞がっていたし、弾丸《たま》も……」

その思い込みが間違いだったのだ。




 「逆ですよ、村さん。本物の拳銃を玩具銃《モデルガン》に偽装していたんです。銃身《バレル》の穴を細工して塞いでたんですよ!弾丸も一発だけに火薬が入ってたんです!」

「待て待て!本物の拳銃を玩具銃《モデルガン》に偽装していたのは一理ある。だが、六発リロードするかどうかも解らんのに、一発しか本物の弾丸を入れないっていうのは無理があるだろ?」




 「ん……ひょっとしてぇ、村さんが六発リロードするのを知ってたから?」

サリーさんは気付いているようだ。

「その通りですよ、サリーさん」

「わしがロシアンルーレットの真似事をして、こめかみに銃を当てて六発リロードするのをなんで予測できるんだ?」

「村さん、そもそも予測できるってのが間違いなんですよ!」








 結論に達した三人は顔を見合わせたまま、しばらく固まっていた。

「予測ではなく、あらかじめ知っていたんです!村さんが次に行う行動のすべてを!」

「そうだよねぇ……もう答えは出てるよねぇ」

「ウソだろ!? そんなことが……まさか……」

村さんは五度ループしている。つまり、ロシアンルーレットの真似を五度していることになる。
四度目まではただの玩具だった拳銃が五度目は本物にすり替えられていたのだ。

 





 「本物の拳銃を玩具銃《モデルガン》に偽装して、村さんを自殺に追い込んだのはタイムリーパーの仕業なんですよ!タイムリーパーならタイムスパイラル中の村さんの行動が読める!」

「それじゃあ、わしの周りにタイムリーパーがいて、そいつも同じようにループしていたってのか?」

「その可能性があります。ただ、例外も考えに入れておいた方がいいですね」

「そうだよん。タイムリープってさ、あたし達が知ってる方法以外にもいろいろあるって聞いてるからね。手順も人によって違ったりするしねぇ……」




 「つまり、我々が知ってるのは、『サリーさん流のタイムリープ法』ですよね? 私も村さんもサリーさんが残した手順のメモを見てタイムリーパーになった」

「わしらが知っている以外の特殊なタイムリープの可能性があるのか!?」




 「村さん、それを考える前に拳銃を細工できそうな可能性がある人物は誰ですか?」

「おおっ!そうだったな!事務所の親方の机の中だからなあ……限られてくると思うぞ? うちの組の若い衆の中にいるのか……?」

「長岡興業の若い衆は事務所の鍵持ってたんですか? あと、引き出しの鍵も……」

言葉の意味を即座に理解した村さんは冷や汗をかいていた。

「い、いや……鍵を持ってたのは親方と留守居役のわしだけだ……」

「えー? それってもしかしてぇ……」
 
話の内容はサリーさんも飲み込めているようだ。

 







 「にわかには信じ難いな。いや、わし自身信じたくない……」

「そうです!今、可能性として一番高いのは……長岡親方がタイムリーパーで、本物の拳銃を玩具銃《モデルガン》に偽装した!?」




 ――私が推論を述べると、サリーさんが驚きの表情を見せた……。
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