408 / 1,014
究極の選択
1
しおりを挟む
すると、秀一の後ろから誠一郎も現れた。
「み……美姫。どうして、ここへ……」
誠一郎は、真っ青な顔をして立っていた。美姫は二人の顔を見られず、俯いたままだった。
「話を聞かれてしまった以上、隠すことは出来ませんね。
美姫、中へ入ってください」
秀一の有無を言わせぬ態度に、美姫は力なく立ち上がった。
まだ膝が震える美姫の腰を、秀一が支えた。誠一郎はそれを黙って見つめる。
もうふたりの関係が単なる叔父と姪の関係ではないと知ってしまった父は、秀一に抱き抱えられている自分をどのように感じているのかと思うと、美姫はいたたまれなかった。
美姫はリビングのソファに腰掛け、押し黙ったままだった。
いつもなら美姫と誠一郎、秀一、そして母凛子がいるリビングには明るい笑い声が響いていた。それが今は嘘かのように、重苦しい空気に包まれている。
美姫の顔色は雪のように白く、唇が震えていた。聞きたいことは山のようにあったが、いろんなことで頭をグチャグチャに掻き回され、混乱していた。
前に座る誠一郎も同じく押し黙り、一言も発さない。重く暗い雰囲気が部屋全体を覆っていく。
そんな中、美姫はようやく重い口を開いた。
「秀一さんも……お父様も……ずっと、私を騙していたんですね……」
私ひとりだけ、何も知らなかった。
お父様がどれだけ来栖の家で辛い思いをしていたのか。
祖父母への憎しみと恨み。そして、殺意……
仲がいいと思っていたはずの父と叔父の愛憎。
私、だけが何も知らずにぬくぬくと生きていた。
ふたりが、こんな苦悩を背負っていただなんて、知らずに……
美姫は、こみ上げてくる嗚咽を抑える術をもたなかった。
誠一郎が肩を落とす。
「言えるはずが……ないだろう。
お前の祖父母を、見殺しにした……だなんて」
苦しそうにそう告げた父はがっくりと項垂れ、一気に老け込んだように見えた。いつもハツラツとした明るい父の表情しか見たことのなかった美姫は、それがショックだった。
「……私の幸せは、お祖父様とお祖母様の犠牲の上に成り立っていたものだったんですね。
お祖父様とお祖母様が死ななければ、私は……ッグここに……いる、ことは……ヒグッな、かった……ウゥッ」
美姫の言葉に、誠一郎は衝撃を受けた。
何としてでも守り抜きたいと思っていたはずの大切な娘が、自身の存在を否定することは、罪を責められることよりも苦しかった。
誠一郎は瞳に涙を滲ませ、美姫に向き合うと力強く言う。
「美姫。お前は望まれて生まれてきた、私と凛子の大切な娘だ。
お前が生まれた時のことを以前に話しただろう? どんなに嬉しかったことか。お前と凛子のいない人生など、私には考えられないんだ」
父の言葉を嬉しく感じながらも、美姫は祖父母への罪悪感を消すことは出来なかった。
「ッグッ……だからって……私、には……お祖父様とお祖母様を殺していいだなんて、思えない。
どれだけ辛い状況にあったか、私には想像することはできません。
けれど、どんなことがあろうと……命は、命です。失ってしまったら、もう二度と取り返すことなどできない」
私はそれを、強く感じた。
悠が事故に遭い、意識不明の重体になって……どれだけ、生きているという、それだけのことが大きな価値があるのか、身を以て知った。
「美姫。分かってくれとは言えない。
だが、私は……ずっと、愛される喜びを知らずに育った。それが、ようやく凛子とお前によって、家族をもつ喜びを、愛し、愛されることの喜びを知ったんだ。
それがたとえ、人の道に反することだとしても、私は……後悔はしていない」
後悔していないという言葉を聞き、美姫は顔を青ざめた。
「お父、様……」
「美姫。お前は私の宝だ。何としてでも手に入れたかった、幸せの象徴、証なんだ。お前には……お前にだけは、幸せになって欲しい。
お前が秀一を好きだなんて、嘘だろう? 恋人、だなんてそんなこと……あるはず、ないよな?」
誠一郎が、必死の形相で美姫に迫る。美姫は、拳を固く握り締めた。
「み……美姫。どうして、ここへ……」
誠一郎は、真っ青な顔をして立っていた。美姫は二人の顔を見られず、俯いたままだった。
「話を聞かれてしまった以上、隠すことは出来ませんね。
美姫、中へ入ってください」
秀一の有無を言わせぬ態度に、美姫は力なく立ち上がった。
まだ膝が震える美姫の腰を、秀一が支えた。誠一郎はそれを黙って見つめる。
もうふたりの関係が単なる叔父と姪の関係ではないと知ってしまった父は、秀一に抱き抱えられている自分をどのように感じているのかと思うと、美姫はいたたまれなかった。
美姫はリビングのソファに腰掛け、押し黙ったままだった。
いつもなら美姫と誠一郎、秀一、そして母凛子がいるリビングには明るい笑い声が響いていた。それが今は嘘かのように、重苦しい空気に包まれている。
美姫の顔色は雪のように白く、唇が震えていた。聞きたいことは山のようにあったが、いろんなことで頭をグチャグチャに掻き回され、混乱していた。
前に座る誠一郎も同じく押し黙り、一言も発さない。重く暗い雰囲気が部屋全体を覆っていく。
そんな中、美姫はようやく重い口を開いた。
「秀一さんも……お父様も……ずっと、私を騙していたんですね……」
私ひとりだけ、何も知らなかった。
お父様がどれだけ来栖の家で辛い思いをしていたのか。
祖父母への憎しみと恨み。そして、殺意……
仲がいいと思っていたはずの父と叔父の愛憎。
私、だけが何も知らずにぬくぬくと生きていた。
ふたりが、こんな苦悩を背負っていただなんて、知らずに……
美姫は、こみ上げてくる嗚咽を抑える術をもたなかった。
誠一郎が肩を落とす。
「言えるはずが……ないだろう。
お前の祖父母を、見殺しにした……だなんて」
苦しそうにそう告げた父はがっくりと項垂れ、一気に老け込んだように見えた。いつもハツラツとした明るい父の表情しか見たことのなかった美姫は、それがショックだった。
「……私の幸せは、お祖父様とお祖母様の犠牲の上に成り立っていたものだったんですね。
お祖父様とお祖母様が死ななければ、私は……ッグここに……いる、ことは……ヒグッな、かった……ウゥッ」
美姫の言葉に、誠一郎は衝撃を受けた。
何としてでも守り抜きたいと思っていたはずの大切な娘が、自身の存在を否定することは、罪を責められることよりも苦しかった。
誠一郎は瞳に涙を滲ませ、美姫に向き合うと力強く言う。
「美姫。お前は望まれて生まれてきた、私と凛子の大切な娘だ。
お前が生まれた時のことを以前に話しただろう? どんなに嬉しかったことか。お前と凛子のいない人生など、私には考えられないんだ」
父の言葉を嬉しく感じながらも、美姫は祖父母への罪悪感を消すことは出来なかった。
「ッグッ……だからって……私、には……お祖父様とお祖母様を殺していいだなんて、思えない。
どれだけ辛い状況にあったか、私には想像することはできません。
けれど、どんなことがあろうと……命は、命です。失ってしまったら、もう二度と取り返すことなどできない」
私はそれを、強く感じた。
悠が事故に遭い、意識不明の重体になって……どれだけ、生きているという、それだけのことが大きな価値があるのか、身を以て知った。
「美姫。分かってくれとは言えない。
だが、私は……ずっと、愛される喜びを知らずに育った。それが、ようやく凛子とお前によって、家族をもつ喜びを、愛し、愛されることの喜びを知ったんだ。
それがたとえ、人の道に反することだとしても、私は……後悔はしていない」
後悔していないという言葉を聞き、美姫は顔を青ざめた。
「お父、様……」
「美姫。お前は私の宝だ。何としてでも手に入れたかった、幸せの象徴、証なんだ。お前には……お前にだけは、幸せになって欲しい。
お前が秀一を好きだなんて、嘘だろう? 恋人、だなんてそんなこと……あるはず、ないよな?」
誠一郎が、必死の形相で美姫に迫る。美姫は、拳を固く握り締めた。
0
お気に入りに追加
345
あなたにおすすめの小説

義妹のミルク
笹椰かな
恋愛
※男性向けの内容です。女性が読むと不快になる可能性がありますのでご注意ください。
母乳フェチの男が義妹のミルクを飲むだけの話。
普段から母乳が出て、さらには性的に興奮すると母乳を噴き出す女の子がヒロインです。
本番はありません。両片想い設定です。


イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる