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究極の選択
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隣に座る秀一が、そっと美姫の手に自分の手を重ねた。
秀一、さん……
見上げた美姫と秀一の視線が絡まる。
ようやくまともに秀一の顔を見た美姫は、彼の口の端が少し切れていることに気がついた。それは、先ほど父から殴られた時にできた傷であろうことも。
もう、言い逃れは出来ない。
秀一の瞳が、そう語っている。美姫は観念して、頷いた。
父の瞳を真っ直ぐに見つめ、告げる。
「わた、しは……秀一さんのことを、ひとりの男性として愛しています」
言って、しまった。もう、後戻りは出来ない……
美姫が震える手をグッと掴んで拳を握ると、上に置かれた秀一の手が宥めるように包み込む。
秀一の落ちついた声が、緊迫した部屋に違和感を持って響く。
「兄様。どうか、私たちのことを認めてくださいませんか。
世間で認められなくてもいい。結婚も、子孫を残すことも出来なくても、私たちはお互いが一緒にいることこそが幸せだと思っているのです。
美姫は、私たちの関係を兄様たちに秘密にしなければならないことを常に心苦しく、後ろめたく感じていました。
それは、美姫があなたたちを大切に思い、愛しているからなのですよ」
その言葉に、誠一郎の眉がピクリと動いた。
「お前に何が分かる」
え……お父、様?
美姫は、父の顔を凝視した。怒りで肩を震わせた誠一郎が、激昂する。
「子供を持ったことのないお前に、何が分かるというんだ! 美姫が私たちのことを大切に思い、愛しているというのなら……」
そこまで言った後、誠一郎は美姫を真っ直ぐ見据えた。
「美姫。秀一とは別れなさい」
どんな言い訳も言い逃れも出来ないほど、強固な誠一郎の意思を感じた。美姫は、父のそんな態度にたじろいだ。
「お前が私たちを大切だというのなら、私たちだってそうだ。生まれてからずっと、大切に育ててきたんだ。
愛する人と結婚し、子供を産んで、育てる……それこそが、女の幸せだ。
美姫、頼む。考えてくれ、私たちのために」
娘への愛情を振り翳し、訴えてくる父に、美姫は激しく動揺した。父を、母を裏切る背徳感と罪悪感で心が圧迫される。
けれど……
「お父、様……ごめっ……ごめんなさい。
私は……秀一さん以外の人は、愛せないんです。彼と一緒にいることが、私の幸せなんです。今の私には、秀一さんの存在なくしては生きていることさえも出来ないんです。
どうか、分かって……」
結婚できなくてもいい。子供が産めなくてもいい。
普通に考えられる「女の幸せ」を感じることは出来なくても、秀一さんさえ傍にいてくれれば、それでいい。
美姫は、精一杯の自分の気持ちを父に伝えた。
お父様、どうか分かって。
認めて、なんて言いません。
許して、とも言えません。
どうか。
どうか、何も言わず……そっとしておいて下さい。
お願い。お願い、ですから……
美姫は、藁をもすがる思いで父を見つめた。
秀一、さん……
見上げた美姫と秀一の視線が絡まる。
ようやくまともに秀一の顔を見た美姫は、彼の口の端が少し切れていることに気がついた。それは、先ほど父から殴られた時にできた傷であろうことも。
もう、言い逃れは出来ない。
秀一の瞳が、そう語っている。美姫は観念して、頷いた。
父の瞳を真っ直ぐに見つめ、告げる。
「わた、しは……秀一さんのことを、ひとりの男性として愛しています」
言って、しまった。もう、後戻りは出来ない……
美姫が震える手をグッと掴んで拳を握ると、上に置かれた秀一の手が宥めるように包み込む。
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美姫は、私たちの関係を兄様たちに秘密にしなければならないことを常に心苦しく、後ろめたく感じていました。
それは、美姫があなたたちを大切に思い、愛しているからなのですよ」
その言葉に、誠一郎の眉がピクリと動いた。
「お前に何が分かる」
え……お父、様?
美姫は、父の顔を凝視した。怒りで肩を震わせた誠一郎が、激昂する。
「子供を持ったことのないお前に、何が分かるというんだ! 美姫が私たちのことを大切に思い、愛しているというのなら……」
そこまで言った後、誠一郎は美姫を真っ直ぐ見据えた。
「美姫。秀一とは別れなさい」
どんな言い訳も言い逃れも出来ないほど、強固な誠一郎の意思を感じた。美姫は、父のそんな態度にたじろいだ。
「お前が私たちを大切だというのなら、私たちだってそうだ。生まれてからずっと、大切に育ててきたんだ。
愛する人と結婚し、子供を産んで、育てる……それこそが、女の幸せだ。
美姫、頼む。考えてくれ、私たちのために」
娘への愛情を振り翳し、訴えてくる父に、美姫は激しく動揺した。父を、母を裏切る背徳感と罪悪感で心が圧迫される。
けれど……
「お父、様……ごめっ……ごめんなさい。
私は……秀一さん以外の人は、愛せないんです。彼と一緒にいることが、私の幸せなんです。今の私には、秀一さんの存在なくしては生きていることさえも出来ないんです。
どうか、分かって……」
結婚できなくてもいい。子供が産めなくてもいい。
普通に考えられる「女の幸せ」を感じることは出来なくても、秀一さんさえ傍にいてくれれば、それでいい。
美姫は、精一杯の自分の気持ちを父に伝えた。
お父様、どうか分かって。
認めて、なんて言いません。
許して、とも言えません。
どうか。
どうか、何も言わず……そっとしておいて下さい。
お願い。お願い、ですから……
美姫は、藁をもすがる思いで父を見つめた。
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