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258.心細い気持ち
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けれど、そんな悩みが解決しないまま結局当日を迎えてしまった。
玄関のインターホンが鳴り、慌てて立ち上がった美羽に声が掛かる。
「私も行くわ」
華江はまるでパーティーにでも出席するかのように、薄紫のブランドスーツに身を包み、カサブランカのコサージュを胸元に飾り、真珠のネックレスとイヤリングをつけていた。
扉を開けると、休日にも関わらずスーツを着た義昭が固い表情で立っていた。
「初めまして。美羽さんとお付き合いさせていただいている朝野義昭と申します。本日はお招きくださり、ありがとうございます」
頭を深く下げた義昭を華江が上から下、下から上へと値踏みするように見つめ、隣に立つ美羽にしか聞こえないぐらいの声の大きさで「冴えないわね」と言ってから、フッと笑みを浮かべた。
「いらっしゃい。お待ちしてたのよ。どうぞお上りになって」
「は、はい。すみません。お邪魔します」
義昭が恐縮しながら靴を脱ぎ、敷居を跨ぐ。
これからどんなやり取りが行われるのかと、美羽は気が気ではなかった。
リビングのソファには既に拓斗が座っており、その隣に華江が腰掛け、向かいに美羽と義昭が座る形となった。ピリピリとした空気が漂う中、美羽は視線を巡らせた。
あれっ、隼斗兄さんは……?
今日は親族紹介ということで、客として義昭のことは顔見知りである隼斗も席に着くよう言われている。
不安が広がっていると、隼斗が大きな手で器用に皿を4枚持ち、リビングへと入って来た。安堵しながら目の前に置かれたモンブランを見て、美羽が隼斗を見上げる。
「隼斗兄さん、ありがとう。これ、お店で出す新作?」
店で出しているのは細いマロンクリームを螺旋状に山の形にしているモンブランだが、これは折り畳まれた襞が重なってババロアのような形をしており、トップに生クリーム、更にその上には大粒の栗が載っていて、上品な雰囲気だった。
「いい和栗が手に入ったから、作ってみたんだ」
ひとこと言うと、隼斗はキッチンへと戻っていった。きっと、モンブランに合う紅茶を用意してくれるのだろう。
隼斗と短い会話を交わしただけなのに、それだけで硬くなっていた緊張の糸が解された。この場に隼斗がいてくれることが、とても心強い。
だが、紅茶がサーブされ、それぞれの軽い自己紹介が終わると、隼斗がスックと立ち上がった。
「悪いが、俺はこれで」
「えっ、隼斗兄さん……行っちゃうの?」
美羽が縋るように隼斗を見上げた。
「あぁ。店が心配だからな」
今日はカフェは休みにせず、ランチメニューをなくして飲み物とデザートの提供のみで店をオープンしている。そうは言っても、今日は日曜だ。以前店で働いていた人にヘルプに来てもらっているとはいえ、厨房は今頃てんてこまいになっていることだろう。サーバー側は絵麻という心強い存在がいるが、それでも多忙な中、店長不在で困っているはずだ。
そんな中、貴重な時間を割いてもらえただけでもありがたいと思わなければいけないが、それでも頼みの隼斗がいなくなるのは美羽にとって心細かった。
玄関のインターホンが鳴り、慌てて立ち上がった美羽に声が掛かる。
「私も行くわ」
華江はまるでパーティーにでも出席するかのように、薄紫のブランドスーツに身を包み、カサブランカのコサージュを胸元に飾り、真珠のネックレスとイヤリングをつけていた。
扉を開けると、休日にも関わらずスーツを着た義昭が固い表情で立っていた。
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義昭が恐縮しながら靴を脱ぎ、敷居を跨ぐ。
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「隼斗兄さん、ありがとう。これ、お店で出す新作?」
店で出しているのは細いマロンクリームを螺旋状に山の形にしているモンブランだが、これは折り畳まれた襞が重なってババロアのような形をしており、トップに生クリーム、更にその上には大粒の栗が載っていて、上品な雰囲気だった。
「いい和栗が手に入ったから、作ってみたんだ」
ひとこと言うと、隼斗はキッチンへと戻っていった。きっと、モンブランに合う紅茶を用意してくれるのだろう。
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「悪いが、俺はこれで」
「えっ、隼斗兄さん……行っちゃうの?」
美羽が縋るように隼斗を見上げた。
「あぁ。店が心配だからな」
今日はカフェは休みにせず、ランチメニューをなくして飲み物とデザートの提供のみで店をオープンしている。そうは言っても、今日は日曜だ。以前店で働いていた人にヘルプに来てもらっているとはいえ、厨房は今頃てんてこまいになっていることだろう。サーバー側は絵麻という心強い存在がいるが、それでも多忙な中、店長不在で困っているはずだ。
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