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究極の選択
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すると、秀一の後ろから誠一郎も現れた。
「み……美姫。どうして、ここへ……」
誠一郎は、真っ青な顔をして立っていた。美姫は二人の顔を見られず、俯いたままだった。
「話を聞かれてしまった以上、隠すことは出来ませんね。
美姫、中へ入ってください」
秀一の有無を言わせぬ態度に、美姫は力なく立ち上がった。
まだ膝が震える美姫の腰を、秀一が支えた。誠一郎はそれを黙って見つめる。
もうふたりの関係が単なる叔父と姪の関係ではないと知ってしまった父は、秀一に抱き抱えられている自分をどのように感じているのかと思うと、美姫はいたたまれなかった。
美姫はリビングのソファに腰掛け、押し黙ったままだった。
いつもなら美姫と誠一郎、秀一、そして母凛子がいるリビングには明るい笑い声が響いていた。それが今は嘘かのように、重苦しい空気に包まれている。
美姫の顔色は雪のように白く、唇が震えていた。聞きたいことは山のようにあったが、いろんなことで頭をグチャグチャに掻き回され、混乱していた。
前に座る誠一郎も同じく押し黙り、一言も発さない。重く暗い雰囲気が部屋全体を覆っていく。
そんな中、美姫はようやく重い口を開いた。
「秀一さんも……お父様も……ずっと、私を騙していたんですね……」
私ひとりだけ、何も知らなかった。
お父様がどれだけ来栖の家で辛い思いをしていたのか。
祖父母への憎しみと恨み。そして、殺意……
仲がいいと思っていたはずの父と叔父の愛憎。
私、だけが何も知らずにぬくぬくと生きていた。
ふたりが、こんな苦悩を背負っていただなんて、知らずに……
美姫は、こみ上げてくる嗚咽を抑える術をもたなかった。
誠一郎が肩を落とす。
「言えるはずが……ないだろう。
お前の祖父母を、見殺しにした……だなんて」
苦しそうにそう告げた父はがっくりと項垂れ、一気に老け込んだように見えた。いつもハツラツとした明るい父の表情しか見たことのなかった美姫は、それがショックだった。
「……私の幸せは、お祖父様とお祖母様の犠牲の上に成り立っていたものだったんですね。
お祖父様とお祖母様が死ななければ、私は……ッグここに……いる、ことは……ヒグッな、かった……ウゥッ」
美姫の言葉に、誠一郎は衝撃を受けた。
何としてでも守り抜きたいと思っていたはずの大切な娘が、自身の存在を否定することは、罪を責められることよりも苦しかった。
誠一郎は瞳に涙を滲ませ、美姫に向き合うと力強く言う。
「美姫。お前は望まれて生まれてきた、私と凛子の大切な娘だ。
お前が生まれた時のことを以前に話しただろう? どんなに嬉しかったことか。お前と凛子のいない人生など、私には考えられないんだ」
父の言葉を嬉しく感じながらも、美姫は祖父母への罪悪感を消すことは出来なかった。
「ッグッ……だからって……私、には……お祖父様とお祖母様を殺していいだなんて、思えない。
どれだけ辛い状況にあったか、私には想像することはできません。
けれど、どんなことがあろうと……命は、命です。失ってしまったら、もう二度と取り返すことなどできない」
私はそれを、強く感じた。
悠が事故に遭い、意識不明の重体になって……どれだけ、生きているという、それだけのことが大きな価値があるのか、身を以て知った。
「美姫。分かってくれとは言えない。
だが、私は……ずっと、愛される喜びを知らずに育った。それが、ようやく凛子とお前によって、家族をもつ喜びを、愛し、愛されることの喜びを知ったんだ。
それがたとえ、人の道に反することだとしても、私は……後悔はしていない」
後悔していないという言葉を聞き、美姫は顔を青ざめた。
「お父、様……」
「美姫。お前は私の宝だ。何としてでも手に入れたかった、幸せの象徴、証なんだ。お前には……お前にだけは、幸せになって欲しい。
お前が秀一を好きだなんて、嘘だろう? 恋人、だなんてそんなこと……あるはず、ないよな?」
誠一郎が、必死の形相で美姫に迫る。美姫は、拳を固く握り締めた。
「み……美姫。どうして、ここへ……」
誠一郎は、真っ青な顔をして立っていた。美姫は二人の顔を見られず、俯いたままだった。
「話を聞かれてしまった以上、隠すことは出来ませんね。
美姫、中へ入ってください」
秀一の有無を言わせぬ態度に、美姫は力なく立ち上がった。
まだ膝が震える美姫の腰を、秀一が支えた。誠一郎はそれを黙って見つめる。
もうふたりの関係が単なる叔父と姪の関係ではないと知ってしまった父は、秀一に抱き抱えられている自分をどのように感じているのかと思うと、美姫はいたたまれなかった。
美姫はリビングのソファに腰掛け、押し黙ったままだった。
いつもなら美姫と誠一郎、秀一、そして母凛子がいるリビングには明るい笑い声が響いていた。それが今は嘘かのように、重苦しい空気に包まれている。
美姫の顔色は雪のように白く、唇が震えていた。聞きたいことは山のようにあったが、いろんなことで頭をグチャグチャに掻き回され、混乱していた。
前に座る誠一郎も同じく押し黙り、一言も発さない。重く暗い雰囲気が部屋全体を覆っていく。
そんな中、美姫はようやく重い口を開いた。
「秀一さんも……お父様も……ずっと、私を騙していたんですね……」
私ひとりだけ、何も知らなかった。
お父様がどれだけ来栖の家で辛い思いをしていたのか。
祖父母への憎しみと恨み。そして、殺意……
仲がいいと思っていたはずの父と叔父の愛憎。
私、だけが何も知らずにぬくぬくと生きていた。
ふたりが、こんな苦悩を背負っていただなんて、知らずに……
美姫は、こみ上げてくる嗚咽を抑える術をもたなかった。
誠一郎が肩を落とす。
「言えるはずが……ないだろう。
お前の祖父母を、見殺しにした……だなんて」
苦しそうにそう告げた父はがっくりと項垂れ、一気に老け込んだように見えた。いつもハツラツとした明るい父の表情しか見たことのなかった美姫は、それがショックだった。
「……私の幸せは、お祖父様とお祖母様の犠牲の上に成り立っていたものだったんですね。
お祖父様とお祖母様が死ななければ、私は……ッグここに……いる、ことは……ヒグッな、かった……ウゥッ」
美姫の言葉に、誠一郎は衝撃を受けた。
何としてでも守り抜きたいと思っていたはずの大切な娘が、自身の存在を否定することは、罪を責められることよりも苦しかった。
誠一郎は瞳に涙を滲ませ、美姫に向き合うと力強く言う。
「美姫。お前は望まれて生まれてきた、私と凛子の大切な娘だ。
お前が生まれた時のことを以前に話しただろう? どんなに嬉しかったことか。お前と凛子のいない人生など、私には考えられないんだ」
父の言葉を嬉しく感じながらも、美姫は祖父母への罪悪感を消すことは出来なかった。
「ッグッ……だからって……私、には……お祖父様とお祖母様を殺していいだなんて、思えない。
どれだけ辛い状況にあったか、私には想像することはできません。
けれど、どんなことがあろうと……命は、命です。失ってしまったら、もう二度と取り返すことなどできない」
私はそれを、強く感じた。
悠が事故に遭い、意識不明の重体になって……どれだけ、生きているという、それだけのことが大きな価値があるのか、身を以て知った。
「美姫。分かってくれとは言えない。
だが、私は……ずっと、愛される喜びを知らずに育った。それが、ようやく凛子とお前によって、家族をもつ喜びを、愛し、愛されることの喜びを知ったんだ。
それがたとえ、人の道に反することだとしても、私は……後悔はしていない」
後悔していないという言葉を聞き、美姫は顔を青ざめた。
「お父、様……」
「美姫。お前は私の宝だ。何としてでも手に入れたかった、幸せの象徴、証なんだ。お前には……お前にだけは、幸せになって欲しい。
お前が秀一を好きだなんて、嘘だろう? 恋人、だなんてそんなこと……あるはず、ないよな?」
誠一郎が、必死の形相で美姫に迫る。美姫は、拳を固く握り締めた。
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