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失ったもの

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 だが翌日の報告メールを読み、美姫の気持ちは真逆に捻じ曲げられた。

 そこには、昨日の夜、大和が千代菊と会っていたと書かれていた。仕事が終わった後大和の運転する車で彼女をピックアップし、ふたりはラブホテルに入り、その2時間後に出てきたのだ。メールには、写真も添付してあった。

 千代菊は着物ではなく洋服を着ていたし、化粧も異なるので、ネットで見た女性と同一人物だとは分からなかった。着物の時よりも顔立ちは一層地味な印象で、服の趣味はお世辞にもいいとは言えなかった。

 ラブホテルに入っていく時の写真もあり、フロントガラス越しに映るふたりの表情は楽しそうだった。

 嫉妬や怒りを感じるよりも先に頭が真っ白になり、脱力した。その日は、何も仕事が手につかなかった。あまりのショックに、河原に契約を終了したいというメールを出すのも失念していた。

 翌朝、報告メールが来たのを見て、そのことを思い出したものの、河原に連絡する気になれなかった。それから毎朝メールが来ても、何が書かれているのかと思うと恐くて開けられず、未読のまま放置し続けた。

 大和が浮気していることが確定した途端、美姫の気持ちが急激に変化した。仕事に集中したり、誰かと一緒にいる時はいいが、ひとりになると急激に寂しさに襲われた。

 私は、大和にとっていったいなんなの?
 浮気が出来るほど、私の存在は軽いものだったの?

 永遠の愛を誓い合ったのに......あれは、嘘だったの?

 心にポッカリと穴が開き、隙間風が入って沁みた。眠れない夜が続き、睡眠薬や精神安定剤の量が増えていった。

 大和と顔を合わせるのが辛い。
 話をしていると泣きそうになる。
 触れられるとビクッとし、拒否してしまう。

 気持ちの変化は行動にも表れ、大和から離れた距離で接するようになった。

 もちろん、大和がそんな美姫の変化に気づかないわけがない。

「なぁ、最近俺のこと避けてないか?」

 そう聞かれるものの、美姫は大和に浮気のことを話すことはなかった。

「え、そう?
 ごめん。最近忙しかったから、心に余裕がないのかも......」

 仕事の忙しさを理由に、なるべく残業し、休日も出勤し、顔を合わせないようにした。そんなことで問題が解決するはずなどないと知っていても、美姫はどうしていいか分からなかった。

 大和と顔を合わせると、どうしても浮気相手の顔が浮かんでしまい、辛くなる。あの指で他の女性に触ったのだと思うと、触れられることにどうしても嫌悪感を感じてしまう。

 もう、大和と躰を重ねることなんて出来ない。心が、拒否してしまう。

 だけど、大和にはそれを知られてはいけない。夫婦として、ずっと付き合っていかなければならないのだから。

 お父様やお母様を悲しませたくない。 
 世間に知られたら、またスキャンダルになってしまう。

 私には、来栖財閥を守っていかなければならない義務がある。
 この夫婦関係を続けていく義務が、あるんだ。

 大和がこの先浮気を続けても、また他の人と関係をもったとしても、私は黙っているしかないんだ。
 
 ---私さえ我慢すれば、すべて上手くいくんだ......
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