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裏切り

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 自宅マンションに戻り、コンシェルジェの前を通り抜けるのが気まずい。涙は拭いたが、きっと酷い顔をしているに違いない。

 もちろん、その点を心得ているコンシェルジェは何も言わず、ただ頭を下げるだけだった。

 エレベーターに乗り、扉が閉まってからスマホを取り出す。

 着歴なし。LINEも新着がなく、アプリを開いても未だ大和に送ったメッセージは未読のままだった。

 時計を見ると、もう12時近くだ。自分もこんな遅くに帰ることは滅多にないが、大和はどうしているのだろうという不安と、彼が自宅に帰る前に戻れてよかったという安堵が混在する。

 上に向かって引き上げられていたかのような躰が急に押し戻され、グラグラッと小さく揺れる。エレベーターが止まり、案内音が鳴った。

 美姫は表示パネルを見上げ、自分の降りる階であることを確認すると、足を踏み出した。

 家に帰ったらまずシャワーを浴びよう。何もかも洗い流して、気持ちを落ち着かせたい......

 そんなことを考えながら鍵を挿し、玄関の扉を開ける。真っ暗な玄関に灯りをつけ、廊下を歩き、リビングを横切る。

 そこからダイニングルームを抜けて続く階段を上ろうとして、リビングの大きな影に気づき、美姫はビクッと大きく肩を震わせた。

 え......

 な、に......?


「やま、と......?」


 真っ暗なリビングで蹲っているのは、大和だった。

「どう、したの? 電気も点けないで......」

 緊張で、声が上擦る。

 もしかして、大和は......私が秀一さんに会いに行こうとしてたことを、知ってるの?
 それで、こんな真っ暗な中で私の帰りを待っていたの?

 美姫は、じわりと汗が滲むのを感じて、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 大和の肩は震えていた。

「大和......」

 恐る恐る近づいた美姫に、大和が初めて気づいたように彼女を見上げた。

「ッ......!」

 大和、泣いてる......

 大和は溢れ出る涙を拭うこともせず、唇を震わせた。

 美姫の胸は、大和への罪悪感で押し潰された。

「や、ま......」

 ---あなたを裏切ろうとして、ごめんなさい。

 その言葉が喉から出る前に、大和が美姫に縋り付いた。

「美姫! 美姫ぃぃ......ッグ......ウゥッ......ウッ、ウッ......」

 美姫の膝を抱き、縋り付く大和に何も言えなくなり、美姫はただ彼の頭を撫でた。

 大和は一層強く美姫に縋り付き、肩を震わせた。



「大、にぃが......ウッ、ウッ......死ん、だ......ッグ」


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